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究極の飯テロ小説、教えます


ノスタルジーで懐かしさを覚えてしまうようなグルメ小説。

大正ロマンあるいは昭和レトロな心象風景の中で、ぐうっとお腹がなってしまうような小説。

そのような物語を欲しているならば、「破戒」を読みましょう。

島崎藤村の作品で、彼は自然主義の一人です。

自然主義は、ありのままの風景を写実的な筆致で捉えます。

だからこそ、五感を刺激する料理の描写とそれを引き立てるコンテクスト(文脈)が十分に発揮されるのです。

そしてあなたの目の前には、竹串に刺された川魚、茶色く焦げた匂い、したたり落ちる油はじわりと囲炉裏の砂に染み込んでいく。

このような文章が散りばめられているのですよ。
まさに、至高のグルメ小説ここにあり。

 斯ういふ話を始めたところへ、下女が膳を持運んで来た。皿の上の鮠は焼きたての香を放つて、空腹で居る二人の鼻を打つ。銀色の背、樺と白との腹、その鮮らしい魚が茶色に焼け焦げて、ところまんだら味噌の能く付かないのも有つた。いづれも肥え膏(あぶら)づいて、竹の串に突きさゝれてある。流石さすがに嗅ぎつけて来たと見え、一匹の小猫、下女の背後ろに様子を窺ふのも可笑しかつた。御給仕には及ばないを言はれて、下女は小猫を連れて出て行く。

島崎藤村「破戒」


自然主義文学は私にとって退屈極まりないのですが(お好きな方にはごめんなさい)、一品一品の丁寧な描写やありふれた日常風景など、ささやかな幸せに気づかせてくれるのですね。

そしてそれが、自然主義が私を惹きつけやまない理由なのです。


余談
最近はグルメ漫画だとかグルメ小説は本当に多いです。「それでも旅に出るカフェ」「国道食堂」「異世界食堂」etc…。
そのなかの一つに「破戒」も入れてくれないのかしら。出版社の関係者様、グルメ短編集のような体裁で自然主義の作品を売り出してみてはいかがでしょうか。

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