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【地元の名店×フレンドフーズ】 京甘藷の革新的な、おなじみのおやつ

京都市左京区の小さなスーパー・フレンドフーズでは、全国から集めたこだわり商品はもちろん、地元の名店の逸品も多数取り揃えています。
どれも、フレンドフーズのスタッフ自身もファンのものばかり。そんな地元の名店と、そのお店が提供する商品を、当店のお客様であり飲食店の取材や食関係の書籍を多く手がける編集者・ライターの野村美丘さんに取材してもらいました。
今回伺ったのは、京都市右京区の「京甘藷(きょうかんしょ)」さんです。

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周山街道を市内から北へ、宇多野駅を過ぎて、高山寺に向かう途中。まだかな、そろそろかな、とちょっぴり不安になってきたころに、風にはためく暖簾を見つけました。

こちらの「京甘藷」が今日の目的地。「京都の人間にいわせたら、このあたりはけっこう辺鄙なところなんですよ」と店主の家村慶一郎さんが笑って出迎えてくれました。

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なぜこの場所で店を?とはよく訊かれるそうですが、第一にここ鳴滝地区は家村さんの生まれ育った場所であること。第二に「味さえよければお客さんは来はる」と確信していたこと、と答えは明白。この物件に以前入っていたラーメン屋さんがとても流行っていたそうで、それを目にしていた家村さんにとって“辺鄙”はマイナス要素でないばかりか、むしろ腕が鳴る要件でもあったのかもしれません。

イタリアンやフレンチなど、ずっと料理人として働いてきた家村さん。地元に戻る際、「人とはちょっと違うことに挑戦しようと思った」といいます。というのも、「京都で料理人としてやっていくのはなかなか厳しいかなと感じていたこともあって。とはいえ僕には料理しか取り柄がないから、食の仕事から離れるつもりはありませんでした」。ちょうど、名古屋にあるさつまいも菓子専門店を知り、これはおもしろい、とピンときたのだそう。

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△店頭で目を引くいもけんぴの山のディスプレイは、なんと本物を使っているそう

ところが家村さん、じつはさつまいもはさほど好きではなかったのだとか。それでもさつまいもを相棒に選んだのは、これまでの料理経験を活かして味や見せ方を工夫すれば、お客を呼べるオリジナリティのある商品が開発できるだろうという勝算があってのこと。

おいもが大好きで大好きで…という純粋な想いとは一線を画したかなり戦略的なアプローチですね、と言うと、「小さい子からお年寄りまで老若男女が好きな、親しみやすい食材じゃないかな、と思ったので」と冷静な見立てのお返事。

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とはいえ、いもを切って、揚げて、蜜に絡ませるのみ。大学いもも、いもけんぴも、つくり方は非常にシンプル。昔ながらの素朴な甘味だけに、小手先でいろいろ凝るような類とは対極です。

「だからこその、そのなかでのひと工夫、ひと手間なんです。たとえばいもけんぴは全部僕が包丁で切っています。機械を使うと全部同じ細さになるから、食感が全部一緒になってしまうんです。手切りすることによって太い、細いと違いが多少出るおかげで、食感や味に変化が出る。それが、食べていて飽きないことにつながるんだと思うんです」

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料理人のキャリアをもってしても、いも切りをマスターするのは時間がかかったとか。「京甘藷」のすべての商品のすべてのいもを、家村さんがひとりで手切りしています。

確かに、いもけんぴも大学いもも、昔ながらのおなじみなおやつ。逆にいえば、それ自体には目新しさはありません。ところが「京甘藷」の商品を初めて食べたとき、イメージしていた「おなじみのあの味」をはるかに超えていて驚き、かつ、家村さんの狙いどおりに手が止まらなくなりました。

いもの細さにしろ、手づくりの蜜の絡め方にしろ、計算された黄金比率が見事に反映されていた証左でしょう。

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△深さ、大きさと、いもけんぴを揚げるのに最適なサイズを特注したというフライヤー

そもそも、繊維を潰さずにこんなに細く長く切るのは、機械ではできないのだそう。いもを切る工程ひとつとっても、家村さんだからこそできるテクニックが使われていたのです。

ということは、つくる量に限界があるのも当然。そのうえ、秋に収穫されたいもの貯蔵がどうしたって底をつく夏場には、お店自体をお休みしてしまいます。いつでも、どこでも、なんでも食べられる昨今にあって、自然の元で人がつくった食材を人の手作業で加工した食品の、当たり前の存在価値。その尊さを感じられるのも、「京甘藷」のこだわり所以です。

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いま現在「京甘藷」の商品が手に入るのは、実店舗以外ではフレンドフーズだけ。先述のとおりつくれる数に限りがあるため卸しまで手を広げられないという現実のなかで、フレンドフーズにだけは営業に行こうと考えていた開店1年目、逆に引き合いがあったという相思相愛ぶり。フレンドフーズには週末と祝日を中心に、月に3回ほど入荷しています。

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△定番商品の「黄金芋」「塩けんぴ」「べっこう芋」「ひょうしぎ」ほか、スイートポテトや季節によっては焼きいもも。週末には山椒や黒七味のフレーバーものも登場します

写真、文・野村美丘(photopicnic)

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1974年、東京都出身。フリーランスのインタビュー、執筆、編集業。文化、意匠、食、旅、犬猫など自分の生活の延長上をフィールドに公私混同で活動している。また、フォトグラファーの夫とphotopicnicを運営中。著書に『わたしをひらくしごと』。編集した本に『ホーチミンのおいしい!がとまらない』『定食パスタ』『暮らしのなかのSDGs─今と未来をつなげるものさし─』など。2020年秋、京都に拠点をつくった際、フレンドフーズに初めて足を踏み入れて即ファンに。フレンドフーズにその感激を伝えるべくメールしたところ社長から即レスがあり、さっそくこの連載を担当させていただくという幸運を手に入れました。

www.photopicnic.pics




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