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ARTとWell-beingの研究記事 その9:「UMUMアートラボ ART×Well-being」アートセクションのこだわり

2019年の秋から若手医療チーム マチマニアさん
アートとWell-beingの研究会「UMUMアートラボ ART×Well-being」をスタートしました。
この研究会では作品制作や作品鑑賞、セッションなどを通して
Well-beingとアートの関係を考察しており
2020年も4月から、よりブラッシュアップした企画をお届けする予定です。

Well-beingとは、諸説ありますが
直訳すると「良くいること」=「精神の健康」を意味します。
近年サービスや政策において注目されている一方
現状ではWell-beingに明確な定義はありません。

このマガジンでは、医師をはじめ、研究者、美術教育家、医療系会社員など
個性豊かな研究会運営メンバーのそれぞれの視点&専門分野から研究記事を綴っています◎
これまで公開した記事も、ぜひ読んでみてください👇

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さて、今回はUMUMの田中令が「UMUMアートラボ ART×Well-being」の前半部のアートセクションについて
そのデザインやコンセプト、これまでの参加者の方々の様子を書きたいとおもいます。

これまで研究会は、2019年9月(立川)、12月(神保町)、2020年1月(池袋)の計3回開催しました。(初回の様子はこちら
研究会の基本構成はどの回も
1.作品制作
2.作品鑑賞
3.セッション(振り返りと考察)

という3部構成です。
この作品制作と作品鑑賞の部分が、アートセクション(アートワークショップ)にあたります。

1.コンセプト

作品制作では、クレヨン、色鉛筆、パステル、えのぐなど
たくさんの画材を使い、主に平面作品を制作します。
この制作活動で大切にしているのは「自分の基準で表現する」こと。
写実性の高さや、作品の完成度など他者が決めた基準ではなく
それぞれが「自分は何を感じるか」を自分自身に問いかけ
そのイメージを画材を使って表現することです。


2.作品制作

これまで3回の研究会で行った制作をご紹介します。
いずれも最初にアイスブレイクを兼ねて、画材の実験を行います。
様々な種類の画材を触り、試し描きを重ね
「この色すき!」
「この感触気持ちいい!」
など、その特性を知る時間です。
画材に触れることで、感覚のストレッチもできます。

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一通り画材を触り、試し書きに意思が現れるようになったところで
その日の制作テーマが発表されます。

<9月15日:言葉の印象を描く>
初回のテーマは「生命感」。
この言葉を聞いてどんなイメージが生まれるか、それを内省することから始まります。
出来上がった作品は胎児、躍動感、脈拍、あたたかさなどが表現されていました。
医療従事者が多かったこともあり、具体的なモチーフが描かれていたのも印象的でした。

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<12月8日:四感を使って描く>
この日は石、水、土、木など原始的な自然モチーフをいくつか用意し
視覚以外の触覚、嗅覚、味覚、聴覚4つの感覚で得たモチーフの印象を描きました。
絵を描く時はどうしても視覚情報に頼るところが大きいので、それを敢えて排除しようとした試みです。
石のゴツゴツした感じ、木の年輪の凹凸、水から喚起される記憶、土の特徴などが抽象的に描かれました。

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<1月13日:触覚で描く>
前回の4感での表現をさらにブラッシュアップし、視覚を完全に遮断した箱の中にあるモチーフの触り心地を描きました。
まさに「箱の中身はなんだろな?」です。
モチーフは6種類ほど用意され、触り心地から自分の好きなものを選びます。
ふわふわ、あたたかさ、カサカサ、つるつるなど触り心地をそのまま描く人
触覚情報で想像されるモチーフを描く人
触り心地から喚起する記憶やイメージを描く人もいました。
視覚情報が完全にない=モチーフの色がわからないので
色のバリエーションが非常に豊かだったのも印象的でした。

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3.作品鑑賞

制作後に出来上がった作品を壁に並べ、全員で鑑賞し意見交換をします。

作品には毎回参加者数分のバリエーションがあり、同じモチーフを描いた作品であっても、色も形も全く異なるものになります。
言い換えれば「正誤」をつけられない世界が成立し、対等なコミュニケーションが生まれます。

参加者のみなさんが、自分の作品のコンセプトや感想などを発表するとき
イメージに形を与える難しさや
イメージと表現がリンクした時の達成感やよろこび
イメージの源泉となった個人の記憶やエピソード
画材が先導するフィジカルさ
などが語られます。
それらを他者と共有することで
「そういうことか!」
「なるほど!」
という驚きや納得とともに
違いをポジティブに捉え、個性を楽しむ時間になります。

自分と全く違うものゆえに
他者の作品に興味をもつことができるのもおもしろいところ。
他者の作品について
「どのモチーフをどんな感覚で描いたの?」
「なぜこの色なの?」
「なぜこの形なの?」
など積極的に質問も交わされます。

作品鑑賞におけるこのような対話によって
作品をトリガーとした自己理解、他者興味、他者理解が進みます。


4.アートセクションで大切にしていること

①自分の基準に集中できる制作テーマ
制作テーマは、その表現活動における制約にもなります。
この研究会の制作テーマは、自分の基準で表現できるよう
抽象度の高い言葉や、五感に刺激的なものをモチーフにしたり
インプットする感覚を限定する制約を設けました。

例えば「目の前に置かれたりんごを描く」というテーマの場合
多くの方はその視覚情報を写実的に描こうとするため
天地にくぼみのある赤い球体を描くと思います。
多くの方がモチーフから共通するイメージを生みやすいので
一つの基準で比較しやすくなってしまい
「(視覚的に)より本物らしく描けている作品」が正しさをもち
「自分は(本物と離れているので)下手だな」などの正誤や評価に意識がいきがちです。
(これが「絵を描く」という活動の”普通”になっていることがまた芸術教育の課題でもあると思うのですが、それはまた今度書きます。笑)
このような制作テーマでも、ファシリテーションや場のデザインによって
観察を繰り返し、自分の感覚との対話を深めることはできますが
限られた時間内に、より深い自分の感覚との対話を促し
解釈のバリエーションが生まれる正誤のない時間にする
ために
他者の基準に意識がいく要素をできる限りなくし
自分の基準に集中できるテーマを追求しています。


②場への信頼

このアートワークショップでは、参加者の方が自分の感覚を研ぎ澄ます内省に集中できるかが最初のポイントになります。
そのため場のデザインとして重要視しているのが「心地よさ」
それは安心や安全とも言い換えることができます。
他者の評価を意識せず、自己内省と制作に集中でき
さらに「自分の内的なもの(=すごい私事なこと)を表出してよい場なんだ」という場への信頼を参加者の方がもてるかが大事だと考えています。

それを育むポイントの一つはファシリテーション。
「失敗してもよい(やり直しができる)」
「制作は実験」
「正解はない」
「評価される場ではなく、対等に表現をする場」
というスタンスで制作活動を促します。

もう一つは環境や場のデザイン。
たくさんの画材を用意することで選択肢を増やし、フィジカルなトリガーを増やす
対面式のテーブルにしたり参加者が画材を共有することで、参加者同士のコミュニケーションも促す
などで緊張感を和らげ、居心地の良い空間を目指しています。

5.考察とセッションへ

研究会の後半ではアートセクションでの体験を、客観的に考察します。
自分の感覚はどうであったか?
健康な状態であったか?
その状態はどんなフェーズ/どんなトリガーから発生したか?
などなど
それぞれの考察を書き出し、それを共有。
さらに日常生活でどのように導入できるか
どんな人がどのような時間を過ごすことがwell-beingになるのか
などを、対話によってさらに深めます。

先に書いたように、Well-beingとは直訳すると「良くいること」=「精神の健康」。
私たちの研究会では「自分にとっていい状態」と仮定義しています。
つまり、自分の心で感じることがポイント。
アートセクションでもこのポイントを軸にすることで
アートとwell-beingという抽象的な2つの関係性を紐づけ、研究しています。

<研究会について>

アートとWell-beingの研究会
UMUMアートラボ ART×Well-being
次回は2020年4月に開催予定!
対象:医療福祉従事者、医療従事者
「Well-being」に興味のある方
「健康」と「アート」の考察を深めたい方
✴︎アート、医療関係以外の方も、テーマが気になる方は大歓迎です!
これまでの企画詳細はこちら👇

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