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言箱と言珠のひみつ

言葉屋①
「 言箱と言珠のひみつ」
作:久米 絵美里 絵:もとやま まさこ

朝日小学生新聞で紹介されていたのでおもしろそうだなと思い、読んでみました。
こちらもシリーズもの。
やっぱり私はシリーズものの本が好きなようです。


主人公の古都村 詠子(ことむら えいこ)は小学5年生の女の子。
詠子のおばあちゃんは「ことむら」という小さな雑貨屋さんを営んでいた。

 町の高台に、詠子のひいおばあちゃんの代から立っている古い木造の二階建て。それが、おばあちゃんのお店、「ことむら」だった。チョコレートが深く染みわたったかのように甘く濃い茶色の木材には、ずっしりとした風格がある。しかし同時に、ログハウスのようなかわいらしさもあった。
 道に面した大きな大きな窓には、世界中の海をただよっている空き瓶の底を集めたかのような分厚いガラスがはめられていて、お店にきっちりとふたをしている。(中略)
 入り口の扉には、色とりどりのステンドグラスが使われており、その扉は詠子には少し重たい。詠子が体ごと体当たりするようにして扉を開けると、扉からはいつも、ギィっと、誰かがチェロを練習しているかのような音が鳴った。(18ページ 1~10行目より)

長く引用しましたが、この部分のおばあちゃんのお店「ことむら」の説明書きが好きでした。
”チョコレート”や”ステンドグラス”、”チェロ”というカタカナの言葉が、字面を見ていても楽しく、目と耳と頭でとっても素敵なおばあちゃんのお店の様子を想像することができます。

そんな雑貨屋さん「ことむら」を営んでいる詠子のおばあちゃんであったが、本業はなんと言葉屋だった。

「いいかい、私たち言葉屋は、言葉屋といえども、言葉そのものを売っているわけじゃない。(中略)言葉屋があつかっているのはね、言葉を口にする勇気と、口にしない勇気だよ」(41ページ 2~4行目より)
「言珠が言う勇気、言箱が言わない勇気をつかさどっている。世の中には、言いたくてもなかなか言えない言葉と、どんなに言いたくても言ってはいけない言葉があるだろう?言葉屋は、そんな言葉のトラブルの解決を、手助けするためにあるのさ。(中略)言葉をただの武器ではなく心をつなぐ橋にするのが言葉屋さ。言葉屋は、社会の縁の下の力持ちなんだ」(41ページ 6~11行目より)

そんな言葉屋のおばあちゃんのもとで、詠子は言珠作りの修業をはじめたのだった。
詠子の通う小学校やおばあちゃんのお店「ことむら」を舞台に繰り広げられる言葉にまつわるお話。
詠子は言珠作りに励んでいくうちに、言葉との向き合い方、言葉屋の意義を心得ていく。

自分の大切な人たちが、言葉のために泣かないように。(205ページ 10~11行目より)

こうして詠子は立派な言葉屋になることを決心する。


この本は小学5年生の詠子と言葉にまつわるお話でしたが、小学生の視点からお話が進んではいるものの、最初から最後まで言葉との向き合い方を考えさせられるようなお話でした。
おばあちゃんが詠子に話してくれるお話がどれも素敵というより、かっこよく、「」のついている言葉すべてをノートに書き写したくなるくらいでした。

その中でも、とくにグッときたのがこちらのお話。

「一見、誰でもなんでも言えているように見えて、本当に言いたい言葉は口にできない、そんな息苦しい環境が多いような気がしてね。そんな世の中で育って、詠子のような子どもたちが、自分の言いたいことを主張できなくなってしまったら、悲しいじゃないか。言葉になれずにたまった我慢の気持ちは、やがて毒になって人の心をむしばんでいく。言葉として放出されなかった力は、たまりにたまると自分の中で爆発して自分と周りの人を傷つけるのさ」(53ページ15行目~54ページ5行目より)

これはおばあちゃんが詠子になぜ言珠を作る必要があるのかを伝えるためにしてくれたお話です。
言珠は言う勇気をつかさどるもの。
今の時代には、言珠を必要としている人がたくさんいるのでは?というおばあちゃんの問いかけは、大人の私の心にも大きく響きました。

児童文学ですが、大人もかなり考えさせられるお話です。
興味があれば、子ども用にとは言わず、大人のみなさんもぜひ読んでみてください。
私は引き続き言葉屋②の方も読んでみたいと思います。

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