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変態家族

                            CHOT FRESINO

  今年、2018年は是枝裕和監督作品『万引き家族』が第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、話題になったのは、皆さん記憶に新しいと思う。
幸か不幸か、その年におかんが58回目の誕生日を迎え、その日に事件は起きた。

  本題に入る前に僕の家族について少し触れたい。
僕のおかんは外国人だ。母国に住んでいた期間を、日本で住んでいる期間が上回った今でもカタコトの日本語で、正直僕にもなにを言ってるのか分からない時がある。
そのおかんの旦那、つまり僕のおとんは数年前に脳卒中を患って、重度の言語障害、半身不随の後遺症が残ってしまい、車椅子生活をしている。
あとは、兄と兄の奥さんであるお義姉さん、僕、弟の6人家族だ。偶然にも『万引き家族』と同じだ。

  その日はおかんの58歳の誕生日だった。
家族6人集まり、家でケーキにロウソクを立て、『万引き家族』さながら、楽しくお祝いしていると、

「いやぁぁあー!!ぅおぉぉぉおおい!!!」

という叫び声が部屋中に響いた。                               …強盗か…?いや、おとんだった。兄がおとんにちょっかいを出していた。
これは、言語障害で思うように喋れなくなって、全然話そうとしないおとんへのリハビリの一環で、おとんの髭を触る、服の中に頭を突っ込む、首の裏の匂いを嗅ぐ等、嫌がることをすると、   おとんが喋るのである。
基本的には、「いやぁぁああー!」とか「おぉぉおおおい!!」とか叫ぶだけだが、調子がいいと「やめろぉぉぉお!!」とか、「お前なぁぁああ!!」とか言ってくれる。                               その時は、兄はおとんの首の裏を嗅いでいた。
もう一度言う、これはリハビリの一環で極々ありふれた微笑ましい家族の風景だ。                                          

  調子が悪い日だったのが、おとんは「いやぁぁああー!!」しか言わず、めちゃうるさかった。
耐えかねた弟が兄に「うるさいねん!もうやめろ!次やったらしばくぞ!」と言い放った。
5歳年下の弟に凄まれ、兄は少ししょぼんとしていたが、それも束の間で、すぐにおとんのリハビリを再開していた。
またおとんが叫ぶ、弟キレる、兄しょぼんを弟がなかなか兄をしばかず、次ていつやねん?と思いながらも5回くらい繰り返した時だった。
本日の主役で、みんなから祝われ、テンションが上がったおかんがしゃしゃり出て来た。
                                                                          「お父さん、早く(弟に)言って!シバッテって!シバッテって!」
                                                                             おかん以外の全員の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。
テンションが最高潮に達しているおかんは、周りが見えていないのだろう、さらにヒートアップして、満面の笑みで「シバッテ!シバッテ!」と連呼している。おまけに手拍子付きで。
その様は、「バースデーソング」歌ってる途中やったっけ?と錯覚させるほどだ。
本人は「しばいて!」と言ってるつもりなのだろうが、だんだん僕は「縛って!縛って!」と叫んでるように聞こえてきた。
もう、辛抱たまらん。これ以上笑いを堪えるのは無理だ。
ふと、兄の顔を見ると兄も同じことを思っていたのだろう、笑いを堪えるのが辛そうだ。
お義姉さんはドン引きしていた。
兄と目が合った瞬間、笑いのダムが決壊した。
僕「変態家族やん!」
兄「次の是枝監督のパルムドール受賞作品決まりやな。」
                                                                                      僕たちは確信した。次の是枝裕和監督のパルムドール受賞作品は絶対に『変態家族』だ…たぶん。

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