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幼児期のデッサン のススメ

田中 令|UMUM

2019年の春から年少、年中、年長の3つのクラスの芸術指導を担当している保育園で「葉っぱや木の実をデッサンしよう」という課題をやってみたところ、大発見がありました!!
その様子を紹介します。

1.デッサンとは

フランス語が語源となるデッサン(dessin)の定義を検索してみると、下記のような記述がありました。

”デッサンは、仏日辞書で「素描」「下絵」と訳されます。ですが、現代のフランスでは、色がついたものも含めて「絵」全般を指すことができるようです。
(中略)
日本で「デッサン」は次のような意味で使われています。
まず、鉛筆や木炭でよくと描き込んだ白黒の絵、という意味です。中でも、美大受験を目指す学生が、試験対策のために行っている絵を指す印象があります。
次に、目の前の実物を見て描く、写実的に描く練習のための絵、という意味。
3つ目は、ものの本質を捉える能力、という意味です。そこから、画家の精神の奥深さを映す、高尚なものという意味にもつながってきます。

最後は、絵を描く基本、基礎という意味です。”
(出典:https://dessinlaboratory.com/mind/dessin_what01.html?fbclid=IwAR2LGifDBQwkmksF7PsC8-Ud8ii4f7tDfAo6lQHi7wcwzMQZY6KatQEzsbw)

フランス語と日本語の意味に、少し違いがあるようです。
広く「絵」そのものをさすフランス語に対し
日本でのデッサンのイメージは、端的に言えば写実性の高い「うまい絵」。
それがアートの基礎力と言われているため、多くの方が「絵の才能がないから」「絵がへただから」という理由でアートに苦手意識を持つのかもしれません。

そして上記にある通り、デッサンは美大受験の実技試験では鉄板の課題です。
わたしも受験時代は来る日も来る日もデッサンを描き、観察と描写をひたすら繰り返していました。
(当時のことを振り返った記事がこちら↓
美大予備校での3つの特訓、感性とアートの関係性|UMUM 田中 令 )

(デッサンをすることでどんな力が鍛えられるのかが言及されているこちらの記事も非常に面白いのでぜひ読んでみてください。)


2.自由表現とデッサン

普段私は、「感性のままに表現し、自己表現を楽しむこと」を目的にした自由な表現の時間をつくっています。
抽象度の高いテーマと材料のみ準備し、一人一人の感性によって違いがでること、その違いを楽しむことも大切にしています。
写実性や作品の完成度(クオリティ)をあげることが目的ではないので、完成作品の見本や決まった作業工程は用意しません。

毎月2回芸術指導にお邪魔しているこの園でもそのコンセプトにのっとり、こどもたちと表現活動を行ってきました。
正直なところ、技術的なイメージがあるデッサンを3~5歳のこどもたちに行うことは「コンセプト的にどうかな」と若干の心配もありました。

が!!!!

この幼児期のデッサンには私の安直な心配をふっとばす、驚くべき側面があったのです。
年少、年中、年長クラスごとにこどもたちの様子を紹介していきます。


3.ファシリテーション

この課題を行うにあたり、こどもたちには事前にどんぐりや松ぼっくりなどの木の実、落ち葉、枝をモチーフとして拾ってきてもらいました。

当日のファシリテーションでは
・(モチーフを)よーーーーーーく見て描くこと
・形、色、線、穴、触った感じ、「これ○○に見える!」など、見えたこと感じたことは全て描く
という説明をしました。
そして、何より大切なのが
指導するおとなたちが絵における正誤を手放すこと。
「形がちがうよ」
「どんぐりの色は茶色だよ」
などの声がけは
あくまで指導者の目から見えたもの。
作品制作中は、このようなおとなが思う正誤を基準にした声がけはせず
こどもたち1人1人に
「ここはどうなっている?」
「何色が見える?」
「さわった感じはどう?」
観察を促す質問を繰り返しました。
そしてできあがった絵に対しても
「この形、本物そっくり!」
「色がきれいだね」
「ぼつぼつが見えたんだね」
「この発見はどうだった?」など
一人一人の作品や製作姿勢における良いところや、絵からうける印象を言語化して伝えました。

4.年少クラス

好きなモチーフを一つ選び、じーーーーーっと観察した時間を経て
色鉛筆を使い、描き始めます。

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↑イチョウの葉の葉脈、しみ、虫食いの穴を発見する子

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↑どんぐりから見えた色を全て描く子

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↑枝にどんぐりの帽子がいっぱいついたモチーフを、恐竜に見立てる子

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↑天才。

そう。天才がたくさん。
私が見えているものが疑わしくなるほど
観察が深まりまくり、それぞれのマイワールドが全開です。


5.年中クラス

続いて年中クラス。
制作内容も画材、ファシリテーションも年少クラスと共通です。
では、どうぞ。

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もはや解説なんていらないと思いますが
葉っぱの紅葉のグラデーション、葉脈、きわのトゲトゲ感、虫食い...
形、色、線、どの要素も視覚から得た情報をたくさん描いています。

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↑彼は絵の中で、どんぐりと葉っぱを構成していました。

※技術指導はしていません。感動です。天才です。


6.年長クラス

最後は年長クラス。
このクラスは、少し課題の難易度をあげ
鉛筆のみでデッサンに挑戦しました。
まずは6H~8Bの鉛筆の濃さの種類を紹介し、その違いを実験。
Bはやわらかくて濃い!Hはかたくて薄い!を体験したうえで
モチーフを一つ選び、好きな濃さの鉛筆でデッサン開始。

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鉛筆も、いいですねー。
お気づきの方もいると思いますが、上記写真はすべて松ぼっくりを描いています。
一つ一つの鱗片を魚の鱗のようにアーチ状に捉える子もいれば
鱗片の根元に落ちる影を描写する子
三角を上から下に配置していく子
球体の中に線で菱形を描く子もいます。
どの絵も、とっても松ぼっくりらしい特徴を捉えています。

参考までに、松ぼっくりの写真がこちら。

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影もアーチも三角も菱形も見える!!!
それぞれの目線から、自然の秩序を見事に発見しています。
ああああ!!!天才!!(3回目)

(年長さんは先が読めるようになり、そうそうに飽きる(めんどくさがる)子が現れたのも興味深い傾向でした。
見えたものを全て描くというのは途方も無いし、非常にめんどくさいですよね。
発達っておもしろい。)


7.幼児期のデッサン のススメ

だいぶ興奮気味でお届けしましたが、3つのクラスの作品のご紹介は以上です。
想像以上に、みんな違う。
こどもたちの個性はもちろん、年少、年中、年長の各発達が顕著に現れています。

子どもの発達を保育者が知るという目的で
運動会の思い出を描く設定画や、目鼻口などのパーツを張り合わせて顔を作る課題などがありますが
設定画は、実際競技をしてる自分を客観的にみたわけではないので難しいし
顔の制作も、決められた選択肢の中で正誤的な見方が生まれやすいため
なんだかなあと思っていました。

しかし、今回の課題を通して
・その子が色、形、線など、どの要素に1番反応するのか
・こどもたちは、何をどう見ているのか
この2つを理解するのに、デッサンは非常に有効であると感じました。

言い換えれば
子供達はこの世界(対象物)をどう観察し、どう認識しているのか
そしてその「自分の見ている世界を再構築して自らの手で表現する」とどうなるのか
を保育者が理解することができる方法とも言えます。
「観察」「認識」「再構築」
この3つのプロセスは、こどもたちが生きていく社会で学習、仕事、暮らし、どんなことにも応用できる力につながります。

そのために大切なおとなの関わり方をもう一度書きます。


★おとな(ファシリテーター/保育者/保護者)が、正誤を手放す。

★製作中は写実性の高い作品完成を目的とした指導するのではなく、観察を深める質問を繰り返す

★「うまいね」だけではなく、一人一人の作品や製作姿勢における良いところや、絵からうける印象を言語化して伝える


作品が、絵のうまい下手(写実性の高さ)という一つのベクトルで評価されるものではなく
こどもたちがその瞬間をどう生きているかのアーカイブとして捉えると
デッサンは、おとながこどもたちの「今」を知ることができる
有効な活動となるのではないでしょうか。

感覚や反応が素直な幼児期のデッサン、おすすめです!!


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田中 令|UMUM
フリーランスの美術教育家/Art education research UMUM founder。アート、感性、自己表現がキーワード🔑東京を中心に、対面アトリエ、訪問ワークショップ、研究会、オンラインで自由表現の場作りをしています。https://umum.art/