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ナマモノ


『やっぱ生で見るのは違いますよ。感動する。泣きますよ、普通に』


推しである宝塚歌劇団について熱弁する女性が職場にいました。

宝塚のためなら東京や大阪、福岡まで行くのが当たり前だと語る彼女。普段はどちらかというとテンション低めで物静かな女性。クールに淡々と仕事をこなすその彼女が、推しについて熱弁する姿はまるで別人でした。

目をギラギラさせ、表情も光り輝いていた。

そんな彼女が語っている様子を見て、僕の中でピンと何かが反応しました。

宝塚の話を聞いたその日の夜、家に帰った僕はライブ情報をネットで検索。

いろんなサイトにアクセスしてはアーティストのライブ情報をぼーっと眺めながらスクロールしていく。

検索し始めてしばらくしたら、あるバンド名を見つけました。

それは僕が高校のときずっとファンであるバンド、銀杏BOYZ。このタイミングで??とよく見てみると画面上ではチケット販売中の表示が。

「生で見るのは違いますよ」

頭の中でこだまする彼女の声が、チケット購入を後押ししてくれました。

公式サイト(https://gingnangboyz.com/)より


迎えた当日。

「用事があるので」という嘘を会社について早退し、ライブ会場へ(一応、有休消化の扱いで)

ライブが始まると懐かしい曲や思い出の曲が次々に演奏されていく。

ライブが進むにつれてあの頃(高校時代)の自分がバーっと出てきて、一曲一曲がその自分に染み込んでいくような感覚でした。

人生の中で最もどん底で、自己肯定感が低く、寂しかった高校時代。暗黒の青春時代。

毎日片道40分かけて通学していたバスの中で、MDプレーヤーを片手に外を眺めながら聞いていた銀杏BOYZ。当時はいろんなロックバンドが出ていたなかで、一番好きだったのがこのバンドでした。

前身の名はGOING STEADY。通称ゴイステ。

童貞男子の目線で書かれた歌詞が多く、彼女が欲しいのにアプローチできないもどかしさや思春期ならではの溢れる感情を全て代弁してくれていた存在。彼らの音楽だけが唯一自分を理解してくれているように感じてました。親近感を感じ、距離感が一番近かった。

僕の青春そのものでした。

居場所がなかったあの頃の僕は、彼らの音楽に命を繋いでもらっていたのかもしれません。

気づけば涙が頬をつたり、顎の通ってワイシャツの中へと滴っていきました。

ギターを掻き鳴らすボーカルの峯田。大人になった今の自分。高校時代の自分。この3人だけの世界にどっぷりと浸っていて、周りのことはどうでも良くなっていました。


ライブ中、ところどころで峯田がMCを入れてくる。

「今日はみんな来てくれてありがとう。今日はここにいろんな人がいると思います。社会人もいれば学生もいる。経営者もいるだろうし、主婦、パート、フリーター、ニート、引きこもりも。予備校生、大学生、フリーランス、みんな色々です。それでいいんです。僕には全く関係ないんです。ただ今のこの瞬間、この場で、僕の音楽を楽しんで、あなたの楽しみ方で、あなたのペースで盛り上がってくれたらいいんですよ。そのままでいいんです。楽しみ方なんて、あなたが決めていいんです。みんな立ってるけど、疲れて座りたかったら座ってもいい。僕はね、アーティストとして活動してるけど、ちゃんと朝起きて、創作活動して、夜決まった時間に寝る、なんてことできないんだよね。アーティストならちゃんと規則正しく生活するべきなのにさ、そういうことができない。できない人間なの。書きたい時に歌詞を書いて、作りたい時に音楽を作ってる。そうすることしかできないんですよ。できないの。でもそれでいいの。それが僕だから。だからね、みんなもね、そのままでいいんですよ。そのままでね。今日は楽しんで帰ってもらえたら嬉しいです。ありがとう」

ライブ中のMC

と、自己肯定感を上げてくれるようなことを言っていました。

ライブに行ったら曲も知らなきゃいけない、みんなと同じノリで手を振らなきゃいけない、みんなと一緒に歌わなきゃいけない、ライブするアーティストのグッズを身につけてないといけない。

そんな凝り固まった観念を抱いていた僕を、彼の言葉が安心させてくれました。

そのままでいいんだ。ここにいてもいいんだと。

** **

ライブは予想よりもはるかに長く、3時間以上が経過していました。

終盤に差し掛かると名曲「BABY BABY」が流れて会場のテンションはマックスに。

揺れる会場。

人々が飛び跳ね、叫び、号泣する。

熱気のこもった美しいエネルギーが会場を包み込み、それを存分に堪能していました。

じーっと彼が歌う姿を見つめていると、フッと想いが湧いてきました。


早く俺もあっちに行きたい


セクシャリティ(生命力、魅力)を爆発させ、自由に自分を表現している。言葉を超える感動をクリエイトし、人々を熱狂の渦に巻き込む峯田和伸。

その彼とは対照的に、ワイシャツとスラックスに革靴姿のサラリーマン。会社に縛られ、自由のないルールだらけの毎日を生きる会社員の自分。

自分と真反対な人生を生きる彼を目の前に、嫉妬心が湧いていました。

「早くあっちに行きたい」

「もっと自由に、自分の好きなことしたい。正直に自分を生きて、人に感動を与えたい」

会場の後ろの方で、自然とそんな想いに染まっている自分がいました。

** **

生で見る感動を体感したライブ。

レベルが異次元でした。

ナマモノは違いました。嘘がなく、何もかもがダイレクト。

感動しまくった。感情もすごい動いた。

そして今回こんな自分でもライブに行ってもいいんだ、自分の楽しみたいように楽しめばいいんだという謎の自信も付きました。

自己肯定感も上がったし、ライブに行く罪悪感もだいぶ減った気がします。

思考人間で普段生活している僕にとっては、ライブを見に行くという行為は一種のヒーリングセッションなのかもしれません。

もっと積極的に心を動かしていきたいと思いました。

宝塚の話からまさかの銀杏ライブ。

ライブに行った数日後、きっかけをくれた宝塚推しの職場の女性に

「あの時の話がなければ、僕ライブ行ってなかったですよ」

と感謝を伝えたら、大笑いされました。

今度は宝塚を見に行ってみようかな。

心理カウンセラー フミ

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