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「フリーランスだから介護に適任」ではない!「親の介護」で共倒れにならないために知っておきたいこと

親にはいつまでも元気でいてほしい。しかし、親が高齢になると病気やケガがきっかけで突然寝たきりになった、認知症がはじまり介護が必要になったという話は珍しくありません。そして、介護者がフリーランスの場合、働く時間や場所などの自由度が高いがゆえに「介護に適任」と思われがちですが、決してそうではありません。フリーランスだからこそ、介護の難しさを感じることもあると思います。

そこで、介護のプロである河北美紀さんにフリーランスだからこそ、今から気をつけておきたい「親の介護」についてお話を聞きました。

ある日突然、自分が介護者に!さぁ、どうする?

——もし、遠方に住む高齢の親が倒れたと連絡を受け要介護者になったら、予備知識ゼロの状態でまずはどんなことをすればいいのでしょうか?

河北美紀さん(以下、河北):突然、知らない番号から電話がかかってきて、親が倒れたと聞いたらびっくりしますよね。しばらく入院が必要だったり、介護が必要になったりする場合は、病院の大小にも関わりますが、まずは医療介護連携室(名称は各病院で異なる)に相談してみてください。医療介護連携室では、医療ソーシャルワーカーがさまざまな不安や問題に対して相談にのってくれます。たとえば、遠距離介護になること、退院後も頻繁には帰れないなど、具体的に家族の状況を伝えると、介護のプロであるケアマネージャーや、地域包括支援センターを紹介してくれます。

——地域包括支援センターとはどんなことを相談できるところですか?

河北:地域包括支援センターとは、高齢者が住み慣れた地域で暮らすことをサポートする窓口です。ケアマネージャーや社会福祉士、保健師など介護・医療・保健・福祉それぞれの専門知識を持った職員が日常生活の支援をしてくれます。この地域包括支援センターに連絡をして、家族の状況を相談してみてください。介護サービスを利用したい場合は、要介護認定についても詳しく教えてくれます。いきなり家族だけで介護を担うわけではないので安心してください。

——「要介護認定」を申請するにはどうしたらいいのでしょうか?

河北:市区町村の役場窓口(地域包括支援センターで可の場合も)へ申請します。すると、市区町村の介護認定調査員が自宅や病院に訪問し、要介護者の身心の状態を認定調査します。その後、主治医(かかりつけ医)に主治医意見書を依頼し、介護認定審査会が審査判定を行い、認定結果通知書と認定結果が記載された被保険者証が送付されます。

——要介護認定されるまで道のりが長いように感じました。時間の融通が利くフリーランスとはいえ、仕事の合間に書類の提出など、時間を作る必要がありそうです。

河北:そうですね。認定結果の通知は要介護認定の申請日から30日以内が目安となっていますが、実際にはもう少し時間がかかります。退院後、すぐにサービスを受けたり、施設を考えたりする場合は、親が入院中に介護認定調査員さんに来てもらうなど、早め早めに動くことをおすすめします。また、認定結果を待たずに「見込み」で介護サービスを開始することもできますので、担当のケアマネージャーへご相談ください。

フリーランスだからこそ、介護に備えるということ

——次に「要介護」となったら子どもである自分が引っ越したり、引き取ったりしなくてはいけないのでしょうか? 実際にどんな生活が予想されるか、教えてください。

河北:介護者がフリーランスかどうかにかかわらず、親が要介護となった場合のお話をします。要介護者の親と、介護者である子どもがどんな生活スタイルを送るかによって変わってきます。ここでは考えられる4つのパターンを説明します。

1.親の家に通いの介護の場合
親が遠方の場合は交通費の負担や有休消化など、通いとなるとデメリットはあります。しかし、それぞれが自宅でゆっくり休めるため、お互いのペースは崩れません.

2. 呼び寄せ介護
遠距離の親を子どもの住まいの近くに引っ越しさせた場合(住まいは別)、通い介護にはなりますが距離が近い分、介護にかかる時間は短縮されます。介護者とその家族(パートナーや子どもなど)にとっては、仕事を辞める、転校せずにすむなど負担が減ります。

3. 同居
一番お金がかからないパターンです。親の年金を家庭の生活費にあてるケースもあります。しかし、プライベートの確保や生活リズムの違いにより、介護者やその家族に負担がかかります。家族の理解が十分得られないともめる原因になることもあります。

4. 施設介護
お金の工面が必要になりますが、親の健康や医療への管理が期待できます。介護者にとっては、仕事やプライベートへの影響も最小限になります。

フリーランスも知っておくと得をする情報とは?

——「親と同居していると受けられるサービスが限られてくる」という話を聞いたことがあります。どういうことでしょうか?

河北:原則的に介護保険による生活援助(家事代行)は同居の家族がいる場合は利用できません。しかし、同居家族が就労により日中不在にする場合や、家族も高齢で家事ができない場合は支援を受けることができるケースもあります。ただし、家事代行はあくまでもサービスを受ける方のみです。リビングなど共有部分の掃除や家族の食事などのサービスは受けることはできません。

——また逆に、同居しているからこそ受けられるサービスもあると聞いたことがあります。そのあたりを詳しく教えてください。

河北:市区町村によっては介護を行う家族に対して、介護慰労金(名称はさまざま)を支給するところもあります。状況によるので、介護慰労金を受給する場合はお住いの市区町村に相談してみてください。

——同居しているもののフリーランスで働いている場合は外に働きにいっている状況と同じように扱ってもらえますか?

河北:同居していても在宅での仕事で時間がとれない場合は、状況をケアマネージャーに伝えると、その家族に合ったケアプランを立ててくれます。なるべく朝から遅い時間まで利用できるデイサービスや、入浴介助のあるところを紹介してもらえます。また、同居家族が出張で家を空ける、短期入院する場合はデイサービスの延長でそのまま宿泊することができる施設もあります。ケアマネージャーに家族の仕事形態をしっかり伝えることで、不安は払しょくされます。

お金や預金通帳など、大事なものの管理方法や注意点

——同居をしていない両親のお金の管理を相談できるような窓口はありますか?

河北:高齢になるとどうしても物忘れがひどくなったり、物の管理ができなくなったりする傾向にあります。とくに預金通帳や印鑑、保険証など大事な書類を保管できているか心配ですよね。そんなときは市区町村にある、社会福祉協議会(日常生活自立支援事業)に相談してみてください。金銭管理や大事な書類の保管に加え、公共料金の支払いなどへの付き添い、郵便物の確認なども担ってくれます。認知症の場合、判断力の低下により「家族に盗まれた」、「ヘルパーさんが盗った」など、周りの方を疑うケースがあります。そうならないためにも、最初からお金や大事なものの管理を第三者に委ねることができるということを覚えておいてください。

——お金や大事な書類は家族が管理するしかないと思っていました。

河北:遠方に住む家族がすべてを管理することは難しいので、社会福祉協議会に相談することは有益だと思います。生活支援員が定期的に自宅を訪問(1回1時間の利用料は1200円程度)もしてくれるので、家族の安心につながります。必要な場合は、お住まいの市区町村の社会福祉協議会に相談してみてください。
 
——次に介護する側のお金のことについて教えてください。会社員の場合は「介護休暇」や「介護休業給付金」という制度がありますが、フリーランスの場合、こうした制度はありますか?
 
河北:会社員の場合は、家族を介護・世話する際に介護休業を取得することができます。これは対象家族1人につき、通算93日まで取得できます。また、介護で仕事を休んでも雇用保険の制度で給与の最大67%が介護休業給付金として支払われるので、介護に専念できますが、フリーランスの場合、残念ながらこれらのお金の補償がありません。時間の調整、収入の確保を自らでおこなうしかありません。よって、介護中の仕事のシミュレーションや、公的サービスを把握することが大事です。休業保障に代わるような民間の保険を活用するのもいいでしょう。また、日ごろから半年分の生活費を預貯金として備える意識を持っておくといいと思います。

——2024年11月1日に施行される「フリーランス法」で、介護との両立配慮が求められていると聞きましたが?

河北:2024年11月1日に施行される「フリーランス法」では、発注者は「6か月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければならない」と定められています。具体的には、打合せをリモートにする、体調不良や急な通院に応じてミーティング予定を変更する、納期を調整するなどの配慮が例示されています。「クライアント側に迷惑をかけられない」と抱え込んで無理したり、仕事を断ったりせず、まずは相談してみることで介護と仕事との両立を図りましょう。

フリーランスの介護を「孤独との戦い」にしないために

——介護者がフリーランスの場合、「フリーランスは時間の融通が利く」と思われ、介護負担がのしかかるイメージがありますが、この場合はどんな風に対処したらいいでしょうか?

河北:きょうだいがいるなど、介護者が複数いる場合も会社員、フリーランス、主婦、自営業と、それぞれ働く環境は違うかと思います。その中でもフリーランスと聞くと時間に融通が利き介護に適任と思われがちですが、現役の働き手であることに変わりはありません。そもそも特定の介護者だけが親の身体的介護の他、金銭的援助を負うには荷が重すぎます。きょうだいがどんな仕事形態であっても、介護は介護のプロにお願いすることを原則としたほうがいいでしょう。また、きょうだい間で「法律」を正しく理解し、話し合いをおこなうこともおすすめします。

——法律とはどんな内容でしょうか?

河北:民法877条、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と定められています。これにより、「子どもが年をとった親を介護するのは当たり前」と思っている人もいるかもしれません。しかし法律では、「生活を支え合う義務」とされており、身体的な介護の定めはありません。つまり、経済的なサポートを行うことで子どもとしての義務を果たしているといえます。介護は原則プロに任せ、きょうだい全員で平等に扶養する(親が生きるために必要な経済的なサポートをする)方法を話し合ってみてください。

——きょうだいがいる場合、親の介護について話し合う場を持つことも大事そうですね。

河北:特定のきょうだいばかりに親の介護を任せていると、家族関係もギクシャクします。それぞれが時間を作って集まることは大変ですが、きょうだい間でルールを決めてみんなで関わる努力も必要です。介護者が倒れたら一家総倒れです。このことも念頭に置いておきましょう。

——フリーランスゆえに仕事仲間と頻繁に会えず孤独を感じたとき、自分の心を守るためにどんなことをしたらいいでしょうか?

河北:フリーランスは会社員と比べると補償もなく、自分で働き方の管理もしなければならないと、気持ちが滅入ってしまうこともあるでしょう。そんなときは親の見守りをヘルパーさんに頼んで飲みに行く、友人と外出するなど、意図的に気持ちの切り替え、ストレスを発散する時間も必要だと思います。基本的に見守りにかかる介護費用は、要介護者である親のお財布から出してもらうなど、金銭的な負担を背負い過ぎないことも大事です。

——フリーランスの介護者は自分ファーストという意識も大切なようですね。

河北:そうですね。仲間を作ることで自分の心を守ることにつながる場合もあります。市区町村が主催の介護者交流会では、家族以外の理解者の存在ができます。介護者同士、日ごろの悩みを相談したり、有益な情報を共有したりすることで介護疲れを軽減できます。

——最後にまだ親が元気なうちに、「これだけはしておいたほうがいい」ことがあったら教えてください。

河北:まずは老後の生活資金はどのくらいあるのか確認することです。話しにくい内容かもしれませんが、いざ介護がはじまったらやはりお金はかかります。資金によっては民間のサービスをどれだけ使えるかが変わってくるので、通帳や印鑑の場所から実際の生活資金がどれだけかを確認しておくといいでしょう。

次に親の自宅を断捨離しておくことも大事です。なぜなら、介護は導線(床面積)が命だからです。いつ何時、介護用ベッドとポータブルトイレが必要になるかわかりません。また、車いす生活になる場合もあります。そして、布団を敷いて寝ている場合はベッドに、こたつなど床に座って食事をしている場合はテーブルと椅子の生活に慣れておくことです。立ち上がる動作が楽な生活に慣れておくことは結果的に、家の中の活動量が増えるのでおすすめです。そして、介護する側にとっても楽です。また、お米やお水などを宅配してくれるお店をチェックし、今から利用しておくといいでしょう。最後にスマホのアプリを活用できるようにしておくこともおすすめです。見守り機能から、位置確認、そして最近はアプリでエアコンを遠隔操作できるので、介護者が親の自宅のクーラーを入れたり、消したりもできるので、元気なうちにさまざまな機能を覚えておくといいでしょう。 

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今回は河北さんにフリーランスの人が、突然介護者になった場合についていろいろと教えてもらいました。「うちの親はまだ大丈夫」、「そのときが来たら考えればいい」と思いがちですが、介護はいつやってくるかわかりません。フリーランスだからこそ、親と自分のために日頃から意識を高く持っておくと安心ですね。

■教えてくれた人
河北美紀さん(かわきた みき)
株式会社アテンド代表取締役 江戸川区介護認定審査員
旧三菱銀行・みずほ銀行で10年間窓口とローンアドバイザーに携わったのち、2013年に高齢者向けリハビリデイサービス事業(株)アテンドを設立。35歳で実父の介護を経験した当事者として、「介護する人・される人双方が安心して暮らせる介護ノウハウの提供と環境作り」の提供に邁進している。著書に『身近な人の介護で「損したくない!」と思ったら読む本』(共に実務教育出版)などがある。

近著『介護のプロだけが知っている!「お金」と「保障」がすらすらわかるノート』(実務教育出版)1,870円(税込)

 ■執筆者
安田ナナ
フリーライター
新卒後、スポーツメーカーで約10年勤務。子育てが落ち着いたタイミングで一念発起し、「書いて稼ぐ」を決意。現在はブックライター、インタビュアー、コラムなど 書く仕事に加え、企画・編集またタレントのマネージメントも兼務している。得意分野はエンタメ、教育、食、そして旅のこと。人生の目標は「ゆるりと丁寧に生きる!」「胆力を養う」。さとゆみライター講座 宣伝会議1期生。
安田ナナ(@_nana_yasuda) • Instagram写真と動画

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