教育移住で直面した「小1の壁」は、都会とは一味違うものだった ~連載「母子移住のススメ」第5回~
こんにちは。フリーランスライターのやつづかです。
子どもをここに通わせたい!と考えた小学校があり、2020年の春に東京から長野へと母子移住しました。ちょうど1年生になるタイミングだったので、いわゆる「小1の壁」を移住先で体験することとなりました。
今回は、東京と地方、あるいは公立校と私立校での「小1の壁」の違いは何か? 私が感じたことをお伝えします。
<前回までの流れ>
小学生になったら玄関で「いってらっしゃい」のイメージだったけれど……
都会で「小1の壁」としてよく語られるのは、「保育園よりも学童が終わる時間の方が早い!」ということでしょう。早いといっても夕暮れ時、冬であれば日没後に1年生一人で帰らせるのは心配です。お迎えのために仕事時間を調整するのが大変! というわけです。
これに関しては、うちも同じです。
ただ、問題になるのは帰りの迎えだけでなく、朝の送りも。
子どもの小学校は私立なので、通うことができさえすれば、どこに住んでいてもOK。徒歩圏内に住んでいる人はすごく少なく、車で送るかスクールバスを利用する人がほとんどです(バスや電車などの公共交通機関があまり充実していない地域です)。
うちはスクールバスの乗り場まで徒歩で子どもを送っており、往復で30分くらいかかります。車で学校まで送るのに往復1時間以上かけている家庭もあるほどです。移住先を選ぶときには、通学ルートや送迎方法なども大きなポイントになると思います。
ちなみに公立校でも、人口が少ない地域はひとつの小学校の学区がかなり広く、やはり親の車やスクールバスで通う子が多いようです。学校と自宅の位置関係は、親子の生活リズムに大きく関わってくるでしょう。
以前は、子どもが小学校に入れば玄関先で「いってらっしゃい」と送り出せばよく、朝の時間に余裕ができるな〜と思っていました。今の小学校に入れることを考えたとき、「6年間、中等部まで行けば9年間も送迎を続けるのか!」とちょっと気が遠くなる感じがしたものです。
ただ、実際にやってみると、毎日の送迎のときに他の保護者や教職員の方と顔を合わせて情報交換できる良さもあり、あまり苦ではなくなりました。この点では、時間の融通をきかせやすいフリーランスで良かったと思います。
友達との約束にも送迎が必要
私は平日日中に仕事をし、学校が休みの日は家族の時間を優先させるようにしています。そのため、子どもには放課後を学童で過ごしてもらたい。でも、学校の友だちが増えるにつれ、平日も「明日は◯◯ちゃんのうちに遊びに行きたい」とか「◯◯ちゃんをうちに連れてきていい?」と言うことが増えてきました。
小学生にもなれば親が相手をせずとも友達同士で遊ぶため、うちに連れてくること自体は構いません。ただ、連れてくるにしろ誰かのうちに遊びに行くにしろ、徒歩圏内ではないのでやっぱり送迎の問題が発生します。
時間の融通をきかせやすいフリーランスとはいえ、いつでも子どもの運転手ができるわけではありません。
幸い親同士も仲良くなって、「明日、そちらに遊びに行きたいって言っているけどいい?」「いいよ。うちの子を迎えに行ったときに、一緒に連れて帰るね」みたいなやり取りができるようになりました。
これがとてもありがたい。でも、学校の送り迎えと同じで、今後ずっと続くんですよね……。
高学年になると「友達と映画を観てスタバでおしゃべり」みたいな週末を過ごしている子もいるようなのですが、それも保護者の送迎が必要。その話を聞き、「そうか、そうなるよね〜」と思わず遠い目になりました。「小1の壁」というより、「(公共交通機関が充実してない)地方の壁」と言うべきでしょうか……。
(ランドセル選びはさんざん迷いましたが、学校では持ち物の指定がないためリュックサックで行く日も多い今日このごろです。)
学校のことにどこまで関わる? フリーランスならではのジレンマ
子どもが通う小学校はPTAがありません。しかし、親が学校に関わらなくていいわけでもありません。
学校の教育のコンセプト「イエナプラン」は、学校と保護者が協力して子どもたちを育てていくという考え方があり、むしろ積極的に関わっていくことが歓迎されます。また、2年前にスタートしたばかりの学校ゆえ人手やモノ(例えば遊具など)も足りていない部分があり、保護者が学校を手伝う余地がたくさんあります。
実際のところ、保護者たちは「こんなことが必要だね」「あんなこともやってみよう」とたくさんのプロジェクトを立ち上げ、子どもたちのために活動をしています。
私もいくつかのプロジェクトに関わっているのですが、悩ましいのは、「あれも、これも」という気持ちを抑えなければ、際限なく時間を費やしてしまいそうになることです。
決して強制されるものではないので、できる範囲でいいのです。会社勤めやパートの仕事をしていたりすれば、「◯曜日の昼間は活動できません」と迷うことなく言えるし、自分でも「これ以上は無理」と諦めがつきやすいと思います。そこまでスパッと割り切れないのが、仕事の時間も量も自分でコントロールしやすいフリーランスならではの悩みです。
教育移住をしたら、「壁」は低かった
私にとっての「小1の壁」はこれくらいで、一般的な「壁」と比べるとだいぶ低いのではないかな、と思います。
例えば「子どもの宿題のサポートが大変」というのも、よく聞く「小1の壁」のひとつです。私の子どもが通う小学校は宿題が出ないので、その「壁」はありませんでした。
宿題がないこともあり、子どもは教科書やノートをほとんど学校に置きっぱなしです。そうすると、翌日の時間割を見て忘れ物のないように準備をさせる、というサポートも不要です。
ちなみに体操服のような「学校指定のもの」もほぼないので、入学前やサイズアウトした場合に指定の店で購入するといった細々とした負担もありません。
そして前述の通り、保護者が完全にボランタリーに学校に関わっているというのも大きいです。よく話題になるような旧態依然としたPTAをやらなければいけなかったら、私にとって大きなストレス源となり、「小1の壁」がグッと高く感じただろうと思います。
「小1の壁」は自分のアクションで壊していける
先日、長野県諏訪市にて、「小1の壁」をテーマに「育休後カフェ®@長野」というイベントを開催しました。
「育休後カフェ®」とは、仕事をしながら子育てをしている(したい)方たちが、自分とじっくり向きあうための空間と時間を共有する場です。
諏訪の会場には、「育休後カフェ®」を10年前に立ち上げた山口理栄さんもいらっしゃいました。以下の図は、そのときの山口さんのお話の中で登場したものです。
(©️2021 山口理栄)
「小1の壁」というとどうしても、「学校や学童の制度が自分の働き方と合わない!」とか「会社が小学生のいる家庭の事情を理解してくれない!」といった思考になりがちです。
でも、山口さんが「小1の壁」になりうる要素をひとつひとつ丁寧に紐解かれていくのを聞いていると、「壁」が生まれる根幹には「子どもの成長にともなって子ども自身に変化があり、必要なケアや教育の内容も変わる」ということがあるのだと分かりました。そして、それって親としては喜ばしいことじゃないか!という気持ちになりました。
また、学校、PTA、学童、地域などステークホルダーが増えて大変だけれど、それらを敵にするのも味方にするのも自分次第なところがある、ということも理解できました。
例えば、
・「地域は子どもの見守り包囲網」という意識で周囲とコミュニケーションをとっておくことが、行動範囲が広がっていく子どもの安全確保につながる。
・PTAも、学校や他の保護者とのつながって情報源を得ることが子どものためになるという目的意識で適度に参加すればよい。
こういう風に考えると、「壁」は絶対に動かせないものではないんだ、と思えてきませんか?
山口さんからは、学校が子どものためにならない場だと感じたり、どうしようもないトラブルに陥ってしまったら、そこから逃げるのも一つの選択だというアドバイスがありました。
考えてみると、私は子どもの小学校を選んでここにやってきたことで、ステークホルダーを味方にしやすい環境にいることができている。教育移住の最大の目的はもちろん「子どものため」なのですが、同時に自分にとっての「壁」を低くする選択でもあったわけです。さらに言えば、フリーランスという働き方を選んだのも、いろいろな「壁」を低くするという点で、有意義な選択だったのだな〜と今さらながらに気づかせてもらったのでした。
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年に組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018.3)。Yahoo!ニュース(個人)オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、ICT、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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