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デフ・ハッカソンを企画して得た学び-チーム開発のコミュニケーション

こんばんは.ふじえもんです.
デフエンジニアの会でデフ・ハッカソンを企画して,無事終了したので,準備中に考えていたこととか,得た学びなどをメモします.

この記事はデフエンジニアの会Advent Calendar2023の12月18日に投稿分の記事です.

この記事の概要

  • ろう・難聴者対象のものづくりイベントを企画しました!

  • チーム開発におけるコミュニケーションって何が大事?何が起きている?

    • 互いに伝える,伝わることがまず大事!

  • ライブラリを使う時はブログじゃなくて公式ドキュメントにまず当たろう

  • 運営楽しいよ!学びがたくさん!何か気になるなら自分でやってみよう!


なんで企画しようと思ったの?

なんで?

まず,なんでハッカソンをやりたかったのか背景を書きます.

一昨年の某ハッカソンへの参加をきっかけに,チーム開発におけるコミュニケーションって何が大事なのかを考えるようになりました.
聴者とろう・難聴者によるチーム開発でうまくコミュニケーションが取れず思うように進まなかったからです.

このことは去年のアドカレにも書いています.

このことは自分たちだけの問題ではなく,広く社会でも,学校や企業でも,コミュニケーションがうまく取れず仕事や意思伝達がスムーズに進まない場面があることを方々で知りました.
情報保障がなされていなかったり,正しく行われていなかったり,聴覚障害や関するコミュニケーション,情報保障についての理解が足りていないことがあるようです.全てがそうではなく,いくつかの企業では聴覚障害への理解促進や職場環境の改善に向けて取り組んでいます.

例えば,NTTテクノクロス株式会社での取り組みがあります.
ツナガル・ブック™︎は当事者が中心となって作り上げたとのことで,聴覚障害について,またコミュニケーションや困りごとについてよくまとまっている資料です.

それから上記の取り組みについて素敵な記事があるのでこちらも共有させてください.

デフエンジニアの会代表,まみねこさんにはいつも大変お世話になっております.こないだは技術書典にもお誘いいただきました.
本当にありがとうございます.🙇

自分で企画してみよう

そこで,まずはデフ(ろう・難聴者)だけでハッカソン(短期間でのチームでのものづくり)をやりたいと考えました.ろう・難聴者間での開発におけるコミュニケーションってどうやったらスムーズに進むのか,何が障壁となるのかを実際にやってみたり,様子を見たかったからです.

もちろん,状況によって合うコミュニケーションや方法は異なります.

具体例をいくつかみてみると,一般化できるような根本的な問題や何かが見つかるのではないかと思いました.
また,その具体例を何かの媒体にまとめることで,他者も参照することができ,彼らの問題の解決への材料,ヒントになるのではと考えました.

プロフにも企画が実現するまでずっと(1年ぐらい?)書いていました.

X(当時はTwitter)のプロフ


また,下記の記事を読んでいただくと,ふじえもんの2022年のチーム開発の経験の一つであるハッカソンへの参加状況をなんとなくわかっていただけるんじゃないかなと思います.

様々な経験を経て,ろう・難聴者のチーム開発中のコミュニケーションってどうすればうまくいくんだろう?うまくいかないと感じたならば,それは何が原因だろう?と考えていました.

毎回違う人と開発するたびに発見があり,新たな工夫を試し続けています.

とある講義で試したことがたまたまうまく効果を発揮し,RSGT2023でProposalを採択いただき,45分間お話ししたこともあります.
どの日も多くの学びがあったので記事にして,マガジンにまとめています.
登壇日は1日目なのでDay1の記事を読んでいただくと発表内容などがわかります.

上記のDay3の記事の後半で描いた,聴者とろう・難聴者のコミュニケーションについては,また別のお話.
これも1年かけて試行錯誤中です.
某カンファレンスにもプロポーザルは出しましたが不採択でした…またどこかで出します.

そして,ハッカソンに参加して,ものづくりの楽しさや誰かと相談して開発する楽しさを知り,自分で探求したいことがあるならハッカソンを企画してしまえばいいじゃないか!とTwitterのプロフに書いてみたのが始まりです.

そしたら,デフエンジニアの会を運営されているまみねこさんから「うちでハッカソンをやってみませんか?」とDMをいただき,なんやかんやあり一年越しに実現しました.
そのタイミングでデフエンジニアの会にお邪魔して,で提案したのが始まりです.
ちなみに,対面でのイベントをやるのはほとんど無かったらしく,今回のハッカソンが初めてとのことです.

準備したこと

さて,企画を実行するにあたり,いろいろ準備してきました.

長くなりそうだったので,詳細はこちらの記事に書きました.
興味があれば読んでみてください.

↑の要約を箇条書きにしてみました.

  1. ふじえもんによるデフ・ハッカソン企画についての紹介.

  2. 「聴覚障害✖️AI」をテーマにしたハッカソンの準備と考えたこと.

  3. ハッカソンの一般的な流れと特定の例の紹介.

  4. ペアプロ(二人一組での開発)を採用し,初心者と経験者を組み合わせることを重視.

  5. ハッカソン当日のスケジュール:オープニング,ブレインストーミング,アイデア発表,ペア分け,開発,昼食,再開,コードフリーズ,プロジェクト発表,レビュー,閉会,懇親会.

  6. 開発時間は約4時間半,参加者からは「短い」との意見も.

  7. 準備段階では企画仲間集め,日程決定,会場確保,最小限の努力での価値提供を心がける.

  8. 当日は口話+手話+Google Meet字幕で情報伝達,アイデア出しとペア決めは当日行う.

  9. 発表時は手話と口話を使用し,共有ドキュメントで参加者間のインタラクションを促進.

  10. 終了後はアンケートでフィードバックを収集,Scrapboxに記録を残す.

  11. 今後は聴者も交えたチーム開発のコミュニケーション方法を探るハッカソンの企画も検討中.

ふじえもんのペアはどうやってコミュニケーションしたの?

当日のコミュニケーションをふりかえってみます.

学生のふじえもんと社会人のAさん(仮名)がペアになりました.
ちなみに,Aさんには運営メンバーとしてご協力いただいた一人です.

成果物と開発環境

音の検知に関するアイデアについて取り組むことになりました.
成果物はこちら.READMEに動作している様子のスクショがあります.

開発環境は,Repl.itを使いました.
ブラウザ上で,複数人で同時に編集できる開発環境です.デプロイもしやすいです.

コミュニケーション

コミュニケーション方法は,中間型手話をメインに,口話もあわせて使いました.
ほかに,コメントアウトに書いたり,タブレットにシステム構成図を書いたりしました.自分が知らない単語の意味を確認したり,大まかな流れを図に示しました.コメントアウトを積極的に使い,自分が考えていることをテキストに起こしたり,相手が書いたコードに対して,「ここがわからないです.」と率直に書いたりしていました.

ふじえもんがドライバーをやっているときに,参照したコードの意味やなんでこう書けるのかがわからないときに,コメントアウトで書いて,相手に知らせることをしていました.
コードの内容を手話で伝えたり口頭で伝えるのって難しいんですよね.
直接コードを指差したり,近くにコメントアウトで疑問や自分の解釈を書いてみると,相手に伝えやすいことに気がつきました.

そうすると,Aさんも,自分がコーディングする前に,今からやることをコメントアウトで書いたり,ぼくがついていけていなさそうなときには,丁寧にコメントアウトを使って,コードの説明をしてくださいました.

コメントアウトすると,あるタイミングで「こういうところがわからなかったです」とか,「こういう処理を今書きたいけど,この処理の書き方だと無駄に長そうなんですけど,どうしたらいいですか」とかそういう相談の様子がテキストとして残ります.
そうすると,お互いの理解の具合とか知識が徐々に伝わってきて,相手に合った説明の仕方や表現,方法を使い分けられるようになっていきます.
わからないことをわからないと相手に伝えること,またそれが伝えられるような空気感は非常に大事ですね.

他のペアのコミュニケーション

さて,他のペアのコミュニケーションはどうだったのでしょうか.

やはり似たように手話で話したり,付箋を使って今やっていることの確認をしていたようです.専門用語の表出は難しいのか,筆談で文字にして相手に見せるということもしていたようです.
またホワイトボードを使って,フロントエンドとバックエンドで使うライブラリや役目を書き出すペアもいました.

ほかのホワイトボードの使い方としては,解決したい問題を深掘りするために,言葉として,あるいは矢印や色を使って,共通認識を言語化しようとする試みが見られました.下記のような流れです.

  1. 解決したい問題を1文で書き出す

  2. それがどういうことか詳しく書き出す.

    1. 価値になりそうなものを書き出す

    2. なんでそれが価値だと思ったのか書き出す

    3. 他にあるとユーザーが嬉しいものを書き出す

  3. それらをどうやって機能として実装するかを書き出す

だいたい隣同士で座って1つのPCを見ながらあーでもないこーでもないと話している様子でした.
また,ある時には立ち上がってホワイトボードに付箋を貼ったりペンで関係性を書いたりしながらコミュニケーションする様子も見られました.
社会人と学生のペアになるように組んだので,例えば以下のようなコミュニケーションがやりとりされていました.
🧑(社会人):この技術使ったことある?
🧑‍🎓(学生):無いです.調べてみます.これってこういうものですか?
🧑(社会人):そうそう.ほかにもこんなことできるよ.

片方が何かしらの知識を持っているので,互いにわからないという状況が発生しにくく,ペアプロの特徴や良さがよく現れていた印象でした.
コミュニケーションがそれだけ円滑だったのか,4時間半という超短い開発時間,しかも初対面!にもかかわらず,動くものをデモしてプレゼンするペアがすべてでした.すごい!!👏👏👏
プレゼンを聞いていてとても楽しかったし,発表するときもいくつかフィードバックをもらうことができて非常に楽しかったです.これまでのハッカソンで一番楽しかったかも.

学び

運営側としてもプレイヤーとしても多くの学びがありました.
箇条書きで思いつくだけ書き出してみます.

運営目線

  • 参加者に何を持ち帰ってほしいかを考えるのが楽しい

    • どんな学びが期待できるか

    • 運営がやりたいこととそれで届けられるものって何か

    • どんな人が参加してくれそうか

  • 場所決め,時間決め,参加者募集大変!!運営の苦労がホンノチョットわかった!

    • 自分一人だけではやれることが狭いし,大変だし,疲れてしまう

    • 周りの身近な人から仲間を募って,疲れずに続けられるようにすると楽(Be Lazy)

  • なるべく楽に価値を提供するためにどう動けばいいかわかった

    • デフ・ハッカソンに参加する価値は「当事者同士で当事者の問題を解決できること」かな

    • 最低限,場所と時間とテーマを提供すれば,あとはそれぞれで開発できる!

    • 複数人で分担して動く

    • やることや進捗を常に共有しておく

    • 何か困ったら,気づいたことがあればすぐに相談!

      • 意外とすぐに解決したりする

      • 自分の視野だけじゃ見えないこともある

  • 全員に情報伝達できるように,やれることをやれる範囲でやる

    • 聴覚障害がある方が参加することがわかっていたので,

    • 十分なボリュームの音量やハウリングの防止はもちろん,

    • 視覚的にも伝えるようにしました

      • 手話

      • 文字

        • 音声認識アプリ

        • 字幕

        • 読めば十分にわかるようにスライドをつくる

    • ほか,補聴援助システムなどの使用も求められたら使い方を確認して,問題なく接続できるか使用できるか当事者に確認しました

    • 聴覚障害向けの情報保障については,大学で専門として勉強していて,知識としてはもちろん,いろんな場面でユーザーとしてあるいは提供者として利活用している経験があります.

そういえば情報保障の準備とか運営って,どこで学べるんだろう?
発信しているブログ記事もあんまり無くて,提供したいけどやり方がわからなかったりするんだろうか.

参加者目線

Aさんとのペアプロで学んだことを書きます.

  • 何かのライブラリを使う時には,まず公式ドキュメントを読む

    • 当たり前のことかもしれないけど

    • ブログのような二次情報をすぐに当たりがち

      • 確かに日本語で書かれていてわかりやすいけど,

      • プログラムの挙動,外部仕様を本質的に理解できるわけではない

    • どう動いているのかをみるのが目的

  • サンプルコードがあればそれをコピペして動かしてみる

    • とりあえず動かしてみる

      • 何ができるかがわかる

      • その環境でどう動かせばいいかもわかる

    • 足りないものや要らないものを調整する

      • 意外とそれでできちゃうかもしれない

  • コンソールをデバッグに活用すること

    • どこでエラーが出ているかの確認

    • 結果の確認

  • 短くコードを書くこと

    • ここで三項演算子の存在を知りました

  • コメントアウトを積極的に書き,互いに考えたことを可視化したのは良い試みだった

    • チャット代わりに使っていました

    • 別でチャットツール開くの面倒だし,どのコードについての質問なのかがわかりやすい

  • 思った以上に,あれこれつくり,動くものを作れたのがなにより

    • これはほんとそう

    • とにかく小さくても動くものを作ろうとしていたのが印象的でした

  • 伝えようとすることがまず大事

    • 使えるものはなんでも使う

    • 互いに伝わっているか,相手の話をきいてわからなかったことはないかをよく気にすること

コミュニケーションがうまく進むと,過程や成果にポジティブに現れるんだということを学んだ1日でした.
聴者とろう・難聴者が混じったとしてもこううまくできるといいのに.
そもそもの情報伝達が成り立っていなかったり,わからないことをわからないままわかっているふりをして,なあなあで進めてしまったり...
そういった場面は何も聴こえの程度に限らず起きることだとは思いますが,音声中心の社会では,まだまだコミュニケーションにおいて障壁があるように思います.

次試してみたいこと

さてやってみると,次々と試してみたいこと,やってみたいことが湧き上がりました.
やるかわからないですが,やってみたいことを書き出してみます.
興味があれば,ぜひ一緒にやりましょう.

今回出たアイデアの続き,検証

たっくさんのアイデアが出ました!数が多くここでは書ききれないのでまたどこかで機会があればお披露目します.技術書典15で販売した本には記載しています.もしご興味があれば電子書籍版が購入できますのでなにとぞ!

参加者が課題やプロダクトを持ち寄り,みんなで考えてみる

こんなテーマでやりたい!という意見を持ち込んでもらって,それをみんなで取り組んでみるのはどうでしょうか.
あるいはすでに個人開発や共同開発しているプロダクトがあれば,そのデモやプレゼンをしてフィードバックをもらったり,改善する時間に当てても良さそうです.
先日,開発サークルUN-FROZENでLT会をしたとき,メンバーから面白そうな提案があったので,それをやってみたいなーと思っています.

聴者とろう・難聴者とでペア・チームを作ってみる

もうちょっと回を重ねたら,こちらもやりたいなーと思ってます.
どれぐらい興味がある方がいらっしゃるかわからないのですが,チーム開発でのコミュニケーションについて考えたり,聴覚障害があって困ることを解決するようなプロダクトを一緒に作ってみませんか.

さいごに

長くなりましたが,1回目のデフ・ハッカソンをやってみて学んだこと,次に試してみたいことを書きました.
まだまだ聴こえに関係なく発言できる、伝わる環境づくりは続きます.
他の取り組みだと,先日,アクセシビリティ研究会でろう・難聴者と聴者のグループ対話について報告しました.その様子は↓の記事から読めます.

それから,表には出してないけど1年ぐらい続けている取り組みもあったりします.こちらは来年どこかで話す機会があるかもしれない.

ハッカソン終了後に感想をフォームでもらったのですが,飲み会(ハッカソン後にご飯を食べに行きました)での会話も,何かしら学びになるようなことがあったようです.楽しんでもらえたようで運営やって良かったなーと思いました.

イベント企画しよう!学びがたくさんあって楽しいよ!

感想などあればXでお待ちしてます.

ほかのアドカレも面白いのがたくさんあるのでぜひご覧ください.

以上.ふじえもん.

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