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マツ編集長の本棚 #2〜川と国土史~

「わが国がもつ本来的な自然条件を基盤として、風土に根ざした個性ある地域整備とはどのようなものであるのか、それが筆者の長年の課題である。」(『国土づくりの礎 川が語る日本の歴史』(松浦茂樹著)あとがきより)

土木学会土木図書館委員会から松浦茂樹博士の訃報が届いたのはお盆休みに入る日の朝でした。松浦先生は、敗戦から3年後の昭和23年(1948年)埼玉県生まれ。大阪万博の翌年の昭和46年に東京大学を卒業され、大学院修士課程を経て建設省に入省。石原慎太郎氏が東京都知事になった平成11年(1999年)に東洋大学教授に就任されている。まさに高度経済成長期の河川行政を最もよく知る技術者であり、近代土木技術の変遷を多くの著作により我々に書き残してくださった研究者であり、独自の歴史観をもった国土史家でもあった。

さて、先生の著書をご紹介しようと考え書棚を眺めてみたが、数ある著書の中から1冊を選ぶのは難しい。『明治の国土開発史 近代土木技術の礎(鹿島出版会、1992年)は、私が学生時代に読んで、お雇い外国人たちの個性、あるいはお雇い外国人の功罪について意識するようになったきっかけをつくってくれた。もちろん、先生がこの本を書かれた主旨はそこにはないだろう。明治維新によりわが国が封建体制から中央集権体制を確立し、近代国家への歩み始めた時代の大規模プロジェクトについて書かれており、「社会における土木技術者の価値や使命」について学生なりに考えたことを記憶している。

『明治の国土開発史 近代土木技術の礎』(松浦茂樹著)
第1章 明治の国土政策
第2章 オランダ人技術者の来日
第3章 東北開発と野蒜築港
第4章 安積疎水事業
第5章 琵琶湖疎水事業
第6章 国際港横浜の発展と上水道の整備
第7章 淀川改良と大阪築港
第8章 オランダ人技術者から日本人技術者へ
第9章 信濃川大河津分水



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そして、駆け出しの技術者だったころ、大阪の本屋に平積みされていたのが、『国土づくりの礎 川が語る日本の歴史(鹿島出版会、1997年)である。当時私は橋梁、耐震の技術者として平成7年に発生した阪神大震災関連の仕事や学会の委員会に忙殺される中でこの本に出会い、「国土づくり」を俯瞰して考えることができる河川技術者がとてもうらやましく思えた。酒を酌み交わしながら国土を語る同世代の河川技術者が輝いて見えたのを鮮明に覚えている。

『国土づくりの礎 川が語る日本の歴史』(松浦茂樹著)
第1章 古代の国づくり
第2章 家康入国の関東平野
第3章 近世の都市づくり
第4章 全国舟運体系の確立
第5章 北海道本府 札幌の誕生
第6章 オランダ人技術者の来日
第7章 明治の河川舟運
第8章 近代化への礎 旧河川法の成立
第9章 近代河川事業の展開
第10章 これからの河川事業へ向けて


松浦先生の訃報に接し、先生の名著をご紹介するつもりが、おすすめ二冊を並べただけで、マツの思い出話になってしまった…。
土木技術者にとって不可欠な素養のひとつは歴史を学び、未来を描く力だと考えている。いま思えば、22歳年上の松浦先生が、30年近く前にこのような名著を執筆されていたことが驚愕である。いつか若手技術者とこのような本を肴に語り合いたい。


文:松永 昭吾(マツ) fromDOBOKU編集長
土木酒場大将。51歳。酒と本をこよなく愛する土木技術者。「土木は優しさをかたちにする仕事」がモットー。土木学会土木図書館委員会委員・土木学会誌編集委員・地震工学委員会委員・fromDOBOKU編集長。土木偉人かるた部西部支部長。土木写真部福岡支部長。マンホール探検隊九州支部長。(株)インフラ・ラボ代表取締役、(株)サザンテック執行役員上席技師長。工学博士・技術士・防災士。