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【感想】ひげを剃る。本編完結まで


人気な作品ということで読んでみました
外伝もあるらしいですが未読のため、本編(1~5)の感想です
⚠批評意見が苦手な方はブラウザバックしてください


私の感想は、「あ~……」でした。


ヒロイン・沙優の物語としてみれば、面白かったです。

しかし主人公・吉田の物語としては残念という印象です。


違和感を感じたのは吉田の一貫性のなさですね。
なんというか彼は全く成長しない。というより退化しているのではないか、と思ってしまいました。

1、2巻までは彼の男らしさは非常に魅力的だったんですが、3巻以降の彼は「?????」となる行動ばかりしていて消化不良でした。

彼は同僚や上司にこう言われるシーンが何度かあります。

「お前は自分のやりたいことの言い訳に相手を利用している」
「お前はいつも自分に嘘をついている」

みたいなセリフですね。こういった発言が出てくるあたり作者も自覚的だったはずなんですが……
巻を重ねるごとに主人公は自分を嘘で塗り固めている気がします。


たとえば沙優が北海道へ帰ると決るまでの過程。
彼は沙優と離れたくないという想いがあるのに関わらず、それを結局言葉にしないで終わります。それどころか1日だけ同行するというなんとも中途半端な態度です。

たとえば沙優に告白されたシーン。
彼女がどれだけ本気だったかを知っていながら、答えをはぐらかす。
これが正直一番イラッとしましたね。沙優があれだけ成長して勇気を振り絞ったのに、それに気づかない振りをする。女々しいことこの上ないです。
それでいて彼女と再開を受け身で願うという……。

沙優の成長が目覚ましいだけに、吉田の臆病さが際立っていました。

ある意味もっとも一貫した性格の主人公でした。
他人を言い訳のダシにして、受け身な態度を取り続け、それでいて他者に理想を押し付ける傲慢さを感じざるを得ません。

別に弱っちい人間を私が嫌っているわけではありません。

夏目漱石「こころ」の先生、太宰治「人間失格」の私、安部公房「デンドロカカリヤ」のぼく。私は彼らの人間臭いところが大好きです。
強くあろうとして挫折する弱さ、矛盾した行動をする弱さ、目を背ける弱さ。そうした「人間って誰しも完璧ではないよね」という要素が読者を惹きつけてやまないのでしょう。
そうした描写から彼らの人間臭さが自然とにじみ出ているのです。

ただ本作の吉田は逆なのではないでしょうか。
人間臭さを演出するために、行動の不一致や臆病な自尊心を無理やり利用しているようなぎこちなさがあります。
言うなれば、映画舞台として容易された江戸の町のようなハリボテ感…?


沙優を虐待していた母への態度も違和感しかありませんでしたね。
自分は家族ではないから育てる責任はない、と言い放ったのも作品のプロットの勢いで納得しそうになりましたが、よく考えれば謎です。

家族じゃなきゃ育ててはいけないというのも個人的には納得が難しいですね。それなら里親や養子といった制度はどうなってしまうのでしょう。「あるべき家族像」といったものを過度に美化した主人公の理想を、沙優の一家に押し付けているようにしか思えませんでした。

家族の養育義務の話を論拠に、自分は沙優の親ではないと発言したのにも疑問はふされます。吉田は未成年の沙優を匿う選択をとったことで、法的な正しさからこぼれ落ちてしまう道徳的な「正しい」を追求してきたはずです。それなのに最後は家族の義務といった法的あるいは常識的な「正しさ」の論理を持ち出すのは「う~ん」といった感じです。
それが5巻かけて出した吉田の答えなのか……。

もはや家に沙優を半年ほど匿った時点で無関係を主張するのも、異性として見ていないというのも無理な話ですし、作中の描写からは彼らの共依存関係は明らかなはずです。
結局、沙優の本心に気づいて一線を超えることをただ怖がっていただけだったのではないでしょうか。



アマゾンのレビューをあてにした私にも責任はありますが、
拍子抜けでした。


言っておきますと、沙優の物語として見たら相当よい出来になると思います!

ただ吉田視点で進む物語として考えた時、一貫性の無さや強引さ、傲慢さ、それが未解決のまま終わっている点で、作品として個人的には満足できるものではありませんでした。


WEB原作の方で大幅改稿されたと言っていましたから編集部の意向とかがあったのかと邪推してしまいます。
未成年を匿うことを正当化するのはどうなんだ的な、商業出版上の力学が働いていたのかもしれません。
そうすると1,2巻が面白く、結末が近づくに従って作品の推進力が落ちたことも頷けるのですが……。それは神の味噌汁ですね。





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