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Q.「週4社員・週1副業」。社保って引き続き入れるの?

こんにちは。社労士の山口あす香です。
フリーランスやパラレルワーカーになりたい、と思っている会社員からよく聞かれる疑問にお答えする本連載。今回のテーマは「週4社員・週1副業など、パラレルな働き方を始めた場合の社会保険への影響」についてです。

Q. 週4社員・週1副業などの、パラレルな働き方を始めたいのですが、社保って引き続き入れますか?

→ 基本的に、週4日本業で正社員、週1日副業の場合は、本業の会社の社会保険に引き続き入れます。安心して副業するためにも社会保険の加入要件などの基本を確認しておきましょう!

近年、働き方改革の一環として副業・兼業が促進され、働き方の選択肢も広がってきています。

実際、2018年に改訂された厚生労働省の「モデル就業規則」でも、副業・兼業を禁止できるのは「例外的な理由があるときだけ」と明示されるようになったようになりました。

厚生労働省「モデル就業規則」

そんな世の中の変化を受け、週1ぐらいから副業を始めてみようかなと、興味を持った人もいるのでは?

とはいえ、多くの会社員にとって頭をよぎるのは社会保険のことではないでしょうか。週4社員になって別の場所で週1働くことになった場合、週4社員の会社の社会保険にそのまま入れるのか?などの疑問が良く聞かれます。

結論から言うと、原則イエスです。
順番に理由を説明していきましょう。

社会保険の基本のキ

まず、社会保険の前提として、会社は労働時間と労働日数に応じて、社員を社会保険に加入させる義務があります。それは、正社員だけではなくパート・アルバイトも同様です。

ちなみに、社会保険に加入させる義務がある会社を適用事業所といいます。適用事業所については、「Q.個人事業主が法人化したら、国保から社保になりますよね?」という記事で紹介していますので、参照してください。

では、どのような場合に、会社は社会保険に加入する義務が生じるのか、詳しくみていきましょう。
キーワードは、4分の3です。

会社は、フルタイムで働く人たちを基準にして、その4分の3以上働いている人を社会保険に加入させる義務があります。

具体的には、以下のように労働時間や労働日数に応じて、4分の3以上かどうか算出されます。

労働時間:1週の所定労働時間が一般社員の4分の3以上
→フルタイム勤務「1日8時間」の会社の場合。週40時間の4分の3なので、30時間以上。
労働日数:ひと月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上
→フルタイム勤務20日の会社の場合。20日の4分の3なので、15日以上。

大事なのは、労働時間と労働日数の両方が4分の3以上ではないと、社会保険の対象者にはならないということです!

ただし例外もあります。
週の労働時間が30時間未満であっても、従業員数101人以上の企業で働いていて、以下の要件をすべて満たす人は社会保険の加入対象になります。

・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
・月額賃金が8.8万円以上
・2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)
・学生ではない

出典:厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト

さらに、2024年10月以降は、従業員数51人以上の企業にも適用されることが決まっています。

このように、社会保険が適用される対象は拡大しており、国は特設サイトを設けるほどになっています。興味ある方はぜひ参照してみてくださいね。

「業務委託か雇用か」は重要か?

以上、社会保険への加入要件を確認したところで、いよいよ本題に入ります。

週4社員になって別の場所で週1別の会社で働くことになった場合、週4社員の会社の社会保険にそのまま入れるのか?

この質問に答えるうえで、労働時間以外に労働形態も大事になってきます。

本業で社員として働きつつ業務委託で仕事を請け負う「雇用×業務委託」なのか。はたまた、本業とは別の会社で雇用される「雇用×雇用(パート・アルバイト含む)」なのか、の違いです。

まず、週4本業・週1副業を例に、「雇用×業務委託」のパターンをみていきましょう。

【本業】週4・1日8時間、【副業】業務委託で週1・1日8時間

社会保険の加入要件に当てはめてみると、本業は週32時間となり4分の3以上の労働に該当します。つまり、従業員数に関わらず社会保険の適用を受けられます。

一方、副業は業務委託ですので、社会保険が適用されることはありません。
業務委託契約を結んで働くということは注文者の指揮命令を受けない「事業主」として扱われ、基本的には「労働者」としての保護を受けることができません。
つまり、そのまま本業の社会保険のみに加入し続けるということになります。

次に「雇用×雇用」のパターンはどうでしょうか?

【本業】週4・1日8時間、【副業】雇用(パート・アルバイト含む)などで週1・1日8時間

本業は週32時間、副業は週8時間となり、先ほどと同じく本業は社会保険の適用を受けます。そして副業についても雇用なので労働基準法の対象ではあるものの、就労時間数が満たないため社会保険の適用はありません。
こちらもそのまま本業の社会保険のみに加入し続けるということになります。

つまり、週4本業・週1副業の場合は、業務委託であっても雇用であっても、本業の社会保険に加入し続けることができるということ!

「雇用×雇用」の場合には注意点があります。会社は社員の働きすぎ防止のために労働時間を管理する必要があるんです。そのため、副業しようとする場合には、どのような形でどれぐらい働くのかを会社に報告するようにしましょう。詳しくは会社の就業規則などを確認してくださいね。

週3本業・週2副業の場合は?

では、副業を週2に増やしたらどうなるでしょうか?

【本業】週3・1日8時間、【副業】業務委託で週2・1日8時間

本業で働いている企業が、現時点で101人未満の場合は週24時間となり、一般社員の4分の3以上に該当しません。ですので、国民健康保険・国民年金に入る必要があります。
ただし、前述した通り、週の労働時間が30時間未満であっても、従業員数101人以上の企業で働いていて、以下の要件をすべて満たす人は社会保険の加入対象になります。

・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
・月額賃金が8.8万円以上
・2か月を超える雇用の見込みがある(フルタイムで働く方と同様)
・学生ではない
※現時点では、101人未満の企業で働いている場合は、国民健康保険・国民年金に入る必要が生じます。

また、2024年10月以降は、従業員数51人以上の企業にも上記の条件が適用されますので、本業での労働時間や従業員数を確認するようにしましょう。

【本業】週3・1日8時間、【副業】雇用(パート・アルバイト含む)などで週2・1日8時間

基本的には【本業】週3・1日8時間、【副業】業務委託で週2・1日8時間働く場合と同じです。
ただし、前述したとおり、「雇用×雇用」の場合は会社が労働時間を管理する必要がありますので、報告を忘れないようにしましょう。労働時間をすぐに出せるようにご自身でもエクセルなどで管理しておくと良いでしょう。

20 時間以上、2カ所【雇用】で働く場合の注意点

【20時間以上、2カ所で雇用の場合】

もし2社と20時間以上の雇用契約を結ぶ場合は、社会保険はどうなるでしょうか(いずれも、従業員数101人以上の企業の場合。2024年以降は51人以上の企業の場合)。

週40時間勤務の内訳
A社:20時間
B社:20時間

この場合、A社とB社の両方で社会保険の加入対象になります。
その際、必要な手続きがあります。

雇用されている被保険者(働く人)が、主たる事業所(A社かB社か)を選択して管轄する年金事務所を決めます。

たとえば、A社でもともと働いており、扶養家族がいる人で、新たにB社で働き、B社を選択する場合は、扶養家族の異動の手続きもあるので、扶養家族についても会社に伝えましょう。

現時点では、稀なケースかもしれませんが、2社で役員をしていて、どちらからも役員報酬を受けとっている場合は、実体に基づいて手続きが必要になりますので、注意してください。

そして、社会保険の加入要件を満たした時から10日以内「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出しなければなりません。

ちなみに、健康保険証は選んだ事業所のものが発行されます。

詳しくは、日本年金機構のwebサイトにある「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」を参照ください。

【20時間未満、3カ所で雇用の場合】

では、仮に3社と20時間未満の雇用を結ぶことになった場合はどうでしょうか。
この場合、すべての会社で、社会保険の加入対象から外れますので、注意が必要です。その場合は、国民健康保険・国民年金に入る必要が生じます。

週40時間勤務の内訳
A社:15時間
B社:15時間
C社:10時間

国民年金への加入については、「Q.会社を辞めると、もう社会保険には入れないんですか?」で解説していますので、参考にしてくださいね。

(寄稿)山口 あす香
プレインスタイル代表/社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント
/健康経営エキスパートアドバイザー/フリーランス&パラレルキャリア支援アドバイザー
大学卒業後、金融機関に入社。その後、ライフスタイルの変化に応じて正社員や派遣社員、パートタイム社員など様々な形態での働き方を経験する。ユーザー系IT企業では、管理、総務部門に8年間所属。現在は社会保険労務士、キャリアコンサルタントとして活動しながら一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会のジョブ創出プロジェクトに従事。「健やかに自分らしく働く」人を増やしたいとの想いで活動中。

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