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“器用貧乏”が「何でも屋」の原点。複数の仕事を俯瞰し、優先順位を考えて動けるパラレルな働き方が心地よい【パラレルキャリア推進PJ/郷田郁子】

フリーランス協会で働く人を紹介する「突撃!フリーランス協会の中の人」。
今回は、パラレルキャリア推進プロジェクトの中心となって、キャリア自律を目指す人向けサポートに尽力している郷田郁子をご紹介します。

郷田 郁子(ごうだ ふみこ)
福岡県北九州市在住。東京大学法学部卒業後、株式会社NTTデータに入社。結婚によるIターンで福岡市の監査法人系経営コンサルティング会社に転職し事業再生等に従事したのち、株式会社VIコンサルティングを設立。研修事業、経営コンサルティング事業等を行う。また株式会社ヴィンテージの取締役を兼務し、人事含む管理系業務を統括。多様な働き方を推進したいという想いがあり2020年にフリーランス協会事務局に参画。子供4人の母。

4人の子育てをしながら、3つの組織でバリバリ働くパワフルウーマン。代表の平田に引けを取らない小柄な身体のどこからそんなパワーが?というのは、郷田に出会う人々がすべからく疑問に思うはず。

いつも沈着冷静で、見た目からも聡明さが溢れ出ていますが、決して型どおりの優等生ではなく、ウィットに富んだ発言やノリの良さでみんなに好かれている郷田に、外部ライターが突撃インタビュー!

経営まわりの“なんでも屋”の延長でパラレルに


──こんにちは。郷田さんはパラレルに働きながら4人のお子さんを育てていると聞いています。まずは、お仕事の全体像から教えていただけますか?

郷田:大きく3本の軸があり、自分で経営している会社の仕事、夫の会社の取締役としての仕事、フリーランス協会の仕事ですね。他には、住んでいる北九州市の教育委員も務めることになったり……。最近は名刺の数がどんどん増えてきています(笑)。

──それぞれ、具体的にはどんなお仕事をされているのでしょう?

郷田:自分が経営する会社は「VIコンサルティング」と言うのですが、コンサルティングに留まらず、経営まわりの“なんでも屋さん”のようなもの。企業の事業計画の策定から、経理体制の整備、人事組織の支援まで、さまざまなフェーズのご相談にのっています。

また行政や企業から依頼されて行う、研修やセミナーの企画・運営も柱のひとつ。自分が育児中に起業した背景から、女性活躍、起業支援という分野に始まり、今は派生的に、タイムマネジメントやワークライフバランスなどのテーマも扱うようになりました。外部講師への依頼もしますし、私が講師として登壇することもあります。

──ご自身の会社ひとつとってもすでに幅広いですね!さらに、パートナーの取締役もされているんですよね? どんなお仕事なんでしょう?

郷田:夫の会社は医療とIT領域を専門にしたソフトウェアメーカーです。私はそこで5か年計画の策定など経営企画、経理や金融機関対応などの財務、採用や人事制度の整備、法務からISO取得まで携わっています。ここでも結局“なんでも屋”ですね(笑)。

オフィスの自席にて。後ろには関門海峡につながる海が見える

──“なんでも”できてしまうのが何よりすごいと思うのですが。加えてフリーランス協会では、どんな業務を担当されているのでしょう?

郷田:協会では、主に会社員の方向けに副業やキャリア自律に関する情報提供やサポートを行う「パラレルキャリア推進(通称:パラキャリ)」と、フリーランスに仕事を依頼したい企業を支援する「ジョブ創出」のプロジェクトに関わっています。


パラキャリで展開している50代向けの研修

パラキャリプロジェクトでは、2022年以降、主に大企業〜中堅企業向けのキャリア自律支援の研修プログラムを展開しています。副業を推進したい企業や、ミドルシニア層のセカンドキャリア支援を行いたい企業からご依頼いただくことが多いですね。
私たちのような現役のパラレルワーカーが講師となって、企業の社員に研修を提供するサービスで、私も企画から講師まで行っています。

重要なのは、複数の仕事を常に俯瞰すること


──3つのパラレルの仕事を同時に走らせていて大変だと思うのですが、どのようにバランスを取っているのでしょう?

郷田:3つの仕事をおおよそ3分割していますね。それを基本にしながらも、各々のプロジェクトの状況を見ながら、臨機応変に組み替えています。

もともと会社員時代にコンサルティング会社に勤めていたのですが、その時も複数のプロジェクトを同時に走らせていました。「◯◯社の経営企画室メンバー」としてクライアントの会社に常駐することも多く、「うちの会社」という主語で話すことが複数ある状態で働くことに慣れているので、特に苦になることはないんです。

北九州市の創業支援施設で、女性の起業について話しました

むしろ私の場合は、「この曜日はこの仕事しかできない」という固定化された働き方だとうまく回らない。やることは明確だけれども、いつやるかは自由にさせてもらえる方が、全体を俯瞰して、優先度を考えながら意思決定できる。パラレルに働けているのは、こうして時間を自分の裁量で自由に使えているからだと思います。

4人育児で、「急な変更」に強くなった


──プライベートでは、小学生から高校生まで4児の母でもある郷田さん。日々の時間管理など、どんな工夫をされていますか?

郷田:先ほど全体を俯瞰すると話しましたが、プライベートまで含めると、まったく俯瞰できていません。日々、綱渡りですよ。
この間も、子どもに「体操服のズボンがない」と登校前に言われて、洗濯物の山から掘り起こして見つけました(笑)。
ただ、子育ては突発的な対応が多くなりがちなので、できないのは仕方がないと割り切っています。

一方で、仕事は子育てと比べるとまだ時間管理しやすい。段取り次第でどうにかなる部分が子育てより多いと思っています。
最初にゴールを設定し、逆算して予定を押さえ、それにあわせて自分の業務を進めていく。この段取りノウハウは、コンサルの会社で身につきました。入ったばかりのころ、資料を作ってから上司に確認依頼しても、上司が忙しすぎてアポがとれなかったことがあり、段取りが大事だと学びました。

とはいえ、私、段取りする際のスケジュールの精度は高くないんです。○日で終わると見積もっていたら、もっと必要だったことはしばしば。ただ、そういう時でも落ち込まずに、修正しながら進めていくタイプです。

──重要なポイントは確実に押さえつつ、臨機応変に判断して進んでいくのですね。

郷田:はい。修正しながら臨機応変に対応する力は、子育てでさらに鍛えられました。4人も子どもがいると、予定通りに進まないことは日常茶飯事。急な予定変更や軌道修正など、相当な場数を踏みました。

「効率化」に、ゲームハック的な楽しさを見出す


──ここからは“なんでも”できてしまう郷田さんの背景を伺ってみたいのですが。大学を卒業後、新卒でシステム開発の会社に入社されたとのこと。そもそもITやシステムインテグレーターに興味を持ったのはなぜですか?

郷田:課題を解決したり、何かを効率化する現場は自分の性質に向いているなと思ったんです。またIT業界は比較的新しいため、男女の差も少なく自由度が高そうで、自分に合いそうだと思いました。

──課題解決や効率化への興味は、いつごろからあったのでしょう?

郷田:子どものころからジグソーパズルや推理小説が好きで、混沌としたものを整えたい、目の前の謎を解きたい欲求がありました。

試験勉強や受験も、要領の良さで乗り切ってきたところがあります。「ここの点数をとるためには、この単元に力を入れて、ここは無理だから捨てて」と、効率よく勝ちにいくのが楽しくて。ゲーム的なハックが好きというか。未知なるものに情熱を注ぐ研究者タイプとはまた違う、自分の性質だなと思っていました。

──その後、ご結婚を機にパートナーの故郷の北九州へ移住した際、コンサルティング会社に転職された背景は?

郷田:システム開発の会社時代も、外部のコンサルタントの方と一緒に働く機会は多かったんです。かつ働くなかで、自分はプログラミングよりも「どんなシステムを作るかを考える」フェーズのほうが好きだと気づきました。そこで移住を機に、福岡市の経営コンサルティング会社に転職したんです。

当時はリーマン・ショックの時期で、倒産しかけた会社の事業再生案件が増えていました。事業再生、人事制度づくり、中期経営計画の策定など、幅広く経験を積ませてもらいましたね。飽きっぽいので、色んな領域にチャレンジできるのはおもしろかった。できることが増える実感もあり、大変だけど楽しかった時期です。

育休制度がない!ならば、自分でつくればいい


──一方で、コンサルティング会社員時代にお子さんを3人出産されています。最初から産前産後も働きやすい仕組みがあったのですか?

郷田:いえ、むしろ私が初めての女性コンサルタントで、「じゃあ育休制度を作って」と言われたんです。

そこで、自分に都合のいい制度を提案しました(笑)。「時短勤務になるけれど、成果は変えないので、年俸そのままでお願いします」って。20代の、怖いもの知らずのときでしたね! 
改めて社員を採用するよりも復帰して働いてもらったほうが良いと判断されたのか、ありがたいことに、ほぼ提案通りの育休制度を受け入れてもらうことができました。

もちろん、裁量労働制の職場だったこともあり、仕事が終わらなければ夜中に子どもが寝てからパソコンを開いていた時期もありました。結果を出せるよう私も全力でしたね。

社長は「スーパーマン」だけじゃない!


──8年間、会社員と育児を両立されてきたなかで、独立に至ったのはなぜでしょう?

郷田:4人目の妊娠と一番上の子の小学校入学が重なったことが大きいです。それまで新幹線に15分乗って北九州市から福岡市へ通勤していたのですが、土日だけで子どもの用事を全部こなすことに限界を感じ始めたんです。また8年続けてきて「私、やり切ったな」と満足感もありました。

環境を変えてみたいという気持ちも芽生えていた時期に、ちょうど夫の会社の業務が増えていたこともあり、それを手伝うことにしたんです。さらに、ちょうどその頃、会社を設立すると貰える補助金の公募を見つけて……「じゃあ、自分の会社も作るか」と思い立ち、会社をつくりました
1月に前職を辞めて、3月に4人目を出産して、下の子が生後7ヶ月の10月くらいに会社を設立しました。お察しのように、会社を作ったのはなんとなくですね!

──なんという軽やかさ!「会社を作る」ことに迷いや不安はなかったのでしょうか?

郷田:補助金の存在に加え、それまでコンサルティング会社で中小企業をたくさん支援してきたので、「社長って別に、スーパーマンだけじゃない」と思っていたのはあるかもしれません。普通の人でもできるだろうって。

それに、当時は個人事業主という形態を知らなかったんです。独立するなら会社を作るしかないと思っていたんですね。ただ、株式会社にしたことで行政や金融機関の相談が入りやすかったのかもしれません。結果的に、私の場合は会社を立ててよかったなと思います。

届いていない人にも、フリーランスという選択肢を


──女性活躍関連のセミナーも手がけている立場から、フリーランスの働き方をどうご覧になっていますか?

郷田:家庭の事情などで会社を辞めて短い時間だけ働きたくなったとき、少し前までは、選択肢が「パートしかない」状況でした。それまで専門職や管理職をしていた方の中には、「今までのキャリアを活かせないこともあって働いていないけれど、このままでいいのだろうか」と悩んでいる方が大勢いたんです。

それがこの数年で、一気に働きやすい環境になったと感じます。これまで正社員にしか任せてもらえなかった仕事でも、自分のスケジュールにあわせてリモートで働けるようなサービスが増え、一般化してきた。男性も育児参加やワークライフバランスへ関心が高まっているので、性別を問わず、この変化は進むといいですね。

一方、行政の支援は就職支援がメインで、起業も「お店をやろう」「会社を立ち上げよう」となりがちでした。最近はコロナ禍により、リモートワークへの理解が深まったため、フリーランスという働き方に行政の方々も関心を持ってくれるようになってきたように感じます。行政を通した情報発信は新しい層の方々に届くはずなので、期待しています。

「パートか派遣か正社員か起業か」ではなく、フリーランスや複業もあるし、それにはこんなサービスを使うといいよという情報は、もっともっと広げていきたいですね!

大企業の人事と社員、双方の思いをチューニング


──協会に関わり始めたきっかけは?

郷田:もともとは福岡在住の協会事務局メンバーの美里さん(求人ステーション統括の葛谷)と共通の友人つながりで知り合ったのがきっかけです。

その後、協会が北九州市でイベントをしたときに登壇側で入ったり、2019年に福津市で開かれた「フリーランス×企業のマッチング合宿」に企業側で参加したりとご縁が続いて。その合宿後から、事務局メンバーになりました。

フリーランス交流会「スナック曲がり角in福岡」の開催後に福岡在住の協会メンバーらと

入ってすぐにコロナ禍だったのですが、冒頭で紹介した「50代からの自律志向人材育成プログラムをパラキャリチームで作って広報したところ、間もなく丸紅従業員組合さんからお声がけいただきました。
その後も、さまざまな企業の人事の方々や社員の方々の思いを聞きながら、各社のご要望に合わせてキャリア自律研修プログラムを作っています。

──ご自身も中小企業の経営者ですが、大企業の人事担当者の方とのやりとりを通して、どんなことを感じますか?

郷田:まずは大企業はとても手厚い。「会社側がこれだけ社員に教育費用をかけるのか!」と実感を持って知ることができました。一方で、社員側はその恩恵を感じていないケースがあることも知りました。
いち経営者として、経営側の意図を社員に伝えることの大切さ、を考えるきっかけになりました。

また、協会の活動を通じて、視野を広く持つことができていると感じます。というのは、福岡県に移住してから顧客は福岡近県が中心になりがち。首都圏の大企業の人事担当者の課題意識やそこで働く方々の気持ちを知る機会はあまり持てていませんでした。その点、フリーランス協会の活動を通じて、多様な企業の方々とお仕事する機会をいただけるのはありがたいです。

フリーランスの“実例”集団だから、できること


──「大企業で働く方々の気持ち」で、特に印象的なことは?

郷田:「福利厚生も仕事も給料も不満はないけれど、でもどこか満たされない」感覚を抱えている方が多い印象があります。そんななか、我々のキャリア自律研修を通して副業やボランティアなど外の選択肢を知り、「そういうチャレンジをしてもいいんだ」とワクワクした、とお声をいただくことも多いです。

パラキャリプロジェクトで一緒に活動している中村龍太さんプロデュースのパエリアワークショップを体験!

私自身、会社員の娘として育ち、自分も長年会社員をしていて、独立なんて夢にも思わなかった人間です。でもたくさんの中小企業の社長と接するうちに、自分でも会社を立ててみようと思えた。実在する人物を知って、踏み出せたことがたくさんあります。

独立や副業って、「あの人もあの人もやっているし、じゃあ私もできるかな」みたいなところがあると思うんですよね。企業人事の方も、協会に研修をご依頼いただくのは、フリーランス当事者かつ年齢も業界もさまざまな私たちに、多様な“実例”としての価値を期待してくださっているからではないかと思います。だからこそ協会の研修では、自分たちがロールモデルも兼ねた講師になることを大事にしています。

気分転換がてら、友人らとハイキングに行くのが趣味

「独立・副業スターター講座」、始動します!


──今後、協会でやっていきたいことは?

郷田:最近では、「独立したい」「副業したい」と思った方の“初めの一歩”を踏み出しやすくする「独立・副業スターター講座」を始めようと準備しています。2月1日に、初めてのオンライン講座を実施予定です。

起業塾や企業研修をするなかで感じたのは、「開業したい」と思ったときに何をどうしたらいいのか、具体的な方法を知らない方が多いことでした。そこで、独立や副業デビューに際し、「とりあえず何をしたらいいかがわかる」1時間ほどの動画があるといいなと考えたんです。

確定申告など、一つひとつのトピックを掘り下げると長くなるので、まずは網羅的に、「こういうことが起こりうるので、そのときはここに相談してください/ここを調べてください」と、「知っておきたいキーワードがわかる講座」を準備中です。これから独立・副業したい方も、すでに開業していて再確認したい方も、ぜひチェックしてみてください!

<申し込みはこちら!>

 【 私の道しるべ 】 「幸福の効率化」

私は「可能性のある方が可能性をつぶしている」ことをすごくもったいないと感じる人間です。すべての活動において、一人ひとりの可能性を生かすようなお手伝いをしたい、と思っています。

たとえば料理の上手な方がいて、「仕事にしたいけれど、お金まわりのことが苦手」と悩んでいるなら、会計の得意な自分が、その方のサポートしたらいいだけのこと。

仕事って、「我慢してやらなくてはいけない」イメージで語られることもあるじゃないですか。でも、それぞれの苦手なこと、得意なことを組み合わせたら、「誰も無理せず、楽しくやっているけれど世界としてはうまく回る」状態って、目指せると思うんですよね。私はそれを「幸福の効率化」と呼んでいます。

世界を俯瞰的に見て「全体最適」を目指す発想は自分の土台にあり、大事にしているところです。

フリーランスのなかには“下請けマインド”で疲弊する方もいると耳にしますが、企業も働いてくれる人がいないと成り立たないので、本当は50:50の関係性。本来は片方が疲弊するのではなく、双方のすり合わせが可能なはずです。俯瞰視点は、フリーランスとして心身健やかに働くヒントにもなるかもしれません。

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東大卒の経営者で4児の母、という並びにドキドキしながら取材に臨んだなか、「子どもの頃から器用貧乏なんですよ〜(笑)」と、気さくにお話を聞かせてくださった郷田さん。ご自身のことやこれまでの道のりを伺っていても、常に一歩引いた俯瞰視点を踏まえて語る様子が印象的でした。

昨今はインボイス制度の開始や物価上昇に伴い、企業と交渉ごとが増えているフリーランスの方々も多いはず。郷田さんのお話にあった「俯瞰的に見て全体最適を図る」「企業とフリーランスは50:50」を胸に刻み、ヘルシーに、持続可能なあり方で働いていきたいものですね。

ライター:渡邉雅子
PR会社勤務、フィジー留学を経て豪州ワーホリ中にライターに。帰国後ITベンチャー等々を経て、2014年に独立。2016年より福岡在住。現在は糸島界隈を拠点にフリーライターとして活動。2023年は絵本、写真、日本茶、ZINE制作など新しい活動の種も少しずつ育てている。海辺とおいしい野菜が好き。
Web: https://masakowatanabe.themedia.jp/

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