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【読書感想文にも!】この夏読んでもらいたいおすすめの電子書籍②

こんにちは。いなおかです。

フレーベル館の本社前には"六義園"という国の特別名勝にも選ばれる大きな公園があるのですが、いつも気がつけば、そこからさまざまなセミの鳴き声が社屋の中まで染み入って聞こえてくるようになりました。
そのセミの声を聞くたびに「あ、しっかり夏になったんだなぁ」と感じるように。

夏が来た時に思い出されるのが、「お祭り」です。私の中で思い出されるお祭りは京都にて開催される「祇園祭」。なんと1000年以上も前に始まった伝統行事です。大阪出身の私ですが、京都に近い場所に住んでいたため、時期になると祇園祭に出かけていました。特に「宵山」の日に提灯で飾られる山鉾を見るのは、お祭りの雑踏、人々の話し声、暑い夏の夜の熱気などときらびやかな光景が相まって、どこかフワフワとした記憶として思い起こされます。

今回はそんな「伝統行事」を題材とした書籍を【読書感想文にも!】この夏読んでもらいたいとおすすめする書籍の2冊目としてご紹介します。

今回ご紹介するのは『ふたりのえびす』。
対象年齢は小学校高学年から。「第69回 青少年読書感想文全国コンクール 小学校高学年の部」の課題図書に選定されています。つまり2023年の課題図書に選ばれた作品ということですね。


内村太一は青森県八戸市に住む小学5年生。「ありがとるねーど」「さようならンダバ」など自作の言葉をおちゃらけて使うお調子者。そんな太一の元に色白でほっそりとしていて背が高く、顔が小さくすべてのパーツが精巧なガラス細工のように整っていて、みんなから「王子」と呼ばれる大路優希が転校してきます。そんな二人はひょんなことから、八戸市の伝統行事である
「えんぶり」にて、”えびす舞”を踊ることとなります。


※「えんぶり」とは…八戸市にて行われる豊作を祈願する郷土芸能で、国の重要無形民族文化財に指定されている。主役である「太夫」が華々しくおどる合間に、祝福芸と呼ばれる”松の舞””大黒舞””えびす舞”という踊りが差しはさまれる。


もともと踊り手としてえんぶりに参加したくなかった太一。彼が属している町内会の親方の指名によってえびす舞の踊り手となるのですが、対する王子は自ら立候補してえびす舞の踊り手に。端正な顔立ちで女子人気が高い王子が、どうしてお世辞にもかっこいいとは言えないえびす舞を踊ろうと思ったのか…、と理解に苦しむ太一。いざ練習を始めてみると、王子にはリズム感というものがこれっぽっちもなく、踊れないことがわかります。取り巻きの女子たちも遠くからひそひそ話をし、いなくなる始末。それでも王子は顔を真っ赤にしながら、踊ることをやめません。
踊りたくないえびすと、踊れないえびす。ふたりのえびすは見事にえんぶりにてえびす舞を披露できるのでしょうか?

こちらの物語で注目したい点は、二人の"キャラクター"に対する考え方
太一はお調子者ですが、それは本当の太一ではありません。本当の彼は、実は人が触ったものが食べられない潔癖症(これにはとあるワケがあるのですが)。また、モヤモヤした気持ちを整理するため、一人でノートに向かって気持ちを書き出したりします。しかもノートには罫線からはみ出した文字を書くことはなく、きっちりと線と線の間に収まる文字しか書けません。太一はほんのちょっとしたきっかけで作られた「お調子者」というキャラクターを、無理して演じています。
王子は、その美しい見た目から周りに(特に女子に)チヤホヤとされることが多いのですが、本人はそれを望んでいません。周りから「王子」というキャラクターを与えられることで、本当の自分でいられないこともあり、それがフラストレーションであると感じています。人から「こうだ」と決めつけられるキャラクターを演じたくないと思っています。
自分のキャラクターを作り、うまくこなしていきたい太一。一方王子は周りから与えられるキャラクターに当てはまりたくない。
そういった役割について、何かモヤモヤとしたものを抱えつつも、今の二人はその自分を生きています。ただ、それは気持ちのいいことだけではなく、いろいろな「ムカつく」感情をお腹の中に持ったままの状態。二人がえびす舞を通じて、それぞれのキャラクターにどう向き合っていくのかは、今を生きる子どもたちにとって共感できる部分になっていると感じます。

そして、これはもしかしたら子どもたちだけではなく、仕事場、仲間内、家族と、多くのコミュニティを行き来し、その度にたくさんの仮面を付け替えている私たちおとなにも当てはまるお話かもしれません。

伝統文化を引き継いでいくという視点、キャラクターという自分がもつ役割のこと、さらには自分自身を振り返るという方法でも、読書感想文を書くことができるかもしれませんね。


では最後に、二人が実際に釣りにで出かけた場面で、海に糸を垂らしながらした何気ない掛け合いを、しかし妙に芯をくっている一文をお送りします。

“「足が岩にカチンコチンにくっついてる気がしてきた。なあ、オレ岩になってね?」
 優希に聞く。優希はチラッと見てまた海面に目を落とす。
「なってないよ。太一くんのままだ」
「でもそろそろ、なると思うわ」
「ならないよ、太一くんは死ぬまで太一くんだよ」
 ウミネコが鳴いている。
 オレは死ぬまでオレなんだ、とつぶやく”

『ふたりのえびす』
髙森美由紀

何気ない文章の中に、突然核心をついたような表現や内容がいくつも登場します。皆さんのお気に入りの箇所が見つかったら、ぜひ教えてくださいね。

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