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フォール・ガイ | 本格アクション×ラブコメは上手くいってるのに…

フォール・ガイ

The Fall Guy
2024年 / アメリカ / 125分
監督:デヴィッド・リーチ
出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント


story

人気スターの専属スタントマン コルト(ライアン・ゴズリング)はカメラオペレーターのジョディ(エミリー・ブラント)と恋に落ちていたが、スタント事故で自ら一線を退いてしまう。ジョディとも疎遠になり隠遁生活を続けていた彼の元にプロデューサーのゲイル(ハンナ・ワディンガム)から「復帰してほしい」と連絡が。ジョディが夢を叶えて初監督作品を撮ることになり、彼の力が必要なのだと。だが行ってみると彼が呼ばれたのは姿をくらましたハリウッドスター トム(アーロン=テイラー・ジョンソン)の行方を探すためだった。コルトはジョディの映画のためにもトムを探すのだが、その裏には陰謀が…



review

オススメ度 ★★☆☆☆

『ジョン・ウィック』など大ヒット作を連発して名実ともに世界トップのアクション映画制作会社となった87ノース・プロダクション。そんな彼らが肝入りで放ったのは、まさに「スタントマン」を主役に据えたアクション・サスペンス・ラブコメだ。

ハリウッド映画の現場で誰よりも命がけで体を張って、その割に顔がチラリとでも映っただけでカットになってしまう存在、それがスタントマン。そんな影の存在であるスタントマンが主役となり、まるでハリウッド映画のような(ハリウッド映画なのだが)巨大な陰謀に巻き込まれていく。

予告篇が公開された段階からド派手なスタントアクションの釣瓶打ちで楽しみにしていたのだが、蓋を開けてみるとこれが意外なテイストではあった。
てっきり上に書いたようなアクション・サスペンスかと思っていたら、実態は思いの外コテコテなラブコメ映画だったのだ。

個人的にこういうTHE ハリウッドなラブコメ映画は、それはそれで好きなので「OK!そっちね」と車線変更できたのだが、一般的なアクション映画を期待した方はガッカリしたかもしれない。それも宜なるかな、とは思う。

とはいえ、本格アクション×本格ラブコメという発想自体は結構おもしろいと思う。観客側は先入観で「アクション=サスペンス」みたいな方程式が出来上がってしまっているが、なにもそんな決まりがあるわけではない。別に『ノッティングヒルの恋人』とか『プリティウーマン』みたいなアクション映画があってもいいじゃないか!というのはごもっともだし、それがアクションに本気で向き合ってきた人たちの中から出てくるというのが嬉しい驚きだ。彼らは本気でアクションに向き合って、新たな可能性を探しているんだなとさらに信頼感は高まった。

実際、この『フォール・ガイ』は本格アクション×ラブコメとしてかなり上手くいっているとも思ったりする。
「スタントマンの主人公が、ついに夢を叶えて映画監督になった愛しの彼女のために文字通り”命を賭ける”」というストーリーは、いかにも古典的なハリウッドラブコメらしい単純明快でワクワクさせる設定で、その上アクションを盛り込む口実としてもちゃんと機能している。

そしてなんといっても主演の2人。
しょんぼり顔をさせたら当代一のライアン・ゴズリングと、
強気な女性を演じさせたら完璧なエミリー・ブラント。
この実力派2人が自分の最も得意なカードを切って勝負する。そんな2人の掛け合いが心の底からチャーミングで、正直ここをこそずっと見ていたい。
ラブコメ映画って、主役の2人に「お前ら幸せになってくれ!」と思わせれば勝ちだと思うんだが、この映画はそのハードルは突破していたと思う。
つまりハリウッド式ラブコメとして及第点は出ているのだ。

ただこの映画に対して全体的に不満気味なのは、保険として付けたであろう「巨大な陰謀に巻き込むまれる…」という部分の方が蛇足に感じてしまったところ。作り手の気持ちを考えれば、新たなチャレンジだし保険をかけたくなるのもわかるが、ラブコメとして上手くいった分、その保険こそが足枷になってしまっている。

率直に巻き込まれサスペンスよりも、2人の恋愛模様を見たい気分になってしまうので、話がサスペンス的に転がり始めるほど、映画としては脱線していく感は否めない。ストーリーにブーストをかけるための仕掛けがむしろ推進力を無くす結果になってしまった。
そうなってしまうと、あくまでサスペンス要素はサブプロットでしかなく、全貌が見えれば見えるほど小さくてセコい話になっていき、最終的にはラブコメ部分だけで良かったんじゃない?と思えてきてしまうのだ。

ただし、そう思わせるというのはそれだけラブコメパートがしっかりと機能していたという証明でもあるわけで。
作り手さんたちには本格アクション×ラブコメの一本勝負で良かったのに!と言いたくなってしまう。無駄なことはせず、自分たちが真に面白く、新鮮なものを突き詰めた方がきっと良いものができたはずだ。
もしその一本で勝負していれば、新たなジャンルを開拓するようなエポックメイキングな作品になっていたかもしれないのに…
あと一歩、惜しい作品になってしまった。



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