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ARTとWell-beingの研究記事 その5:私のArt × Well-beingの構成要素

2019年の秋から若手医療チーム マチマニアさん
アートとWell-beingの研究会「UMUMアートラボ ART×Well-being」をスタートしました。
この研究会では作品制作や作品鑑賞、セッションなどを通して
Well-beingとアートの関係を考察しています。

Well-beingとは、諸説ありますが
直訳すると「良くいること」=「精神の健康」を意味します。
近年Well-beingの考え方がサービスや政策において注目されている一方
現状ではWell-beingに明確な定義はありません。

このnoteマガジンでは、医師をはじめ、研究者、美術教育家、医療系会社員など
個性豊かな研究会運営メンバーのそれぞれの視点&専門分野から研究記事を綴っています◎
これまで公開した記事も、ぜひ読んでみてください。


さて。
今回はわたくし田中令が、Art × Well-being を感じた2つのできごととその構成要素についての考察を書きたいと思います。


1.わたしのArt × Well-being その1 

16歳の頃、わたしはめちゃくちゃ精神が"不健康"でした。

寝る時以外は酔っ払っているアル中の父と
父が作った借金返済と家庭の維持に必死の母。
家には借金とりが毎日のようにくるドラマのような世界で
わたしは居場所と自分自身を見失い、他者信頼もできず
夢遊病とリストカットを繰り返して
毎日死ぬことばかり考えていました。
意識のある一分一秒が息苦しく、とても長ーーーく感じられました。
(母の後日談では、分裂症や統合失調症の可能性があるとの診断をうけたそうです)

そんなある夜、ノートのはしっこに一枚の絵を描きました。

小さい頃から絵を描くのが好きで
小学校の写生会では毎年選出され
絵を描くことには自信があったわたし。
それが中学生になり、高校生になるころには
すっかり描かなくなっていて
久しぶりに描いた絵がそれでした。

これが、笑えるほどヘタクソだったのです。
人間を書きたいのにロボットみたい。
人間の形がわからない。
奥行きもめちゃくちゃ。
鏡ってどうやって描くんだ?
え。そんなはずでは。
頭の中にイメージがあるのに
全っっっ然表現できない!!!

そして思いました。

「イメージをそのまま形にしたい!絵がうまくなりたい!」

毎日絶望しかなかった日々の中で
それは久しぶりに自分の中に生まれた希望でした。

数日後、(保険適用外=お高い)診察料を払ったカウンセリングの帰り道
うちは借金まみれなのに、わたしなにやってるんだろう...
と我に帰り、通院をやめ
美大予備校に復活しました。
学校にも少しづつ通い始め、なんとか卒業できることに。

現役受験には失敗したものの(そりゃそうだ)
浪人時代は日々デッサンを繰り返し
自分の絵が認めてもらえるようになり美大に進学。
心が落ちる時間が少しづつ短くなり、頻度も減って
わたしの精神はみるみる健康になりました。

これが一つ目の、私のArt × Well-being 。


2.わたしのArt × Well-being その2

大学を卒業し、美術造形(テレビのセットや大型テーマパークのあれこれを作る職人的お仕事)をしながらワークショップ企画に燃えていた28歳。
日々の肉体労働の影響もあり、生まれつきの股関節の疾患が悪化し
「このままじゃ10年後には歩けなくなりますよ」
という衝撃診断を受け、手術をすることに。

自分の骨をくり抜きながら切り、回転させて
角度を変えてくっつけるという
え、それ造形やん
な手術は、入院期間が3ヶ月。
リハビリ期間が6~9ヶ月。
寝たきり→車椅子→両松葉杖→片松葉杖→二足歩行と
人類の進化をもう一度体験する
両足で2年間の治療でした。

悶絶の手術後を乗り越え、車椅子の移乗もできるようになり
体についたさまざまな管から解放されてからは
毎日3度の食事、30分のリハビリ以外
ただ骨がくっつくのを待つという、ありあまる時間を病棟で過ごします。
良くも悪くも内臓や頭が元気、体だけが動かせない入院患者が集まる整形外科での日々は

とにかく、 ひ ま!!

病状はもちろん、世代、価値観、生活習慣もバラバラの方々との共同生活。
患者さん同士が仲良くなる一方
共同生活のストレス、経過への焦り
退院後、障害者になり社会でやっていけるのかという不安も相まって
お互いの病状や回復具合を比べ始めたり
看護師さんや他の患者さんへの不平不満や愚痴が耳に入ってくるようになりました。

友達は結婚出産しはじめてるのに...
仕事できないなあ...
お金大丈夫かなあ...
なんで消灯後にテレビつけるんや...
なんでわたしばっかり...
わたしの心の中でも、ギスギスもやもやが始まっていました。
このままではアカン。

そこで、旦那さんに頼んで家にある画材を持ってきてもらい
患者さんたちと一緒にものづくりを始めることにしました。
入院患者による入院患者のためのアートワークショップです。

テーマは「入院あるあるかるたをつくろう!」

ブロッコリーがやたらでる病院食
2週間ぶりに浴びたシャワーの感動
怖くてできない寝返り
おもしろいPTさん
傷口との対面の衝撃
おならのやり過ごし方...
入院生活でのドラマや日々感じたあれこれを
あいうえお作文で5-7-5にし、52枚の読札をつくり
そのイメージから絵札をつくりました。

一緒に制作した仲間たちは、ほとんど自称:絵が苦手だったけど
ノープロブレム。
読札担当、色塗り担当などにわかれて進めると
だんだんと制作が楽しくなり
毎日車椅子で談話室に集まって制作を進めました。
「長い時間、座位が続くのはよくないぞ」
と看護師さんたちに心配されるほど!

みんなでおしゃべりしながら
時に真剣に、1つの目的に向かって何かを作ることが楽しくて
日々退院していく患者さんへのカードも作るように。
おかげで人間関係もすごく暖かいものになったし
運動はできないけどエネルギーを使うので
お腹も減るし、夜も「疲れて」すぐ眠れるよろこび。

毎日ただただ時間がすぎるのを待っていた不健康な生活から
明日が楽しみになる、とても健康的な生活になりました。
(かるたが出来上がってからは、みんなでそのかるたで遊びました)

これがわたしの、2つめのArt × Well-being 。

3.私のArt × Well-beingの構成要素

精神病からの生還と
入院生活をポジティブにすごせたこと。
私が「well-being」を意識した瞬間は、心が不健康から健康へとシフトする瞬間でもありました。
それはいずれも自分の時間に目的を持てることであり、アートは欠かせないものでした。

なぜアートだったんだろう、と考えていたところ
先日のArt × Well-being 研究会に参加されていた方の言葉がすごくリンクしました。

"飛びたいと思っても人間は飛べないし
(物質的な)体がある以上、この世界に自由はない。
でもこういった(自分の感覚のままに表現できる)アートでは
画材や画面を自在に扱うことができる。
この自在であることが居心地の良さ、well-beingにつながっているのではないか。"


ーなるほど!!

アートという表現活動は、自分の中のイメージを具体的に掘り下げ、形にすることに一生懸命になる時間です。
この時間、紙や粘土板の上など、特定の領域(支持体)を自在に扱うことができます。
赤いまっすぐな線をひきたい、と思えばひけるし
粘土を立てたい、と思えば立てることもできる。
その自在さは、「〇〇したい」という目的意識を誘発します。
もっと写実的にかきたい
もっとイメージに近い色を作りたい
もっと自分の思う理想の形に近づけたい
もっとオリジナリティある世界観を築きたい....
この目的の存在こそ、私たちが生きる自分の時間を健やかに過ごすポイントになる気がしています。


以上、これはあくまで今のわたしのArt × Well-being の考察ですが
もっともっと深堀できる気がしてわくわくしています!
次回の記事、そして研究会もお楽しみに^^



<次回の研究会開催のお知らせ>

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日時:1月13日(月祝)13:30~16:30
会場:IKE・Biz としま産業振興プラザ
  (〒171-0021 東京都豊島区西池袋2丁目37−4)
対象:医療福祉従事者、医療従事者
「Well-being」に興味のある方
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✴︎アート、医療関係以外の方も、テーマが気になる方は大歓迎です!
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