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【備忘録】デザインリサーチの教科書(木浦幹雄、2020年)

▮読後感

使い古された言葉である「お客様は神様」と、デザインリサーチでいう「ユーザー中心」は異なる。ペルソナという架空の顧客を定義するのではなく、あくまで顧客のニーズを深掘りし、そこから本当の課題を発見し、そして解決策を導く。そうした一連の事柄について書かれている本。

ロジカルシンキングでは、VUCAの時代に十分な思考ができない。デザインシンキングがこうした時代に求められている。

私が公共性政策大学院で学んだのは主に定量評価などであり、どちらかといえばロジカルシンキングだったように思う。EBPMの潮流が押し寄せてきている中で、そうしたことをまなび実践してきたことは意義あることだと考える。しかし、政策立案においてロジカル新規軍だけで不十分だ。全く意味がないとはいえないが、これから求められる資質からすると、その半分しか得ていないことになる。

何が問題かを定義する。これが非常に重要であり、ロジカルシンキングだけではなかなか解決できない課題であると思う。本書は、デザインリサーチと呼ばれる手法について、教科書と銘打っている通り、一通りのやり方を丁寧に記載しています。デザイン思考をどのように実務に活かしていこうとするのかを考えるには最適の一冊だと思います。

▮気になった個所(備忘録)

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ロジカルシンキングの限界
(1)インターネットやテクノロジーの進歩委によって、情報の入手難易度が大きく下がった点
(2)情報の入手難易度が大きく下がったことによって、一瞬にして大量の情報を掴める点
(3)人々の要求の高まりとWicked Problem(厄介な問題)の顕在化

Wicked problemとは、
・解くべき問いが不完全で、矛盾し、要件が常に変化しており、一意に定めることが難しい
・社会的な複雑さのために誰もが納得できる「解決」といえるような点がない。
・課題同士が複雑な依存関係を持っているために、ひとつの問題を解決しようとしても、他の問題が顕在化したり、あるいは新たな問題が生じたりする。
(p35-36)

筆者が所属していたCIIDでは、デザイナーの役割、あるいはプロダクト開発においてデザイナーが関わるべきフェーズは次の3つであると定義している。
・Opportunity Scout(機会発見)
・Storytelling(ストーリーテリング)
・Execution(エグゼキューション)
機会発見とは、ユーザーインタビューを実施したり、あるいはユーザーの行動を観察するなどして、そこからインスピレーションを得て、イノベーションのためにどのような領域が存在するかを発見することである。ストーリーテリングとは、発見した機会を、同僚あるいは潜在的な顧客に伝えることである。そしてエグゼキューションとは、デザインを現実のものとすることである。
(p40)

課題を解決するための方法を直接検討するのではなく、一度機会に変換する。そしてそこから課題を解くためのソリューションを探索するのである。つまり、デザインリサーチは可能性のある選択肢を見つけ出すことによって、より良いソリューションを実現するための方法であるともいえる。
(p52)

マーケティングリサーチとデザインリサーチの違いについて一言で述べるとすれば、リサーチの目的が違うといえるだろう。マーケティングリサーチでは、マーケットの状況に応じて、既存の製品やサービスをどのように改善すればより消費者にとって受け入れられやすくなるかを探るため実施されることが多い。一方で、デザインリサーチは新しいプロダクトを創出するために、あるいは既存のプロダクトを改善するために、言い換えれば新たなイノベーションを起こすために実施されることが多い。
(p69)

デザインリサーチでは統計データよりもまず一人ひとりに注目し、人々を集団として扱うようなことをしない。私たちは一人ひとりが異なる考え方や生活様式を持っており、一人として同じ人間はこのように存在しないからだ。人々を安易に抽象化したり、グルーピングしたとしても、それは人々を理解したことにならないのである。
デザインリサーチでは、目の前にいる一人に対してじっくりとインタビューをしたり、一緒に行動したりすることで、その人が普段何を考え、どのような生活を送っているのか、何を大切にし何を求めているかについて理解を試みる。そのような丁寧なリサーチを通して得られた情報をもとに分析を重ねることによって、その人が本当に必要としているものを導き出すのである。
(p72)

デザインリサーチではできる限り、ユーザーが普段過ごしている環境でのインタビューや観察を試みる。例えば、新しい調理器具開発に関するリサーチであればユーザーの自宅にある台所にお邪魔して、どのように料理をしているのかを観察することになるだろう。
(p74-75)

デザインリサーチでは一次情報を重要視する。これは人々との対話などもそうであるし、観察や体験も含まれる。
(p77)

デザイン思考といえば新しいプロダクトやサービスを作り出すイメージが強いが、全くのゼロから新規プロダクトを検討するプロジェクトと同等かそれ以上に、既存のプロダクトをどうやって改善するかにフォーカスを当てることが多い。
(p91)

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定められた問題の中でのみ試行錯誤を繰り返すのではアウトプットとしてのソリューションに限界があり、いかにして問題の枠を定義し直しイノベーションへ導くか。
(p104)

ダブルダイヤモンド以外にもデザインプロセスを理解する助けとなる図を紹介しよう。スタンフォード大学d.schoolが提案したといわれる「5step」と呼ばれるデザインプロセスである。

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チームビルディングの手法として紹介されている様々な手法は「Tuckman`s stages of group development」と呼ばれる考え方をベースとしていることが多い。これはBruce Tuckmanが提唱したモデルでチームの成長を「Form」「Storm」「Norm」「Perform」の4つのステップに分け、チームがどのように成長していくかを示したものである。
(p120)

適切なフィードバックとは、過去ではなく、未来に焦点を当てるのである。つまり、過去の行為や仕事を批判するのではなく、今後、どうしてほしいか、どうするとより良くなるのか?についてコメントすべきである。
(p142)

我々はプロジェクトに取り組む際に、アウトプットに目が行きがちであるが、前述した通りリサーチにおいて重要なのはアウトカムだ。綺麗な資料はクライアントを満足させるかもしれないが、クライアントのビジネスにとってどの程度のインパクトを与えられるかは別である。
(p152)

一般的にデザインリサーチを実施する際には、デプスインタビューを中心にリサーチを組み立てる場合が多い。
…デザインリサーチにおいて、デプスインタビューといった場合、半構造化インタビューを指すことが多い。
(p155-156)

調査フェーズにおいて適切な人から話を聞くことができるか否かがデザインリサーチの成果を左右するといっても過言ではなく、インタビュー対象者の選定に多くの時間をかけることも珍しくない。適切でない人を対象にどれほどインタビューを繰り返しても、有益な情報を得られないどころか、誤った方向にプロジェクトが向かってしまう恐れがある。
(p159)

意味のあるリサーチとは、人々のより本質的な情報を得ることである。

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ペルソナは、実際の戦略を検討する際には有用な場合もあるが、デザインリサーチで活用されるシーンは多くない。デザインリサーチで注目すべきは実在する目の前の人物であって、架空のキャラクターではない。…それは人々をペルソナのような形で抽象化することとはまた異なる。
(p204)

人々がソリューションを評価する際には、ビジネスとして成立するか、技術的に実現可能かどうかといった観点よりも、ユーザーの都合が優先されるべきである。つまり、実際に課題を抱える人々が、このように解決されると嬉しいと考えた上でソリューションが評価されることが望ましい。
(p214)

同じプロジェクトに参加しているとはいえ、各メンバーは異なるバックグラウンドを持ち、異なるスキルや知識を持ち、興味を持っている分野も異なることが常である。同じものを見たり、同じ話を聞いたとしても、そこから受ける印象は大きく異なるかもしれない。よって、調査を通して得た情報を改めて共有し共に分析することで、そこから新しい発見が生まれる可能性が高い。
(p222)

リサーチ分析の手順
ダウンロード:調査フェーズで集めた情報を整理しチーム内で共有すること
テーマ作成(分類):ダウンロードした情報を分類し、そこから意味を見いだすこと
インサイト抽出:作成したテーマをもとに、私たちに新たなインスピレーションを与える文章を作成すること
機会発見(How Might We作成):インサイトをもとに解くべき課題と、そのためのアプローチを設定すること
(p223-224)

デザインリサーチプロジェクトにおいては、情報を目に見える形にすることを心がけよう。
(p231)

インサイトは、その文章だけで読み手に状況を適切に伝えられなければならない。ここで述べる読み手とは、これまでリサーチに関わってこなかったステークホルダーなども含まれる。
(p238)

How Might Weとはアイデアを出すための発射台と考えてもよいが、「どうすれば我々は○○できるだろうか?」のような質問形式で表現される文章のことである。
(p239)

How Might Weは、対象となるユーザー、ゴール、制約から構成され、「どのようにすれば私たちは【対象となるユーザー】のために【制約】を考慮しながら【ゴール】を提供できるだろうか」のような文章になる。
…ここでのゴールは、前節で作成したインサイトから提供されるため多少の主観が入っても構わない。一方で、対象となるユーザーや、制約についてはリサーチで得られた、ある程度客観的な情報から作成する。
(p246)

ゴールを定義するときに注意すべきは、前向きで建設的な文章となるように心がけることだ。IDEO創業者らの著書『クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』(トム・ケリー、デイヴィッド・ケリー著、日経BP)でも説明されているように、ネガティブな言葉遣いは、新しいアイデアの創出を阻害する。
(p246)

問いをいかに定義するかによって、ソリューションの幅をコントロールすることができる
…問いは広ければ良いというものでもない。(p248)

制約がある場合と制約がない場合では、制約があったほうが面白いアイデアが出る可能性が高い。…私たちは制約がないと、どんなアイデアを出したらよいかわからなくなってしまうのである。
(p252)

How Might Weを設定してみたものの、アイデアがそもそも出てこないという場合もある。問題が難しすぎるとか、制約が厳しすぎるといった理由があるかもしれない。
(p259)

アイデアは質より量であるものの、独立したアイデアをとにかく出すだけではなく、他人のアイデアに便乗したり、そこからインスピレーションを得ることにこそ価値があるケースが多い。また、ゼロから新しいアイデアを考えるよりも、他人のアイデアをちょっと良くする方が実は簡単だったりする。
(p259-260)

良いコンセプトを生み出すためのアイディエーションとは
・良いコンセプトを生み出すためには、適切な幅と深さのあるアイデア群から絞り込みを行うこと。
・適切な幅と深さのあるアイデア群を作るためには、定義された問いの中で集中的にアイデアを出し、ブラッシュアップを行うこと。
・適切なアイデアを出すためには、適切に問いを定義すること。
(p259-260)

アイデアを選択する時には、まず評価軸を定める。
…場に出たアイデアを見ながら基準を作ってはならない。これをしてしまうと特定のアイデアを採用するために、あるいは落とすためにバイアスが含まれた評価基準になってしまう可能性が高い。
(p279)

アイディエーションを経て、適切な愛でが出てこない場合、How Might Weが適切でない可能性がある。適切でないといってもいくつかのパターンが想定される。問いの設定が広すぎる場合、狭すぎる場合、そして問題が問題ではなかった場合、課題へのアプローチが適切ではなかった場合である。
(p281)

コンセプトを作成する目的
・リサーチを通して得られた知見をステークホルダーに伝える
・プロダクトに関するアイデアをより具体的な形で検証する
(p284)

リサーチを通して見いだした様々な情報は、プロダクトのデザインを行うためのインプットとなる。プロダクトをデザインするためには、どのような情報があればよいだろうか。
・インサイト
・解くべき問い(How Might We)
・問いに対するアプローチの例(コンセプト)
・人々を理解するための情報(ペルソナやカスタマージャーニーなど)
(p289)

デザインリサーチにおけるペルソナは、現在の顧客ではなく将来の顧客である。
(p292)

プロトタイピングの目的
1 そのプロダクトがユーザーにとって価値があるかを検証する
2 そのプロダクトが実現可能かを検証する
3 そのプロダクトが持続可能かを検証する
(p296-297)

「アイデアがあるから、とりあえずプロトタイプを作ってみる」ではなく、そもそも自分たちが何を確認したいのかを確認してからプロトタイピングに取り組んで欲しい。
(p301)

デザインリサーチにおける基本的な考え方はクイック&ダーティーであり、早く失敗すること、多く失敗することが重要とされる。
(p306)

ユーザーテストをする場合に、確認すべき項目をいくつか紹介する。これはあくまでも例であり、プロダクトの性質によって随時組み替えて使用して欲しい。
―ユーザーは、プロトタイプを見る前に、プロダクトに対して何を期待しているのだろうか?
―プロダクトはユーザーが抱えている問題に対処しているだろうか?
―彼らはプロダクトがどのような見た目であると期待しているだろうか?
―プロトタイプを見せた時、彼らはプロダクトの使いかとぉ理解できるだろうか?
―彼らはそれを必要としているだろうか?欲しい、または使いたいと思うだろうか?
―プロダクトはどのようにして彼らの期待に応えるだろうか?
―現在のプロダクトに欠けている機能は何だろうか?
―現在のプロダクトに不要なものはあるだろうか?
―プロトタイプを使用する時、ユーザーはどのように感じるだろうか?
―ユーザーが魔法の杖を持っていたら、彼らはプロダクトをどのように変えるだろうか?
―プロダクトが利用可能だったとして、ユーザーはそれをどのようにして手に入れることができるだろうか?
(p309)

私たちはアイデアを出すことに積極的に投資してこなかったように思う。企業の中でビジネスプランコンテストのようなものがあったとしても、コンテストに提出するアイデアを創り、練ることに時間をかけることが認められることは稀で、多くの企業は従業員のモチベーションにフリーライドしている実情がある。一方で、海外ではデザインリサーチに関するマーケットが日本とは比較にならないほど大きくなり、デザインリサーチが必ず重要なイノベーションドライバーとなっている。
(p347)

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。その後、民間企業での政策渉外活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。


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