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エッセイ

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エレベーター・やさしい人(中島みゆきの歌によせて)・分身の術など あれこれ
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2023年11月の記事一覧

逃げる夢 #シロクマ文芸部

逃げる夢 #シロクマ文芸部

逃げる夢を追ってみたけれど捕まえることはできなかった。
え?どんな夢かって?
たいしたことじゃないわ。
あのひとみたいに、お日様にあたって日光浴したかった。
しっかり顔をあげて。
「元気が出るよ」なんて言われて。
それからあの人みたいに自分の身体でしっかり立ってみたかった。
わたしは横たわることは出来ても、誰かに支えてもらわないと立てないから。
それからもっと長生きしたかった。
あの人みたいに。

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記憶に残る風景#虎吉の交流部屋プチ企画

記憶に残る風景#虎吉の交流部屋プチ企画

車窓からの富士

 新横浜から久しぶりに西に向かう新幹線「こだま」に乗った。
平日で空いていたが、富士の見える側の座席は申し合わせたように一人ずつ先客があり、海側の三人席に座った。
 ほどよい暖かさにまどろんだらしい。
「まもなく新富士でございます」の車内アナウンスで慌てて反対側の窓から外を見た。
 振り向けた視線より一段高いところに、白い雪をいただいた富士が、長方形の窓いっぱいに見えた。
 故郷

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誕生日

誕生日

誕生日
冬陽を浴びて
窓を拭く
初めて私の顔を見て
微笑んだ母の顔想いながら

ヘルパーをやっているころ書いた詩だ。
私の生まれたのは1月19日、静岡では珍しく雪の降る明け方だったと聞く。
ロマンチストの母は「雪湖」という名前を考えたそうだが、
「静岡生まれで雪湖は変だろう」と父に反対されたらしかった。

その母は20年前、父は昨年旅立った。
数年前、兄が建て替えた新しい墓石を見に、静岡まで姉と出

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大切にしている言葉#虎吉の交流部屋プチ企画

大切にしている言葉#虎吉の交流部屋プチ企画

大切にしている言葉は「じっと待つ」です。
といっても演歌でくり返し歌われている「去って行った男をひたすら待つ女」が好きなわけではありません。

わたしにとって立ち上がれないほどの重大事が起こったとき、姉が言ってくれました。

「今はじっと待つしかないよ。通り過ぎて行くのを。頭の上を通っていく台風をやりすごすみたいに、身をかがめてね」

姉もまた数年前、幼い子供二人を残して夫が急死する、という重大事

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