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「マクベス」あらすじ解説【シェイクスピア】

シェイクスピアの解析これで三本目です。400年前の人物で、古臭さはあるのですが、新しさもあるので驚きます。オリジナルな才能がきらめきます。1606年ごろの作品と言われています。5幕構成ですが、印刷で5幕で記載されているのはただの習慣で、上演のときには幕がそもそもなかったようです。舞台装置も最低限だったようです。

あらすじ

スコットランドのグラーミス領主マクベスは、魔女に予言をされます。「コーダー領主になる、そして王になる」

実際に戦で功績を上げて王に褒められます。コーダー領主にしてもらえます。予言的中に驚き、妻に手紙に送ります。そのうち王になってやる。

王はマクベス邸に宿泊します。妻と示し合わせて暗殺します。すっかり魔女の手の内に乗ってしまいました。

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魔女に「子孫が王になる」と予言されたバンクォーと息子も暗殺しようとします。親は殺せますが、息子は取り逃がします。殺したバンクォーは幽霊になって出てきます。怯えるマクベス、なだめる妻です。

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もういっぺん魔女が出てきて、予言を三つします。
1、マクダフに気をつけろ
2、お前は女から生まれたものから傷つけられることはない
3、パーナムの森が攻め上って来ない限り、おまえは負けない

なるほどとマクダフ宅に刺客を送りつけますが、本人すでに逃亡済みで居ません。奥さん子供、家族全員虐殺します。

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しかしイングランド軍が押し寄せてきます。殺した王の子供も、逃げたマクダフも参加しています。マクベスの背中を押していたマクベス夫人は、精神病んで死んでしまいます。

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敵軍は森の枝をかざして進軍してきます。森が動いたのです。焦るマクベスです。もともと簒奪した王位ですから人身は離反、マクベス軍は崩壊します。しかし個人戦闘ではタフです。とうとうマクダフと一騎打ちになります。

マクベス「おれは女から生まれたものから傷つけられることはない」
マクダフ「おれは女が産んだ男ではない。母親の腹を切り裂いてこの世に出てきた」
マクベス「くじけた」

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マクベスは負けて殺され、旧王の子供マルコムが新王となることになりました。めでたしめでたし。(あらすじ終わり)

登場人物紹介

面倒なのは三人だけです。

マクベス:主役。王位簒奪者
マクダフ:ファイフ城主、マクベスの天敵
マルコム:スコットランド王ダンカンの息子。マクベス後、王位に。

音が似ているのでややこしいです。しかしこれだけ把握すれば、あとは普通に読むだけでスラスラゆきます。非常に読みやすい作品です。

マクベス:Macbeth
マクダフ:Macduff
マルコム:Malcolm

となります。

構成

5幕29場あります。

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ファーストフォリオ(最初の全集、死後に刊行)
https://internetshakespeare.uvic.ca/doc/Mac_F1/complete/index.html
では若干、場の数が違いますが、いちいち考えても仕方がありません。
そもそも幕も場もシェイクスピアの上演時にはなかったのです。
今日の読者が適当に切り分けるしかありません。

まずはこんな風になります。
いわゆる三幕構成というやつです。

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主人公マクベスは、魔女の予言を受けてやる気を出し、
王殺し
同僚殺し
マクダフ殺し未遂
やります。

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しかし反撃をくらって破れます。

別の構成

これだけでは普通の作品です。しかしシェイクスピアクラスですと、裏構成仕込ませています。この図になります。

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こちらは主人公がマクベスではありません。「女」です。「女性性」とも言えます。
最初に魔女が出てきます。魔女は女ですから、魔女が反応するのは女にたいしてです。

1-3、
魔女1「船乗りのかかあめが、前掛けに栗入れてむしゃむしゃ食っている。くれっておいらが言うとな「いっちまえ、魔法使いの鬼ババア」って。亭主は船長だが、やっつけてやる。
どんな港にも、絶対入れないようにしてやる。あいつのまぶたに眠りの宿ることはない」

つまり船乗りの奥さんが気に食わないから船乗りを攻撃するのです。そこまで亭主の責任なのでしょうか?納得ゆきませんが、文句も通じませんから諦めます。

1-5、予言を受けたマクベスからの手紙で、マクベス夫人テンション上がります。なぜかわかりませんが王位が欲しくなります。「王の明日を太陽に見せてはならない」とか言い出します。意味不明ですが恐ろしいです。暗殺は成功します。

3-4、バンクォーの亡霊に苦しむマクベスですが、マクベス夫人は落ち着いていいます。王殺しの報いがまったく来ていません。

以上が前半です。

4-2、魔女の予言でマクベスはマクダフ宅を襲います。マクダフ夫人が殺されます。ここではじめて女性が殺されるのです。

5-5、男性を殺した時に落ち着いていたマクベス夫人も、女性を殺して以降は精神に異常をきたします。医者も処置無しでとうとう死にます。

5-8、女性物語の終わりは、マクダフの宣言です。「私は女から生まれていない」というマクダフの宣言で、魔女の呪いから始まった女の物語が収束します。

どこの国でも時代でも、表舞台で殺し合いをするのは男です。裏でコントロールしているのは女です。そのことをこの作品は十全に表現できています。

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前半は
魔女怒り→女性興奮→女性落ち着く
後半は
魔女呪い・女性殺害→女性発狂→女性性消滅
と、三部構成を二回繰り返しています。

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物語の冒頭に魔女の
「きれいはきたない、きたないはきれい」という言葉があります。
参照した安西訳では
「晴れ晴れしいなら禍々しい、禍々しいなら晴れ晴れしい」
となっていますが(原文はfaire is foule, and foule is faire)、これはなにを表しているのでしょうか。

女性性器を表しているのではないでしょうか。腹を切り裂いて生まれてきたマクダフが魔女の呪いを終わらせるのですから。

表の物語には表の構成、裏の物語には裏の構成、偶然なのか意図的なのかわかりませんが、かなり挑戦的な作品になっています。ともかくもこれをまとめ上げているというだけで、シェイクスピアが一流とわかります。
それがどの程度意図があったのか、本人が「作品構成」というものをどう考えていたのか、これで三本目の解析ですからまだ結論が出せません。

から類推するに、「作品構成」そのものを思索する習慣を持っていた人という印象がありますが、もっと数こなさないとはっきりしたことは言えません。

追記

マクベスの二回目の魔女との邂逅で話した後、大釜が地面に沈んでゆきます。

ゲーテの「ファウスト」第二部に、地下に潜って灼熱の鼎(かなえ・三本脚の釜のことです)を鍵で触る、という行動があります。鼎があるのは「母の国」です。「母の国」という言葉にファウストは反応します。このシーンはおそらく「マクベス」由来です。

「ファウスト」解説【ゲーテ】


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