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【Lilyに告げる】


実のところ、実話なのか空想なのか、現実だった気もすれば妄想の中での思い出な気もする。とりあえずただただ、胸がくるしいということだけはどうやら頬を抓らなくても現実だと良く分かるんだ。




とある年の3/14。

ホワイトデーだから、白い手紙にしたんだよって、君は言った。「おお、ロマンチストだね」なんて私はちょっと笑った。皮肉ではない。
この世で色の名前が付く日は 私の知る限り、ホワイトデーだけ。知識が無いだけかもしれないけど。ああ、ロマンチックだ、素敵だなあ。

そんな風に感じた事をよく覚えている。


23歳。この歳で相手からお手紙貰えることって そうそうないから凄く嬉しかったんだ。ね、文字は形として永遠だから。



この人、心がとっても優しいと。ねえ、前から思っていたけれど、
あの時期は特にそう感じる瞬間が多かった。


君への、この真っ白な気持ちは、そのうち何色になるんだ。
ホワイトデーだから ホワイトなら。
反対は。
バレンタインデーは 何色なのか。
だれか教えてほしい。。Googleじゃきっと出てこないもんね。


私は安易な思考だから、ピンクでいいんじゃないかって勝手に思って。そして来年のバレンタインはピンク色レターセットを使って、お手紙を書こうって。
うん、だって、赤は情熱過ぎるから。
真っ赤な感情をこの歳で燃やしてしまったら、
いざとなったとき、後が怖い。いつか30歳とかになって、何も残らなかったら、私はきっと生きていけない。いざっていうのは、君が隣にいないかもしれない未来を指すのだけれど。



"いなくなられたら、生きていけない。"

そこまでに感じるひとに、私はまだ出逢えたことがない。きっと、大好きな母が、想像もしたくないけれどこの世からいなくなったときのほうが私も死にたい。


こんなにもこの恋は深くて暗くて分からなくて、
先が見えない、ずっとそう思ってた。



ホワイトデーだから、白い手紙にしたんだよって、いつだか君は言っていた。

自分の笑う顔そんな好きじゃないって言ってたけど、優しく笑ってそんな風に言う君に、どれだけあの瞬間愛というものが湧いたか。

本当は今年もバレンタインデー、君にあげたかった。チョコの代わりに、君が好きなものを作って、美味しいと笑う顔が見たかった、そのまま抱きしめてもらいながら眠りたかった。

そしてホワイトデーに、また真っ白なお手紙が貰いたかった。ありがとうなんて、あの手紙がもらえたら言葉なんて要らなかった。

要らなかったんだよ。


もう会えないから、もう隣にいないから、もう抱きしめてはくれないから、もう笑ってくれないから。

せめて私は自分にバレンタインを作って、自分でたべる。窓にある、花瓶に挿されたホワイトリリーが見ている。

余分な糖分が涙と一緒に排出されればいいのになんて、馬鹿な事を思いながら、白い手紙をなぞっては開いて読んで、棄てようとしては諦めてを、ずっとずっと、ずっと、ずっと、繰り返す。



どこからどこが、本物で。どこからどこが、偽物だったのかすらも曖昧で。



そんな風に、君の事を忘れられるまで、君の事を想い続けるんだと。

繰り返し。繰り返し。





ーーーーて、いう、夢を見た。

白い手紙が捨てられない、彼女の話。ううん、私の話。

うつらうつら、夢と現実の境界線がぼやけて曖昧で、夢で泣いてるのかと思ったら少しずつ朧げな視界から靄が消え、本当に泣いていた。

エアコンの音だけが部屋に響いていた。

とっくに、未練なんてありきたりな感情と共にあの手紙は確か捨てた。社会人になって直ぐに。

あの時の恋は生涯忘れることは無いんだろうけど、でも段々と記憶は薄れ、数年前みたいにふとした衝撃で思い出して胸が苦しくなる、なんてことも無くなった。ならば顔もちょっと朧げで、忘れそうになる。

会いたいと、思ったりする。それは「元気にやってるのかな」なんて懐古する感情だけで。

別に戻りたいとも思わないし、もう彼と恋しようとも思わないし、彼がこちらを向いてくれるとも思わない。

ただ、終わり方が少し切なかったから、そう感じるだけ。


こんなふうにして、人は恋したり愛したり別れたり忘れたりを繰り返すんだね、なんて自嘲した。




ただ、我が儘があるとしたら、今後、あの時のように"誰かに溺れる"ような恋ができるんだろうか、なんて。あと一度くらい、誰かに溺れてみたいな、なんて。

年甲斐もなく、思ったりする。


あの時大切にしてたホワイトリリーはとっくに枯れてしまい、捨てた。





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