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玄関に住み着いたトンボの思い出

ライターマガジン「日刊かきあつめ」の今回のテーマは「カメラフォルダの1枚」。カメラフォルダを見ていると、あるトンボの写真が目にとまりました。

2019年の夏、玄関先に1ヵ月間ほどトンボが住み着いたことがありました。

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「ノシメトンボ」という日本ではごく一般的な、どこにでもいる種類のトンボです。

玄関の前に置いてあった胡蝶蘭の鉢に突然やってきて、気が付いたら住み着いていました。

胡蝶蘭は、花が咲き終わったあとに枝を中途で切っておくと、もう一度花を咲かせることができます。また花を咲かせたいと思って、ちょうどトンボがとまりやすそうな枝が直立している状態のまま玄関先に置いておいたのです。

木の枝などの先端にとまりたがる習性のあるトンボ。トンボがうちにやってきた当初は「胡蝶蘭の枝がとまりやすい形だったのかな~」くらいに思っていましたが、なぜか何日経ってもこの場所を動こうとしません。どの時間帯に見に行ってもとまっていたので、ほぼ1日中ここにいたようです。

もちろん、死んでいるわけではないし、弱っていて飛べない様子でもありません。手や顔を近づけると、驚いたのかブンブン飛び回ることもありましたから。飛び回っても必ず胡蝶蘭に戻ってくるんです。

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玄関先にはトンボが好みそうな水辺もないし、頻繁に人が出たり入ったりするので落ち着く環境でもなかったでしょう。

なぜここが気に入ったのかが不思議で、家族間では「前年に亡くなった犬がトンボに宿って会いに来たのでは?」などさまざまな憶測が飛び交います。

いつの間にか玄関にいるのが当たり前になっていたトンボ。姿がみえると嬉しくて「おはよう」「いってきます」「ただいま」と声をかけるようになっていました。

別れは突然にやってきます。

ある日、いつものように帰宅するとトンボがいなくなっていました。胡蝶蘭の周辺を探してみても、どこにも見当たらず…。約1ヵ月も住み着いていたのに、前触れもなく突然いなくなってしまったのです。

さっそく家族にトンボがいなくなったことを報告。すると、その日に叔母が胡蝶蘭の近くにあった玄関マットを新調していたことが判明しました。

新しい玄関マットは、ビニール製品特有の強いにおいがします。家族会議では「ビニールのにおいが嫌になって旅立ったのでは?」という結論に至り、玄関マットを交換した叔母は非常に後悔していました。

カメラフォルダの1枚から思い出した、突然やってきて突然いなくなった不思議なトンボとの夏の思い出でした。

トンボは、前にしか進まず後退しない虫です。その性質から、戦国時代の武将からは「勝ち虫」と呼ばれ、縁起のいい虫と捉えられていたのだそう。

我が家の玄関先にトンボが滞在してから約1年半、世界中が大変な状況になりました。幸いにも家族にはこれといった災いは起きておらず、あのときのトンボが家族を守ってくれているような、今でもそんな気がしてなりません。

執筆:らいむ
編集:アカ ヨシロウ

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