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【ショートショート】ねぇ、気づいてよ

「面倒くさいなぁ」

 そう呟く彼女と目が合う。先生の手伝いだろうか、腕いっぱいのノートを運んでいる。ここはひとつ声をかけてみよう。ここ数カ月の間、困っている彼女を見つけてはそうやって助け舟を出してきた。何故かって? 野暮なことは聞かないでくれ。そろそろ彼女にも僕の気持ちに気づいて欲しいところだ。

「佐倉さん、手伝おうか?」

「か、片山君 !?」

「一人だとその量は大変でしょ。ほら、持つよ」

「あ、ありがとう……」

「いいよいいよ。優等生で一番前の席だからって、毎週のように佐倉さんに運ばせてるよね。いつも面倒じゃない?」

「そ、そうだね」

「だよね、さっきも呟いてたし」

「えっ、聞こえてた!?」

「うん」

 優等生には似合わない独り言を聞かれたことに対してだろうか、バツが悪そうにする彼女。聞いた張本人の顔色を窺うように、ちらりとこちらを見る仕草の可愛さたるや殺人的だ。こんな顔を向けられたら最後、多くの男子学生がイチコロになる。もしこのまま放っておけば、どこの馬の骨とも知れない男子が彼女にちょっかいを出すに違いない。だからこそ、こうやって優しさの権化となり必死に好感度を上げているのだ。

 そういえば先週、一緒に下校しようと誘ったが何やら用事があったらしく申し訳なさそうに断られた。今日こそは一緒に下校し、甘酸っぱい会話のキャッチボールでもしながら、この片山優太の青春の一ページを書き足すとしよう。

「面倒な手伝いも終わったことだし、よかったら一緒に帰らない?」

「え? あ、うーん……。いいよ」

「よし、じゃあ鞄を取りに教室へ戻ろうか」

「……うん」

 こうして僕達は帰路についた。駅までの道のり、僕が話す度に彼女は「ふふっ」と控えめで奥ゆかしい笑みを浮かべていた。これはもう僕の気持ちに気づいているのではないだろうか。

 駅で別れた後、彼女の視界から完全に外れたことを確認した僕は、手を小さく握りしめながら心の中で大きくガッツポーズをした。さて、次はどうやって好感度を上げようか。僕の奮闘はまだ続く。

 一方そのころ、彼女は呟く――。
「面倒くさいなぁ」


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