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【小説】kissing kitten

【kissing kitten】
お題:『言ってくれなきゃわからない』
https://shindanmaker.com/392860

※【小説】primary preparationの続きです。
https://note.com/friends17/n/na19055bcaea4

 同期生に手を引かれ、リビングを出て彼の部屋へ向かう。部屋の中は先程より生活感があって、彼が好きであろう漫画や本が収められた大きめの本棚、PCデスク、それとやはり少し大きめのベッドが置かれている。大人二人が横たわっても十分過ぎる大きさ。そこへ二人で腰掛けて、暫しの間何も言わずにお互い俯いていた——手は繋いだままで。
 ただ繋いでいただけの手を緩やかに解き、どちらからともなく、ゆっくりと指を絡める。心臓がどうにかなりそうだ。
「こういうのも初めて?」
「一応、女の子と手を繋いだ事はある、けど。そこまで」
「よくそこで止められたね」
「中学生で、初恋、なのかもよく分からない。何をしていたのかもはっきり覚えていなくて」
「うぶだなあ」クスクス笑う同期生。「ほんと可愛い」
「だから、」
「もう照れなくていいよ」俺を安心させるように頭を撫でる。優しく微笑んで頬を擦り付けてくる。くすぐったくて、同時に彼の熱を感じて、元から熱かった己の頬が更に熱を帯びた。お互いに顔を見合わせて、少し鼻をくっ付けてから、同期生が俺へキスをする。
「ん、」
 声が漏れる。片手で顎を持ち上げられて、弾みで閉じていた唇が開いてしまう。その隙を狙って、彼の舌がするりと口内へ侵入してきた。触れるだけの軽いキスじゃない。これが——
「苦しくなっちゃうから、鼻で息をしてね」
 キスの合間にそう言われるが、初めての経験で思考と行動がちぐはぐになる。処理が追いついていない俺に合わせて、舌を絡めたり舌先で歯を突いてみたり、探るような、それでいて融けてしまいそうな熱い熱い口付け。頭がぼーっとする。多分、彼の言う通りに呼吸が出来ていないせいだ。頭では分かっているのに上手く出来ない。
 ただキスされているだけなのにひどく、ひどくきもちよくて。己の陰部がはち切れるくらいに怒張しているのが分かる。
 気が付いたら、彼は俺の頭の後ろを抱えてみたり、耳をくすぐってみたりしている。彼に触れられる刺激全てが快感に直結するようで、何をされても声が出てしまう。
「ん、ふ、んっ」
「キス気持ちいい?」
「ん、」
「聞かなくても分かるか」
 そう言って一旦唇を離す。二人の間に唾液の糸がつ、と伝う。身体に力が入らなくて彼にもたれ掛かるが、彼はそっとそれを抱き止めてくれた。
「こんだけ感じるなら、やっぱ才能あると思うよ」
「何の才能だよ……」
 背中をさすられつつ精一杯の強がりを見せてみるが、まあ効果はなさそうだった。逆に彼の心を焚き付けてしまったようで、腕に力が込められるのが分かった。
「ねえ、教えて欲しいんだけど」耳元で囁く。
「な、に?」
「挿れられるのと挿れるの、どっちがいい?」
「え」
 当然と言えば当然な、しかし今聞かれるとは何故か思っていなかった事を率直に聞かれ、俺は声を上げた。一旦身体を離し、同期生は困ったように俺を見た。
「え、意味は分かるよね。散々俺の『作品』を観たんだったら」
「分かる、分かるけど。その」
 正直、口にしたら最後、本当に戻れなくなると思った。今更躊躇う理由もない筈なのに、どうしたいか、なんて。
「やっぱり怖い?」
「違う、お前とならいいって思ってる。それは本当だよ」
 必死だった。この気持ちよさから逃れたくない。けどどうしたらいいのか分からない。男はずっと挿れる側だと思っていたから、どっちがいいのかなんて分からない。すると、明らかに混乱している俺の様子を察したのか、彼は再び俺の頭を撫でてから、そっと頬に触れた。
「思い出して。俺がセックスしているのを見て、どう思ったの。どっちの気持ちで見ていた?」
 彼の言葉を反芻する。俺が初めて彼のセックスしている所を見てどう思ったか。
「それは」
「教えて」優しく囁く。耳元に触れる息が上気しているのが分かる。俺だけじゃなくて、お前も興奮しているの? 普段はそつのない態度なのに、お前も、俺で。
「言ってくれなきゃ分かんないよ」

——すごく、きもちよさそうだった。

「挿れて、欲しい」
「ん、」
 頷き、笑顔を浮かべる。
 言ってしまった。多分、多分だが。俺が彼の『作品』を観た時から、ずっと思っていたのだろう。挿れられて身をよがらせる彼が気持ち良さそうで。
 俺もいつかそうなりたい、なんて。
(完全にダメだ、これ)
 顔を覆う。恥ずかしさが尋常じゃない。隠したくてももう隠せない。俺はこれから同期生に抱かれるのだ。彼が感じていたものを俺も感じるのだ。恐怖よりも好奇心よりも何よりも、今まで感じた事のない快楽へ、どうしようもなく惹かれてしまう。
「じゃあ準備しなきゃね」
 そう言って肩を抱かれた。
「え」
「え、じゃなくて。あー確かにな、あんまそういう所映さないか」思案し、一人何かを納得するように頷く彼。
「え、何?」
「いきなり何の準備もなく挿れられないよ。慣らさないといけないし、中身も出さないと」
「中身」
「うん。中身」
 あんまり聞きたくないが、いや、多分予想通りなのだが。そうだよな、本来は挿れる所、じゃ、な。
「食物繊維摂ってる?」
「聞かないでくれ!」
 もう十分恥ずかしい思いをしたと思ったのに、これ以上の辱めがあるって事を受け入れたくなかった。彼は終始ニコニコと微笑んで、俺の額にキスをして、こう言うのだ。
「安心して、プロの味を堪能してね」
 もうやだ。好きにしてくれ。

(了)

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