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“ジョブ型”の、その先へ。協会の組織運営が、僕にはたまらなくおもしろい。【パラレルキャリア推進PJ/中村龍太】

フリーランス協会で働く人を紹介する「突撃!フリーランス協会の中の人」。
 
今回は、パラレルキャリア推進プロジェクトで、副業したい人や副業させたい企業の支援を行っている中村龍太をご紹介します。

パラレルキャリア推進プロジェクトチームの中村龍太

1964年広島県生まれ。日本大学生産工学部卒業後、1986年に日本電気入社。1997年マイクロソフトに転職し、いくつもの新規事業の立ち上げに従事。2013年、サイボウズとダンクソフトに同時に転職、複業を開始。さらに、2015年にはNKアグリの提携社員として就農。現在は、コラボワークス、サイボウズ、自営農業のポートフォリオワーカー。2016年「働き方改革に関する総理と現場との意見交換会」で副業の実態を説明し、厚生労働省のモデル就業規則を副業解禁に導かせる。また、プロフェッショナル&パラレルキャリアフリーランス協会のパラレルキャリア推進チームにて複業の伝道師としても活動中。複業の本質をついたバイブル『多様な自分を生きる働き方』や幸せを目的にした働き方を描いた『出世しなくても、幸せに働けます。』を出版。

ミドルシニア世代の希少な副業ロールモデルとして、これまで数多くのメディアやセミナーに登場し、著書も出版する中村。
長年の複業で得た知見を活かしてフリーランス協会でも活躍するほか、ユニークな組織作りに定評のあるサイボウズの中核で働く中村ならではの視点で、協会の事務局運営の面白さを分析してくれたりもします。
 
事務局内でもレアな「アラ還(アラウンド還暦)」メンバーでありながら、世代ギャップを感じさせないフラットさと柔軟さが際立つ中村に、外部ライターが突撃インタビュー!

週4でサイボウズ社員、週3で自社経営と農業

──龍太さんは複業家としてご活躍されています。現在はサイボウズやコラボワークス、自営農家のポートフォリオワーカーとして働かれていますが、日頃、パラレルなお仕事をどんなスケジュールで進めているのでしょう?

中村:まず、いちばん時間を使っているのがサイボウズ社員としての仕事ですね。1週間でいうと、火〜金曜日がサイボウズの仕事。土〜月曜日は、自社であるコラボワークスの事業を含め、フリーランスの仕事や、自営農業の仕事をメインにしています。農業はずっと作業をするというより、「デスクワークの休憩中にちょっと畑を見に行く」など、横の軸をとるようなイメージでやっています。

──オフィスワークも、畑の近くでやられているのですね。

中村:コロナ禍の変化で、自宅そばの遊休農地に「印西グリーンベース」という多目的仮設スペースをつくったんです。ビニールハウスに床を張り、農作業だけでなく、コワーキングや地域のコミュニティスペースにも使えるようにして。デスクワークもそこか自宅で行うようになりました。

奥のビニールハウスは、「印西グリーンベース」。手前はニンジンを育てている畑

──それぞれのお仕事内容も少しずつ伺いたいです。まずサイボウズでは今、どんなお仕事をしているのでしょう。

中村:サイボウズでは社長室長として働いていて、会社の理念である「チームワークあふれる社会を創る」に基づき、まちや市民に対しても、チームワークあふれる社会にするプロジェクトを進めています。たとえば児童虐待や災害、教育関連などのプロジェクトがあります。
 
児童虐待問題についていうと、行政やNPO、学校の先生、児童相談所などがうまく情報共有できずに、悲しいことが引き起こされてしまう状況があって。そこへ私たちが入り、普段は分断されている組織をチーム化し、子どもたちを守る仕組みを考えたりしています。その情報共有にサイボウズの自社サービスであるkintoneというクラウド型の業務改善プラットフォームを活用しています。

“呼吸”のようなバランスで、複数の仕事を行き来する

──ご自身の会社、コラボワークスではどんな事業を展開されていますか?

中村:コラボワークスでは現在、10個の事業がパラレルに走っています。僕は「呼吸するような社会をつくること」を大事にしていて、その考えをもとに自然に生まれたのが10の事業なんです。

──「呼吸するような社会」とは、どういう意味でしょう?

中村:呼吸って、自分の中で無意識なこともあれば、深呼吸して心地よいこともあるし、走って息切れすることもある。そのバランスを自分でコントロールすることが大事だと思います。
ですから、呼吸をコントロールができないくらい大変な状態に置かれているとしたら、それは持続可能な形ではありません。
呼吸が苦しくない程度に、一人ひとりが自分の生活、仕事などの生き方のバランスを考えていける世界になればいいなと思っています。

コラボワークスで展開している事業例(コラボワークスHPより)

──つまり、10の事業は、龍太さんにとって「呼吸するような」存在ということでしょうか?

中村:そうですね。事業を生み出そう!と気張ったことはないですね。
最近人気なのは、「パエリアづくりで学ぶ、ティール型組織」のワークショップ。

協会メンバーもパエリアワークショップを体験!

集まった人たちでパエリアをつくると、それぞれの人が判断して動くなかで自然と役割が生まれ、あうんの呼吸でひとつのものが完成していく。その体験を通して、チームビルディングへの学びを提供しています。
 
その他、「飾らないムービー撮影」「会場との一体感を引き出すモデレーター」など、僕が自分の持っているものから考えた、ジャンルもさまざまな事業を展開しています。

──自営農家は、それとはまた別の会社になりますか?

中村:はい。義理の両親が農業をやっているので、そこの従業員として手伝っている形です。「体力労働」はどこかネガティブな言葉として使われることが多いですが、僕にとってはこれがまた幸せなんですね〜。
パソコンに向かってITサービスを扱う仕事と、体を動かして食べ物をつくり、それを人に買ってもらう仕事、そのバランス感が心地いいなと感じています。

実は誰もが、フリーランスなんじゃない?

──日本電気(NEC)、マイクロソフトを経て、サイボウズとダンクソフトに同時転職し、複業家の道を歩み始めた龍太さん。「副業」や「複業」の捉え方に変化などがあれば伺ってみたいです。

中村:最初は完全に「副業」の認識から始まりましたね。マイクロソフトからサイボウズに転職のお話をいただいたとき、僕は40代後半。やりがいのある魅力的な誘いだったけれど、子どもたちのために、給与が減ってしまう状況は厳しかった。そんななかサイボウズ側から「うちは副業ができるから、足りない分はどこかで稼いだらどうですか」と提案されて。「あ、そうか」と2つの会社に同時転職したのが始まりでした。

──そこから、“複業”や“フリーランス”の意識を高めていった背景とは?

中村:フリーランスとして自分の名前でお金をいただく認識になったのは、それからだいぶ経った2018年ごろから。自分ができることを言語化して、自分で見積もりを出して仕事をいただく経験をし始めてからですね。

IT/IoTを使って、糖度の強いニンジンを育てている

 その頃から、金銭だけでなく、「経験」や「つながり」も報酬として認識し、「複業」を組み立て始めました。その頃からが僕にとっての“フリーランス”の始まりかなと思います。

フリーランス協会とお仕事をさせていただくようになったのも、同じ頃。まりさん(代表の平田)から、「複業のロールモデルとしてちょっと手伝ってもらえないか」と言われて入ったんですが、活動を手伝うなかで、「あれ? フリーランスじゃん、僕も」と気づいて(笑)。
 
僕みたいな世代の人は特に、フリーランスは自分ごとじゃない、と思っている人が多い。でも健康寿命が長くなり、「働く」の考え方も変わってきたなかでは、皆フリーランスなんじゃない?と思うんです。これからはもうちょっと、フリーランスが大衆化すればいいなと思ってるんですよね。

──以前の龍太さんと同じように、ひとつの会社で長く働いてきた同世代の方々に、伝えたいことは?

中村:複業の機会はたくさんあるよ、は伝えたいですよね。
例えばゴルフ好きな人なら、ゴルフ道具の使い方を発信してみるとか。ゴルフを教えられる人はたくさんいるけれど、きっとその人ならではの教え方があって、それは1000人中、1人にはぴたっとマッチするんじゃないかと思うんですよ。

紙のビラを配るしかない時代は、その「1人」に出会うのは難しかった。でも今は、一気に何千人に共有できる、SNSという道具もある。機会は常に開かれていることは、まだまだ伝えていきたいですね。

ニュートラルな立場だから、できること

──協会では、パラレルキャリア推進プロジェクトのリーダーとして、どんな活動をされてきましたか?

中村:一番印象に残っているのは、2019年に副業解禁企業12社のヒアリング調査レポートをまとめたことですね。一口に「副業解禁」といえどもその目的や関与度はさまざま。副業関連のルールは各社の企業風土や評価制度といった前提と併せて意味を成すことが明らかにできました。

 直近では、法人向けのキャリア自律支援研修サービスを1、2年やっています。実際にパラレルキャリアを実践してきたフリーランス協会の事務局メンバーが講師を担当していることが、他社のキャリア研修とは異なる特徴かなと思います。

──企業側の反応などはいかがですか?

中村:人事部の方などから、「なぜキャリア自律やスキルアップが必要なのか、初めて社員に腹落ちしてもらえました」「企業として副業推進をするにあたってどんな手を打てばいいかわかりました」といった声をいただきます。

活動を通してわかったことは、企業側は副業やパラレルキャリアについての理解が浅かったり、そもそもキャリア自律やリスキリングといっても何をすればいいかわからない状況があるということ。
私たちは従業員向けに研修をしているだけではなくて、人事部の人たちが目指していきたい人材育成や支援の解像度を上げる役割にもなっているのだなとよく感じています。

──先日の事務局合宿を「印西グリーンベース」で行ったそうですね。

中村:そうなんです。協会はフルリモートの組織ですので、ビジョンのすり合わせのために、半期に一度、リアルで対面する機会を合宿という形で設けています。パエリアづくりを通して、メンバーの相互理解が深まり、チームビルディングに寄与するため、みんなから「やってみたい!」という声が以前からあったのです。

同じ具材(野菜・お肉・お米)で同じように焚き火でパエリアをつくるのですが、出来あがったら全然違います。今回も、見事に違っていて面白かったですね。

ニンニク多めのパンチが効いたパエリア、お野菜とお肉の出汁が効いたパエリア、塩味強めのパエリアなど。もちろん調味料の分量によって違いが強く出ますが、調味料を入れる前であっても、野菜の切り方、火加減だけで、色も味も違います。

出来あがったパエリア。盛りつけ方にも違いが出る

その違いが生まれるのは、チームの個性であり、ひいてはチームメンバーの個性でもあります。

──へー、パエリアづくりって奥深いんですね!合宿ではパラレルキャリア推進プロジェクトの今後についても話し合われたとか。

中村:そうなんです。合宿でのディスカッションを通して、2023年に取り組んでいきたい、2つの方向性が見えてきました。
 
1つは法人向けに、協会というニュートラルな立場だからこそできることをもう一度検討していくこと。ここ数年、会社員向けの自律支援研修を行ってきましたが、この領域は昨今のリスキリングブームもあって民間の研修会社が多数参入してきています。

引き続きご依頼いただくところにはお応えしつつ、以前12社の副業解禁企業の調査レポートをまとめたように、今年は、副業推進やキャリア自律支援について課題を抱えている企業に役立つリアルな知見を集約・提供する役割に注力しようと話しています。
 
もう1つは個人向けに、フリーランスや副業・兼業を始めたい人がモヤモヤを抱えやすいポイントについて、発信を強化していくこと。たとえば僕らの世代だと、「副業をやると年金が減るんですか?」など、税や保険まわりに不安を抱えて踏み出せない人も多いんです。そこを解消して、一歩踏み出しやすい環境をつくっていきたいですね。

協会事務局の組織運営が、とにかくおもしろい!


──合宿では、「協会事務局の組織のあり方」についても、経営や組織に知見をお持ちの龍太さんのご意見から、話が盛り上がったとか。

中村:まりさんと僕の1on1で、協会の組織運営についてもっと発信すべきとコメントしたのを、合宿でも取り上げてくれて。まず一言でいうと、フリーランス協会事務局って、自律的な個人の集まりなんですよ。

合宿にて、フリーランス協会の組織運営について語る代表の平田

「正社員ゼロ、フルリモート、全員複業、ほぼ全員業務委託、全員一律報酬単価、ジョブ型、プロジェクトベース、評価なし、ヒエラルキーなし、やれる人がやれる時にやれることをやる」という組織で、37名も集まって。

こんな組織はまだあまり、日本にはなさそうですよね。僕はこういう組織、これから選択肢として必要なんじゃないかと思うんです。

──ポイントはどれか1つの要素ではなく、これらの要素を併せ持つこと?

中村:「ジョブ型なのに全員一律報酬単価」、「ジョブ型なのにやれる人がやれる時にやれることをやる」って、相反することをやっているような感じですよね。いわゆる普通の“ジョブ型”は、「あなたはこれをやる」と雇われて、その成果に対して報酬を払う考え方。それとは明らかに違う。
 
これができる、理由があると思うんです。1つは、協会にはブレないビジョン「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」があって、各メンバーがそれを認識し、共感して集まってきていること。むしろそれ以外はあまり細かく決めていなくて、それぞれ、その理念を自分で解釈できる余白があるんですね。

事務局メンバーでつくった「 F」の文字。ドローンで撮影

もう1つは「報酬」について、協会側と個人側が、それぞれ自律的にマッチングできる構造が存在しているから……じゃないかと僕は思います。報酬の時間単価は全員同じなんですが、半年に一度、次の半年はどんな役割で毎月何時間コミットするかを、自分で決めるんです。
 
さらに言えば、僕は報酬を「お金・経験・つながり」の3つと捉えていて、さらに安心、貢献、展望というキーワードと掛け合わせると9つに分類できると考えています。

その9つの報酬を、協会側がどう提供できるか、個人側がどうもらいたいかが、各人によってマッチングできている。マッチングが「スキル」と「お金」だけではない、既存の“ジョブ型”の枠にはおさまらない新しい組織のあり方がここにある、と思うんです。

──「スキル」だけの“ジョブ型”ではない、「経験」や「つながり」も含む新しい組織形態がある。

中村:そう思います。一方で、「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」というビジョンに対しても、自分なりの解釈でゴール設定ができる。だからこそ「やれる人がやれる時にやれることを」が成立する。自律的なキャリアを築くプロジェクトをバランスよく作り出している、おもしろい組織なんですよ〜! しゃべっていると、わくわくしてきますね。

エフェクチュエーションと事務局組織の共通項

──龍太さんは複業を広げる考え方として新規事業開発の考え方、エフェクチュエーション理論(サラス・サラスバシー氏提唱)を紹介されていますが、エフェクチュエーションと協会の事務局組織についても、重なり合う部分などありますか?

中村:フリーランス協会のあり方自体が、エフェクチュエーションだなと思います。エフェクチュエーションの特徴は、事業を始めるにあたり、計画を立てないこと。すでに自らが持っている資金や時間といったリソースの範囲で、できることから始め、新しいものを生み出していく考え方です。
 
その中のひとつ「手中の鳥の原則」のポイントは、「私は誰か/何を知っているか/誰を知っているか」の3つです。エフェクチュエーションの真逆で、“目的主導”で考えることを「コーゼーション」と呼びますが、エフェクチュエーションでは手中の鳥、つまり“既存の資源主導”で、何ができるかを考えていくんです。
 
フリーランス協会の「誰もが自律的なキャリアを築ける世の中へ」は、“目的”のようでもあるけれど、実は各メンバーの「私は誰か」の中に「そうしたい意志」があり、かつ各自の「何を知っているか/誰を知っているか」も併せて、それぞれが解釈できる状態なのだと思います。

──確かに、目的主導というよりは、各人の解釈(意志、スキル、経験・人脈等)を持ち寄り、自律的にプロジェクトを進めている印象があります。

中村:ひとつ補足すると、コーゼーション型の組織は、社会に必要なものを作るには効率的であり、有効だから社会にたくさん存在しているんです。だからそれを否定するものではありません。ただ、新しいものを作っていくうえでは、エフェクチュエーション型の方が、創発的な成果が出やすいと思っています。

──限られたリソースの中で、次々と新しいものを生み出していくための組織形態なんですね。

中村:そしてフリーランス協会は、そのエフェクチュエーション型で動いている最先端の組織じゃないかと思っています。しかもそれがうまく回っている。その渦中にいられることは僕にとって何よりおもしろいし、関わり続ける醍醐味でもあります。この道のりはきっと、「呼吸するように生きる」社会にもつながっていると思うんですよね。

【私の道しるべ】「ありたい姿を大切に、今この瞬間を120%生きる」
 
「ビジョン」にはふたつあると考えています。ひとつは「〜を目指すべき」という目標、ゴール。もうひとつは、「〜したい」という自分の意志、スタンスです。
 
僕は目指すべき「ゴール」を持たないようにしていますが、エフェクチュエーション理論における“Who I am?(私は誰か)”として「呼吸するように生きる」というスタンスはいったん持っています(これは、変わる可能性もあります)。
 
そのスタンスだけを大切に持ちながら、あとは今、この一瞬を120%で生きていく。「あるべき姿」に捉われるのではなく、自分が自分として「ありたい姿」にフォーカスして、一瞬、一瞬、できることをとにかくやってみる、考えてみる。
 
そんな心構えで120%を積み上げていると、自然と違う世界や違う働き方、違う自分に出会えるのではないか。そう思っています。

多忙なスケジュールにもかかわらず、やわらかな口調で丁寧に、「いま、この瞬間」のインタビューに応じてくださった龍太さん。
その佇まいをとても素敵だなと思っていたのですが、「道しるべ」のメッセージを伺い、その背景に少しだけ、触れられたような気がしました。“世界最先端”な協会事務局がこれからどのように展開していくのか、とても楽しみです。

ライター:渡邉雅子
PR会社勤務、フィジー留学を経て豪州ワーホリ中にライターに。帰国後ITベンチャー等々を経て、2014年に独立。2016年より福岡在住。現在は糸島界隈を拠点にフリーライターとして活動。日常、まち、食、育児、多様性。エッセイ執筆や絵本の活動も。最近の興味はオルタナティブスクール。海辺とおいしい野菜が好き。
Web: https://masakowatanabe.themedia.jp/

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