初めて「海外で誕生日」!幸せな時、人はどうすればいいのか@ヨルダンの本屋
●初めての「海外で誕生日」
総務省が毎年出している統計によれば、この世には2種類の人間がいるらしい。ヨルダンで誕生日を迎えたことのない人間と、ある人間だ。
恐れ多くも私は「ない」側だったのだが、このたび偶然「ある」側に所属する運びとなった。
振り返ってみれば、私は今まで色々な国に遊びに行ったことがある。
しかし「海外で誕生日を迎える」のは、ここ18カ国目のヨルダンが初だった。私は冬生まれなのだが、今までの海外は大学の春休み・夏休みに行くことが多かったのも大きい。
今回の誕生日は、ヨルダンの往復飛行機を取った後にふと「あ、期間が偶然被るな〜」とぼんやり思っていたぐらいだった。なぜなら自分の誕生日よりも気にしなければいけないことが、山ほどあったためだ(号泣)。(第2話 面接編)
無事に店に着いてみんなと仲良く過ごしていたら、いつの間にかその"当日"を迎えた。
●初めての「海外で誕生日」
初めて迎えた「海外で誕生日」の朝。起きると、同じ部屋で寝泊まりしているラウラ(イタリア人スタッフ)がいなかった。もう起きたんだな〜と呑気にキッチンに向かうと、ラウラとデイビッドがホットケーキを焼いている。
いつも焼かないのに珍しいな〜と思っていると、「これ、あなたのためにと思って…!どんどん食べて!お誕生日おめでとうアイラブユー!」とハグしてくれた。ええ、朝からもうお祝いが始まってるの!?
ラウラは、私たちが知り合った日に「もうすぐ私の誕生日」と知るや否や「オーマイガー!最高!ジーザス!」と大興奮してくれたのだ。その日に知り合った人の誕生日をそんなに喜んでくれるなんて..と嬉しかった(その時の話)。こうしてついに当日を迎えられて感慨深いなあ。
キッチンで立ったままホットケーキをいただいていると、ふらりと店長が入ってきた。キッチンの奥にいるラウラは、店長に向かって「ちょっと店長〜!?ほらほら、お誕生日おめでとうって!言いなさい〜!言って〜!おめでとうって!早く!」と、コソコソ声で叫んでいる。キッチン中央にいる私にも丸聞こえである。
店長はゆっくりと私に近づくと「ンン〜おめでとう〜」と言って、大きなキャンディをくれた。何が「ンン〜」なのかは分からないが、店長ありがとう。
この日、「あなたは誕生日なんだから働かなくていい!やりたくないことはしない!好きなことをして!」と言ってもらっていたが、そうは言っても仕事しかやることがないので、いつも通り働いていた。ただ、「働かなくてはいけない」時よりも「働かなくてもいいのに働いている」という状況は、自分の意思で動いている感じがしてなんだか気持ちがよかった。
とはいえ「働かなくていい!」と言ったのは、店長ではなくラウラだが…。
・・この店では、本当に誕生日のスタッフは働かなくてもいいのだろうか。それは神のみぞ知る。
●リアルタイムの「口伝レシピ」
今晩のご飯に向けて、夕方からみんなでピザを作ることに。「いつかみんなでピザ作りたいよね!」とよく話していて、「今日はあれを実行するのにぴったりな日じゃん!」と言ってもらったのだ。
イタリア人のラウラがピザのレシピを求めて、母国に住むママに電話してくれた。「ええ、検索するんじゃなくて、ママに電話!?」と、序盤からもう面白い。ラウラママの話す作り方をラウラが翻訳してくれながら、リアルタイムでみんなで作った。
ラウラはしょっちゅう、「え〜!?でもそのハーブはヨルダンには無さそうだけど、どうすればいいのおおお」とイタリア語でママに嘆いている。日本でいえば「鰹節無いけどどうするの〜!?」みたいな感じだろうか。
それでもみんなで「なくても大丈夫よ!」「そうそう、美味しいに決まってるよ」と言いながら、買い出しに行ったり生地を発酵させたりして、いつの間にかピザが完成した。
焼き上がったピザを見て、「ちょっと生地が分厚すぎたね」「ピザって言うより、ピザパンだ」と評論を交わしつつ、みんなでちぎって食べた。あまりに大きかったので近くにいたお客さんにもあげた。
私はこのピザがどれだけ分厚かろうが、もはや別の種類のパンみたいだろうが、みんなでやっとピザ作りを実行できたことがとっても嬉しかった。
●何やら発音の良すぎる歌声が
この日の夜も仕事を終え、いつも通り自分の部屋のベッドでまったりタイム。すると突然、いつも半開きの部屋の扉がバカっと開いた。
そして扉の向こうから「「Happy Birthday to You~~~♪♪♪」」という歌が聞こえてくる。え?その「You」って、私…ってコト…!?
23歳を迎えたというのに、ついちいかわになってしまう。
みんなの歌の動画を撮ろうかと思ったけど、咄嗟にスマホを手に取るよりもこの瞬間を自分の目と耳でしっかりと享受しようと思って、撮らなかった。
みんなは部屋に入ってくると、「…で、入ったはいいけど。どうする?」という感じでお互いをチラチラ・ニヤニヤ見ている。
ついにしびれを切らした店長が駆け寄ってきて、後ろに隠し持っていたアイスを渡してくれた。え〜!ヨルダンでアイスなんて初めて〜!みんなも各々のアイスを後ろに隠し持っていたようで、「ま、これがお祝いってことよ!」みたいなゆるさで、一緒に部屋で食べた。
食べ終わると、なんだか今日という1日の嬉しさが更に込み上げてきて、ラウラとベッドでジャンプしたり、みんなで写真を撮ったりした。とっても素敵な誕生日になった!
●トイレの個室での沈黙
その日の夜、店のトイレに行った時のこと。個室に入ると、ドア一枚隔てた至近距離に誰かの気配がした。え?なに、誰?
少し警戒する、おしりの寒い私。
するとドアの向こうから、店長の声で、こんな言葉が聞こえた。
「…幸っせなら手をたったこ?♪」
・・・。
・・・?
・・・これは・・私に言ってる?
しーんとしているトイレ。狭い個室。困惑する私。それに、なんだこの "間" は。私の返答待ちなのか?
違ったら恥ずかしいよな…と思いつつ、恐る恐る、手を叩いて「返事」をすることに。
「(・・・?)パン パン」
・・・。
「…幸っせなら手をたったこ?♪」
続きが始まった。ということは私に歌いかけてたのか。まあ、もう一度返してみるか・・。
「(・・・?) パン パン」
「幸っせなら態度でしめそうよ、ほ〜らみんなで手をたったこ?♪」
「「・・・パン パン」」
最後の「パンパン」を一緒に叩くと、店長は「よし、よし!」大笑いし、どこかに去っていく足音がした。
(・・・???)なんですか?これは。
あまりにも、なんだこりゃすぎる。これ以上の「なんだこりゃ」はあるだろうか。幸せだったので一応、手を叩いてしまったが…。
まあ、これで私も来年からは、総務省のアンケート項目を全て埋められそうだ。
「アンケートは以上です。貴重なご意見ありがとうございました」
パンパン。
誕生日編・fin
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