優れた起業家には共通点があった!不確実性の高い状況に対処できる「エフェクチュエーション」という意思決定論
「エフェクチュエーション」という言葉を聞いたことはありますか?
多くの人にとってまだ耳馴染みのない言葉だと思いますが、ここ数年、起業家を中心に、新たな潮流として世界的に注目を集めている「意思決定の理論」です。
この理論は不確実性の高い問題に対処するうえで、とても有効なものだと言われています。ただ、これまで日本では「エフェクチュエーション」についての一般書があまり出版されておらず、学びを深めることができないままでした。
そのような中、日本初の「エフェクチュエーション」の入門書が登場しました!
フリーランスの”強み”を最大限に活かすための理論
今回ご紹介するのはその入門書、『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』(ダイヤモンド社)です。
「エフェクチュエーション」に関する解説を吉田満梨さんが、理論を活用するための具体的なヒントや事例を中村龍太さんが執筆しています。
中村龍太さん(以下龍太さん)は、フリーランス協会の事務局メンバーとしても活動されている方。以下の通り、協会の「中の人」の連載にも登場しています!
年に2回、事務局メンバーが集まり相互理解やビジョン共有を行う合宿では、龍太さんが考案された「パエリアづくりで学ぶチームビルディング」のワークショップを協会メンバーが体験したのだとか。
本書には、「パエリアづくり」と「チームビルディング」を掛け合わせたワークショップがどのような思考法で生まれたのか?も解説してあり、とても興味深い内容でした。
自分が既に持っている「手段」を活用して何ができるかを考えるところから始める「エフェクチュエーション」という思考法は、会社組織と比べて、手段が少ないフリーランスこそ、身に付けておくと良いと思いました。
小回りが効くからこそ、臨機応変に動きやすい。
そんなフリーランスの”強み”を最大限に活かすための理論と言えるでしょう。
予測せず、コントロールするための思考様式
エフェクチュエーションは、意思決定理論であり、思考法でもあることは説明しました。
では、この読みづらい言葉の語源は何だと思いますか?
「結果を生み出す効果がある」という意味の“effectual”と変化を促す働きかけを意味する“ation”を組み合わせて、生まれた言葉だそうです。
この理論の提唱者は世界的経営学者のサラス・サラスバシー氏。カーネギーメロン大学の博士課程在学中に、極めて不確実性の高い問題に繰り返し対処してきた優れた起業家の意思決定について研究した結果、彼らが共通して活用していた5つの思考様式を発見したそうです。
そして、その5つの思考様式の総体を「エフェクチュエーション」と名づけました。
「エフェクチュエーション」の大きな特徴は、高い不確実性に対して、従来の経営者が重視してきた「予測」ではなく「コントロール」によって対処する思考様式である点です。
2020年以降のコロナ禍を含め、我々の社会には「予測」ができない問題が次々に起こっています。「エフェクチュエーション」はこのような問題にも有効な行動指標を提供してくれるとのこと。
「エフェクチュエーション」という意思決定理論がVUCA時代の救世主になるのかもしれませんね。
エフェクチュエーションの5つの原則
さて、「エフェクチュエーション」には5つの思考様式があるとお伝えしました。
その思考様式を「原則」と表現しているのですが、どれも少し変わった名前がついていて面白いんです!
1、「手中の鳥」の原則
2、「許容可能な損失」の原則
3、「レモネード」の原則
4、「クレイジーキルト」の原則
5、「飛行機のパイロット」の原則
いかがでしょう。きっと言葉だけではその意味するところが分からないと思いますが、本書を読み進めていくとそれぞれが秀逸なネーミングであることが理解できるでしょう。
1、「手中の鳥」の原則
この原則の名前は、以下の英語のことわざに由来しています。
優れた起業家は目的達成のために、不確実な資源を追い求めるのではなく、自分が既に持っている「手段」を活用して何ができるかを考えるそうです。
新たに何かを学習したりスキルやネットワークを開拓することは大変なことです。また、不確実性の高い問題に対しては何が必要な資源になるのか、答えが分からないことも多いもの。すべての資源を揃えてから、と考えていては時間ばかりが経過しせっかくのチャンスを逃しかねません。
優れた起業家は既にある手段でいち早く行動を起こし、次に繋げていこうと考え行動するそうです。そうすることで想像しなかった出会いなどの機会から新しい目的が見いだされることもあるそうです。
2、「許容可能な損失」の原則
優れた起業家は、予期せぬ事態は避けられないことを前提に、最悪の事態が起こった場合に起きうる損失を見積もり、それが許容できる範囲なら実行しようと考えるそうです。
不確実性が高い状況下では成功する確率を計算することができません。優れた起業家は成功する確率が分からないのであれば、逆に許容できる損失の範囲を定めその範囲内で行動しようと考えるのです。
3、「レモネード」の原則
この原則も、以下の英語のことわざに由来しています。
優れた起業家は、予期せぬ事態は不可避的に起こると考え、むしろ起こってしまったこと自体を前向きにとらえ、テコとして活用しようとする傾向があるそうです。
酸っぱいレモンはそのままでは食べられないけれど、レモネードにすれば美味しく飲むことができるように、一見ネガティブに思える出来事も捉え方を変えると新しい何かに繋がるかもしれない、と考えるのです。
4、「クレイジーキルト」の原則
クレイジーキルトとは、不定形の布をパズルのように縫い付けたキルトのことです。
優れた起業家は、いまだ市場が存在していない新規の事業であるならば誰が顧客で、誰が競合になるかは事後的にしかわかりようがないと考え、むしろ交渉可能な人たちとは積極的なパートナーシップを求めようと考えるそうです。
この思考様式が、大きさ・形・色・柄が異なる布を縫い合わせたクレージーキルトのようであることからこの名前がついています。
5、「飛行機のパイロット」の原則
最後の原則はこれまでの4つの原則とは異なり、「エフェクチュエーション」のサイクル全体に関わるものです。
コントロール可能な活動に集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい成果に帰結させる、という思考様式です。
パイロットは航路がずれていないか、想定外のことが起こっていないかを計器の数値や視界の状況から察知していく仕事。
優れた起業家もパイロットと同様に、未来に起こるであろう結果の予測や過去の成功失敗ではなく、「いまここ」に集中して望ましい結果に導こうとするそうです。
フリーランス実践者の龍太さんが、パエリアを研修事業に繋げるまで
理論の紹介のあとは、「エフェクチュエーション」の実践者として龍太さんのお話が書いてありました。
龍太さんはサイボウズ(株)、NKアグリ(株)、コラボワークの3社に従事している複業家/ポートフォリオワーカーです。
龍太さんの数ある「エフェクチュエーション」の事例の中で、パエリアとの出会いが研修事業にまで繋がっていったストーリーがこちらです。
ステップ① 手中の鳥
手中にあったのは、「ワクワクで喜ぶ自分」と「バレンシアーナのパエリアを薪で炊けるスキル」。
ステップ② 許容可能な損失
(出来る範囲で)パエリア料理教室を開催。料理教室を通してサイボウズの組織の世界観をイメージした「パエリアワークショップ」を構想。
ステップ③ クレイジーキルト
紹介してもらった八尾市の職員から研修事業を受注。
この道のりは現在、「パエリア作りで学ぶ、ティール型組織」という事業に発展しているそうです。
このような具体例を通して、「エフェクチュエーション」は5つの原則をすべて埋める必要がないことが理解できました。
まずは、どれか1つでも実践してみる。
そっと背中を押してもらえる事例がいくつか紹介されていて、実践のイメージが湧きました。
また、不安になりがちな「予測不可能」という要素も「レモネード」や「クレイジーキルト」と捉えることで前向きに受け止められることも学びました。
フリーランスは、自分ひとりで意思決定しなければいけない局面が少なくありません。そんなときこそ、「手中の鳥」「許容可能な損失」「レモネード」「グレイジーキルト」の思考法を取り入れて、「今ここ」に集中し、自分の人生の手綱をコントロールして空を飛ぶことに注力したいと思いました。
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