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事例研究 適正な不動産取引に向けて⑤

このnoteでは、『月刊不動産流通』の過去の記事を紹介しています。

今回は、「事例研究 適正な不動産取引に向けて」
(一財)不動産適正取引推進機構が、実際にあった不動産トラブル事例を紹介しながら、実務上の注意点を解説する人気コーナー。今回は『月刊不動産流通2019年5月号』より、「買主からの媒介業者に対する債務不履行は認められながらも、媒介報酬返還請求は認められなかった事例」を掲載します。

★買主からの媒介業者に対する債務不履行は認められながらも、媒介報酬返還請求は認められなかった事例

 購入したビルの現況が建築確認申請の内容と大きく変更され、検査済証も未交付だったため購入目的を達せられなかったとして、買主が媒介業者に対し、説明義務違反による媒介契約の解除に伴う既払媒介報酬の返還を求めた一方、媒介業者が買主に対し、未払手数料の支払いを求めて反訴した事案において、買主の請求については、媒介業者は違法建築物であることを説明していたとして、また、媒介業者の請求については、重要事項説明に取引主任者を立ち会わせなかったことは媒介契約の債務不履行に当たるとして、両者の請求がともに棄却された事例(東京地裁 平成27年9月15日判決 棄却 ウエストロー・ジャパン)

1、事案の概要

 平成23年11月頃、X(原告・反訴被告)は、学校開設のために都内のビル購入を企図し、宅建業者Y(被告・反訴原告)に物件紹介を依頼。翌月にX・Y間で媒介契約が締結され、YはXに数物件を紹介した。

 翌年1月、XはY紹介の宅建業者Aが所有するビルを内覧、その直後に購入申込をした。また、売買契約が成立した場合、XはYに媒介契約に基づき350万円(契約成立時・決済時各175万円)を支払う旨の合意がなされた。Aによる重要事項説明がなされた後、同年2月を決済日とする売買契約が締結され、手付金と媒介契約に基づく報酬(175万円)が支払われた。なお、重要事項説明書には、現行法令では容積超過により同規模の建物は建築できない旨の記載が、A作成の物件状況報告書には、1階事務所部分の外壁・入口新設工事が行なわれた旨の記載が、それぞれなされていた。また、説明はAの取引主任者のみが行ない、Yの取引主任者は同席しなかった。

 同年2月に決済がなされ、翌月にYも交えてX・A間で関係書類の引渡等に関する協議がなされた際、本物件が検査済証を取得していない違法建築物であるとして、XはAに売買契約解除を申し入れ、同年7月にYの債務不履行により媒介契約を解除したとして、Yに支払済媒介報酬等の支払いを求めて提訴した。

 一方Yは、媒介契約に基づく未払金(175万円)の支払いをXに求めて反訴した。

2、判決の要旨

 裁判所は次の通り判示し、X・Y双方の請求を棄却した。

⑴ Xは、建物が現況を前提とした完了検査を受けていない違法建築物で、Yがその説明を怠ったとして、Yに契約上の債務不履行がある旨の主張をしているが、重要事項説明書には、容積率超過により同規模建物の建築はできない旨記載があり、Xは、建築士とも協議の上交渉し、契約書の修正希望も複数回申し入れていること等からすると、YやAが違法建築物であることを秘匿したとは認められず、違法建築物であると説明されていたと考えられる。

 一方Yは、その従業者の取引主任者をして、Xに重要事項説明をしておらず、これは媒介契約上の債務不履行と認められ、Xが主張する仲介契約の解除には理由がある。

⑵ Xの依頼を受けてYは、本物件の紹介、内覧の立ち会い、契約締結に向けた交渉等契約成立に向けて積極的に努力し、その結果契約、決済がなされたことが認められる。そうすると、Xのその後の債務不履行により契約が解除されたとしても、Yにはこれらの役務の対価としての報酬請求権はあると認められ、その額はほぼ既払金額相当であると判断でき、Ⅹはその返還をYに求めることはできない。

⑶ 以上により、Xの債務不履行によりX・Y間の媒介契約は解除されており、Xが主張する媒介契約に基づく報酬残額の請求は理由がない。

3、まとめ

 本件は、買主の主張する媒介業者の媒介契約上の債務不履行およびこれに伴う契約解除は認められたものの、媒介業者に一定の役務提供があったことも認められ、買主の既払報酬の返還請求、媒介業者による未払報酬の支払請求がともに棄却された事例である。

 買主への重要事項説明については、売主ならびに媒介として取引に関与した宅建業者が複数存在する場合には、各々の宅建業者が買主に対する説明義務を負っており、いずれかの宅建業者の宅建士が代表して説明を行なったとしても、他の業者はこれについて連帯して責任を負うこととなる。また、媒介契約上、購入・取得の依頼を受けた媒介業者は、依頼者に対して宅建士をして重要事項説明書の交付・説明させる義務を負っており、他業者の宅建士が説明を行なうとしても、必ず自らの宅建士を立ち会わせる必要がある。

 また、宅建業者には、業務に従事する従業者に証明書を携帯させることを義務付けられていることから、自社で業務に従事する者以外の宅建士をして重要事項説明を行なわせることは認められないと考えられる。

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