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解析学のストーリー〜大学数学を学ぶために〜


解析学の位置付け

代数学、幾何学、解析学というのが純粋数学における3大ジャンルとされている。
代数学は大きさのない点、それ即ち何を思っても良いというものをまるで代数学というものそのものの単位元と思えるような学問に対して、解析学というのはその「点」を関数というものに具体化したものといえる。関数とは2変量の関係があって初めて定まるものであり、その意味で本来は単位元にならないが、例えば線形代数における行列Aは線型写像の表現であり、関数である。故にこれを主に取り扱う場合線形代数は解析的な分野と思える。(※「代数と言いながら解析なのかい!」と思うかもしれないが、分野分けはあるものの拘る必要はない。)
分野分けは深く考え過ぎると、「現状で解析学と言われているものが解析学」としか言えなくなるので大体雰囲気で分かったら後は適当でいい。

解析学の目的

「勉強する上でのオチが無いと勉強する気にならない」という態度は正しい。
オチというのは学べば学ぶほど「自分は未熟だからそんな事言える立場じゃない」などと思いがちで、結局「皆勉強する中で調べたりして感じろ」という責任放棄になりがちなので、私が今知り得る限りで、私の言葉で誠心誠意(饒舌に語るのは純粋数学をやったものからすると「怖い」と思えるかもしれないがキニシナイ)伝えよう。

  1. 偏微分方程式論
    オチとして多分これを専攻している人間が一番多い。例えば$${(\partial_t - \Delta)u =0 }$$は熱方程式といい最も簡単な偏微分方程式の一つであるが、ここでのuというのは時空間における関数である・・・ということから単位元という舞台設定を点の中でも関数という具体性をもってやっているので解析学なのだ。
    そして具体的にはこれを解くということや、解の性質を追うということをやりたいのがオチである。

  2. 確率論
    上記関数uは時空間変数が与えられれば確定的と思っていい。(※未知変数という意味では確定的では無いのだが、その意味とは違う)。確率論としてはこのuを確定的でなくし、確率変数というものにする(即ち関数が時間変数のみ持っているとして時間が与えられた時に分布のみが確定的)。つまり基本的な解析学にワンステップ挟み、より汎用性を持たせたのが確率論である。

  3. 多変数複素解析
    今は昔、解析学といえば複素解析であった。解析には大きく分けて実解析と複素解析というものがあるのだが、複素数を使えばこれである。確率論と同様、基本的な解析の関数の変数xを複素変数zと思えば複素解析であるので、より汎用的とも言える。
    私はあまりやったことない。
    どっかで目にしたことがあるのだが、調和解析が実解析的論展開が出来るようになってから研究は鎮火気味。的なのを聞いたことがあるがどうか(※不正確です)。

まあ解析学はストレートに進めば偏微分方程式論であるし、修士院生レベルが最先端に触れることが出来やすいのもそこと感じるので、それをオチとして以降学び方を書いていこう。

微分積分学・線形代数学・集合と位相

これは教養数学の3大分野と言ってもよく、何らモチベーションがなくても残念ながら避けては通れないと思う。。なので大学入学後はまずここをやろう!
またこれを知らない数学者は存在しないので、極端に変なものでなければ本は何を使ってもいいと個人的には思っているが、まあ一応後で私のセレクトを紹介する。

微分積分学

微分とは2変数の相関関係を捉える学問であり、積分とは2変数が作る面積という特徴量を出力する取り組みである。微分と積分は逆作用にあるというのが微積分の基本定理と呼ばれるものであり、それ故微分方程式は同等なる積分方程式とも思えることができ、その方が都合の良いことがある。
またユークリッド空間上の連続関数を仮定しており、基本的な関数に関する増減的性質検査的学問である。
特に数列の極限の捉え直しから始まるのだが、解析学を通してユークリッド空間のような距離空間と呼ばれるものに対しては、空間における局所的(極限的)性質が全て数列の言葉に還元可能であるからやるのである(キザな言い方をすると空間は第2加算公理を満たすからである)。
最初に注意した通り、微積の本など何でも良いのだが、例えば以下は標準的テキストである。


また下の本はスパイスが効いており、多分何年か修行した後でないと読めないと思うが、真の実力がつく。

あと、一応名著と呼ばれているものをあげておくがかなり読みにくいと思う。

注意として、数学と言うのは知識ゲーでもなく、名著読みましたマウントゲーでもない。真の価値をよく考えましょう。

線形代数学

有限次元ユークリッド空間上の線形作用素論と思って良い。
解析学の単位元は関数。ということから解析学では関数空間を扱うのだが、関数空間は明らかに有限個の関数で張ることは再現不可能である(ある有限個の関数を固定しておいて任意関数がそれらの重ね合わせで表現できたら天地がひっくり返りますね)。無限個でも不可能な気がするかもしれないが、これは後に構成するルベーグ測度により位相を構成すれば実は出来る。
線形代数は線形作用素が行列Aによって表現されており、単なる$${n \times n}$$個の数値の解析によりスペクトル理論が完成されている。その摂動として無限次元をどれだけ把握できるかどうかは兎も角、無限次元をやる前にやろうというステップとしては自然である。しかし無限次元の推論だけでなく、数理モデリングによっては有限次元の解析そのもの、即ち線形代数論を使うことも多くあり、その意味で(特に応用系にとっては)有限次元の理論自体も独立して大事である。
これも別にどのテキストでもいいが、下の本は解析学におけるスペクトル分解を意識している。そして論証がかなり丁寧で読みやすい。

上が一旦読めた後、私は下を辞書がわりに使っていた。辞書というのはあまり無駄な事が書いていない方がいい。

応用系、例えば機械学習などの方は上記では足りない行列代数的な知識が必要と思うが、上が読めたら後は自力で探せるレベルになると思う。

集合と位相

位相空間という解析において最も重要と思う概念について学ぶ。
・・・疲れてきたので概略は昔私が書いた記事を読んでください。

これもどの本でも良い。例えば下の本は全ての数学書の中で私が初めて通読できた本である。2年の夏休み・・・。

微分積分で梶原譲二先生の語り口にハマった人は下の本も良いだろう。不思議なことにこの本は独習微分積分とあまり難度が変わらないように思う。位相空間の項では位相を入れる為の様々な手法の同値性が懇切丁寧に説明されてある。

特に位相空間の分野で駄目な本は一冊も見たことないので、逆に駄目に書く方が難しい分野なのではないかと思っている。

ベクトル解析

ベクトル値関数の微分積分学である。典型的にはマクスウェル方程式とかNavier-Stokes方程式とかがある。Navier-Stokes方程式においては$${\partial_t u-\Delta u+ (u \cdot \nabla)u + \nabla p = 0}$$なるシステムの未知関数$${u = (u_1, u_2, u_3)}$$が流体の流れを表しており時空間上のベクトル値関数即ちベクトル場になっている。熱方程式等の関数値はスカラーであるので多変数微分積分学における範疇になるが、Navier-Stokes方程式はその範疇ではない事に注意したい。ベクトル場というのは自然な数学的対象でもあるが上述のように物理的背景を持つ場合が多いので純粋数学科だからと言って極端に物理的側面を排除しようとするのは本質の理解という側面からも抽象化のモチベーションという観点からも個人的にはナンセンス感がある。特に水のような非圧縮性流体については$${\mathrm{div} u = 0}$$を仮定する(※圧縮性に対する仮定が無いと未知変数の数と束縛条件の数がマッチせず解に不定性が生まれる)のだが、これは流入と流出が各場所において等しいという特徴づけであり、物理学的背景を完全に除外してしまうと特殊関数のような趣を持つこの量の理解は難しいかもしれない。またDivergence Theorem等の立ち位置も把握しにくいだろう。参考書においては標準的な微分積分学にベクトル解析が載っている場合は殆どがそれで十分なように思う。

上の本はベクトル解析の数学サイドからのNavier-Stokes方程式への応用を意識しているから本質的な意味を知りたい場合は良いだろう。また電磁気学等の純然たる物理学の本も参考になると思う。

複素解析

常微分方程式

ルベーグ積分

関数解析

フーリエ解析

連続微分可能な関数等へのフーリエ変換は超古典的なフーリエ解析として存在するが、数学の理論的には$${L^2}$$とtempered distributionのクラスに対するフーリエ変換が重要である。

超関数(distribution)

$${\delta f = f(0)}$$のようなものは1点のみに重みをもつ作用素で関数として構成できないが物理学サイドではディラックのデルタ関数として数学理論が整う前からよく使われていたものである。そもそも$${L^1_{loc}}$$は実体がルベーグ測度に関する関数の同値類であるから関数の微細な変更は難しい。故に古典的な意味でやろうとすると積分と極限の交換が不可な関数列として構成するしかない気がするのだが複素数の存在を紙面に出さないような遠回りは基本的にナンセンスである。高々クロネッカーのデルタの拡張に過ぎない概念が数学的に意味合いを持たせることが難しいという歯がゆい状況は1950年にフィールズ賞を受賞したSchwartzの超関数の概念により解決された。つまりコンパクト台を持つ無限回連続微分可能な関数のクラス$${C_0^{\infty}}$$(に位相を入れたもの)の連続線形汎関数としてディラックのデルタが構成出来る事を示せる。これは$${L^1_{loc}}$$の拡張である。この成果により微分方程式はパラダイムシフトを迎える事となる。特にtempered distributionのクラスに対するFourier変換の定義が重要である。

参考書にはあまり代替え案がないようにも感じる。独学としては上が読みやすく良い。

ソボレフ空間

超関数の意味では全ての関数が無限回微分可能であるがそれではregularityとしてまるで意味がない。ルベーグ空間の意味でその可微分性を制御したものをソボレフ空間という。当然古典的な関数のクラス(※例えば$${C^2}$$など)と関係することが求められるがEmbedding Theoremによりその要請は満たされる。関数解析の本にもソボレフ空間の話は書いているが実際に微分方程式の本で使ってみて分かる事の方が多い気がする。下は楕円型の本。

下はソボレフ空間を様々な微分方程式に応用する本。

ソボレフ空間はFourier multiplierを通して擬微分作用素と密接な関係にある。その他Besov空間は(歴史的には)ソボレフ空間の補間空間として与えられる為補間空間としてのEmbedding Theoremの範疇である。解析上は空間の分割における評価により全体の評価を出せるというノルム形が重要となる。

偏微分方程式論

非常に広大な分野である。楕円型、双曲型、放物型という分類論的なアプローチ、Navier-Stokes方程式、Schrödinger方程式等の各論的アプローチがある。方程式を決めた上でもテーマが多くある。また半群等を典型とした関数解析的アプローチ、調和解析的アプローチがある。

ミレニアム問題の中にはNavier-Stokes方程式に関するものがある。即ちトポロジカルに構成された弱解の一意性である。

上記本は半群論によるアプローチであるがOpenな問題に触れてある。Serrin conditionがキーワードとなるものの現時点でそのギャップを解消できていない。

その他(ウェーブレット、調和解析、確率微分方程式等・・・)

ウェーブレット

JPEG2000で採用されている画像圧縮に関する数学を典型的な応用として持つ数学である。高周波をカットすることにより古典的な画像圧縮は可能であるが、Fourier基底が必ずしもエネルギーを効率的に取れているとは言えない。そこでウェーブレットが用いられることになる。基本的なウェーブレットの議論としてはマザーウェーブレットを構成しそこから多重解像度解析(というルーチンワーク)により基底を構成する事である。しかし基底という枠組みすら超えたフレームという概念はより冗長であるがよりエネルギーを効率よく回収することが出来る。

上はドブシー先生により最高の数学書であるが通読するのはきついだろう。

上の本はウェーブレットの第一人者でこれも名著。記述は全確認したと思うが誤植もなく読みやすい。

調和解析

基本的にはFourier変換の事である。上述したが超関数やFourier multiplierを通して微分方程式と深く結びついている。群上のFourier変換の理論も構成出来る。

暇を見て勉強中の身だが調和解析は代数学における表現論ともPeter-Weylの定理を通して密接な関わりを持っている。トーラス群に対するPeter-WeylがFourier級数論である。トーラス以外の群$${G}$$において理論展開することが抽象調和解析を行う事となる。

確率微分方程式

ブラックショールズ方程式と呼ばれるデリバティブにおける方程式が典型的である。かなり専門的なのでまだ取り組めていない。基本的な数理統計学をマスターした上になるが下記記事で本を紹介している。

特に確率過程においては$${\sigma}$$-algebraに対する条件付き期待値の定義を理解できるかどうかがキーとなる。マルチンゲール等で用いられるフィルトレーションと呼ばれる超重要な概念がポイントとなるが最初私は全然理解できなかった。

機械学習

高大な分野である。数理統計学と密接な関係にあり、結局は回帰である。広大過ぎて述べる事は出来ないが非線形回帰の重要手法にカーネル法と呼ばれるものがある。

またディープラーニングというのは結局は誤差逆伝搬法である(気がする・・・)から高校生でも分かるチェインルールに過ぎないので入りには良いと思う。もっと実学的には機械学習のコンペには恐らくkerasというモジュールが使われ、やるべきことは前処理で行列の形にデータを整形する事である。そこは各挑戦者の腕の見せ所である。(・・・という話を聞いたことがある)

作用素環論

学習中。関数解析続論的な内容である。物理学的素養を身に付けるべく力学、電磁気学、熱力学、解析力学等はほぼ分かり今は量子力学をやっている。

あと上の本を読んでいる。面白い。

代数解析

こういうのもあるとだけ・・・。ホモロジー代数が出来ていないと無理な気がする。極端に抽象的な数学なのでやる気がない。圏論は読み終わり、現在代数トポロジーを読んでいる。

ゲーム理論

応用数学的だがこういうのもあります。戦略は確率的な関数として解を持つので解析っちゃ解析(・・・かな?)。


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