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【信託型SO】なぜ信託型ストックオプションは社長のポケットマネーが必要なのか?

皆さんこんにちは。藤原です。今回は『ストック・オプション(新株予約権)』の特に『信託型』について書きたいと思います。なるべく分かりやすくしようと思いますので、しばしお付き合いください。

無償型・有償型ストックオプションのおさらい

ストック・オプション(新株予約権・以降"SO"と表記)は、会社に対してある特定の価額で新株式または自己株式の購入請求を行うことができる権利で、会社法上は有価証券の一種です(会社法236条〜294条)。その有価証券を従業員や役員などにタダであげちゃうものを無償型新株予約権と言い、特定の発行価額によって販売するものを有償型新株予約権と言います。

例えば「時価20,000円の株式をたった100円で買える権利をあげます(売ります)」と言われたら、かなりお得感があると感じます。もらえると(買えると)普通は嬉しいものです。無償型であれ有償型であれ、特定の価額で株式を購入できる権利ですから、この特定の価額は小さい方が得です。これを権利行使価格と言い、上記例では100円がそれに該当します。

ですから、もらう側(買う側)からすれば、なるべく権利行使価格が小さいSOが欲しくなりますし、SOを活用して良い人材を獲得したい会社側も、なるべく権利行使価格が小さいSOを発行して人材を惹き付けたくなります。

しかし、この権利行使価格は、SO発行時の株価と同額にすることがほとんどであり、恣意的に小さい金額にすることはできません。むしろ、それ以外の金額するインセンティブが会社側にありません。理由は費用計上に関するルールにあります。

SOの発行に伴い会社は企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」と企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」および実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」によって、

株式報酬費用 = (公正な評価単価 - 発行価額) × SO発行数
※無償型の場合は上式における発行価額がゼロ

で求められる金額を人件費として計上することになっているのですが、実は未公開企業に対する特例というものがあり(企業会計基準第8号 第13項)、上記"公正な評価単価"を本源的価値、すなわち"株価と権利行使価格の差"と読み替えて良いんです。これにより上式は次のように書き換えることができます。

株式報酬費用 ={(株価 - 権利行使価格)- 発行価額 }x SO発行数
※無償型の場合は上式における発行価額がゼロ

会社としては当然余計な費用計上を避けたいので、株価と権利行使価格を同額にして株式報酬費用をゼロにします。なお、IFRS適用企業は未公開企業であっても上記の本源的価値方式が基本的には使えませんのでご注意ください。

直接付与型SOの課題

無償型であれ有償型であれ、SO発行時の株価と権利行使価格が同額ということは、スタートアップが成長して株価が上昇するにつれ、発行されるSOの権利行使価格も同様に上昇するということです。すなわち、スタートアップのステージが進めば進むほど、新規発行されるSOに対する魅力がどんどん薄くなっていくことになります。

SOというのはそのスタートアップに入ってきてくれた方々に基本的には順番に付与していくものですから、創業初期の頃にジョインしてくれたメンバーは有利なSO(権利行使価格が小さい)を保有し、IPOが近くなってきた頃に入社してくれる実績があって能力が高い従業員には、残念ですがあまり有利ではないSO(権利行使価格が大きい)を渡すこととなり、一定のリターンを再現してあげるためにはSOの付与数を増やさざるを得ません。また辞めてしまうとSOも消滅します。

信託型のメリットと誤解

そこで開発されたのが、信託型SOです。信託型SOは、簡単に言うと創業初期の頃に発行された極めて有利なSO(権利行使価格が小さい)を順番に配ってしまうのではなく、ずっとその条件のまま塩漬けにしておき、然るべきタイミングで取り出し、予め定めておいた方法で決定された付与対象者に配分することができるものです。

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