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Q.個人事業主が法人化したら、国保から社保になりますよね?

こんにちは。社労士の山口あす香です。
フリーランスやパラレルワーカーになりたい、と思っている会社員からよく聞かれる疑問にお答えする本連載。今回のテーマは「法人化したときに知りたい社会保険への切り替え」についてです。

Q. 個人事業主が法人化したら、国保から社保になりますよね?

→法人化した場合は基本的に社会保険の「強制適用事業所」となり、「新規適用」の手続きが必要。毎年の手続きは少ないものの、忘れないようにスケジュールを把握しておきましょう!

「事業がある程度大きくなってきた」、「取引先との関係で法人の窓口が必要になった」、「インボイス登録を機に法人化を考え出した」など、さまざまな理由で、法人化を検討される個人事業主のフリーランスも少なくないのではないでしょうか。
 
とはいえ、いざ法人化するとなると、社名を考えたり、登記の準備したり、色々な手続きに追われます。会社設立に伴う事務手続きを一括で外注することもできますが、コストもかかります。

自分でできるのか、外注した方がいいのか検討するにしても、個人事業主から「1人社長」になる人に向けた「社会保険の話」は意外とまとまっていないもの。

そこで、今回は個人事業主が法人化(会社設立)するときに必要な社会保険(社保)の手続きと、毎年必要な手続きについてご説明します!

社保の適用事業所には2種類ある

大前提として知っておいて欲しいのは、法人化すると、健康保険と厚生年金がセットの社保への加入が必須だということです。

ただ、手続きは簡単ですので安心してください。社保の基礎知識から解説していきましょう。

まず、会社を設立するということは、社会保険の適用を受ける「事業所」になるということ。社保の適用を受ける会社だから、「適用事業所」と言います。

ちなみに、適用事業所には2種類あります。法律によって加入が義務づけられている「強制適用事業所」と、任意で加入する「任意適用事業所」です。

法人化した場合は、加入が法律で義務づけられる「強制適用事業所」になり、加入手続きを基本的には、”必ず”行わなければなりません。

強制適用事業所になれば、被保険者が社長1人であっても、加入手続きが必要です。株式会社、合同会社、一般社団法人など種類問わず、法人化すれば加入義務があります。

ただし、法人化したものの、先行きが見通せないので、しばらくはご自身の役員報酬をゼロにされるケースは別です。
社長1人で従業員もいなければ、「被保険者となる人がいない」と解釈されるため、強制適用事業所にはなりません
※役員報酬が非常に少額で、「健康保険・厚生年金保険の保険料額表保険料額表」にある第1等級の標準報酬月額未満の場合も同様です。

個人事業所でも、強制適用事業所になる場合も!

強制適用事業所になるのは、法人だけではありません。個人事業主が営む「事業所」であっても、従業員が常時5人以上いる場合は、一部の業種を除き、強制適用事業所になります。

対象とならない一部の事業所は、農牧水産業、一部のサービス業(旅館、飲食、理美容、法務関連士業、娯楽、スポーツ、保養施設等)です。業種によって対応が違うのは不思議ですよね。

特筆すべきなのは、時代の変遷とともに少しずつ強制適用の対象業種が増えていること。

制度が創設された大正時代は一部の業種だけが対象でしたが、昭和28年には、その数が16業種(製造業、鉱業、電気ガス業、運送業、貨物積卸し業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒 体斡旋業、集金案内広告業、清掃業、土木建築業、教育研究調査業、医療事業、通信報道業、社会福祉事業)へ増加。

令和4年には昭和28年以来の見直しがなされ、今までの16業種に加えて、【法律・会計にかかる業務を行う士業(弁護士、社労士、税理士、司法書士など10の士業)】に該当する個人事業所のうち、常時5人以上の従業員を雇用している事業所は、強制適用事業所となりました。

今後も各業種それぞれの経営・雇用環境などを個別に踏まえつつ見直しが行われていきそうです。

出典:厚労省「社会保険(厚生年金保険・健康保険)への 加入手続はお済みですか?」

そして、任意適用事業所とは、強制適用事業所とならない事業所で認可を受け社会保険の適用となった事業所を指します。
従業員の半数以上が社会保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して認可を受けることにより適用事業所となることができます。

新規で社保に入るには?

では、役員報酬を受け取る前提で、法人化を決めたとします。つまり、自分の会社から「お給料」をもらうことになります。

社長である自分自身が従業員となるため、「社保への加入」が義務化され、自身の会社は「強制適用事業所」になります。
その場合、社保への「新規適用」という手続きが必要です。

まず、会社の所在地を管轄する年金事務所に、「新規適用届」を提出します。

新規適用届の提出は、会社を設立(登記)してから5日以内に行わなければいけません。仮に自分で申請を考えているのであれば、登記前に、予め必要な書類を確認しておきましょう。

新規適用に必要な書類は?

以下に、申請に必要な書類をまとめましたので、ご確認ください。

【届書】

届書のフォーマットは、日本年金機構のHPからダウンロードできます。

1、健康保険・厚生年金保険 新規適用届
事業所を設立し、健康保険・厚生年金保険の適用を受けようとするときの書類です。

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/jigyosho/20141205.files/0000028541dV4I8Ih3j9.pdf

2、  健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
事業主本人や従業員が健康保険・厚生年金保険に加入するときの書類です。

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hihokensha/20140718.files/0000002415.pdf

3、  健康保険 被扶養者(異動)届
家族を被扶養者にするときの書類です。

https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hihokensha/20141224.files/01.pdf

4、健康保険・厚生年金保険 保険料口座振替納付申出書
健康保険料・厚生年金保険料を口座振替によって納付するときの書類です。
※事前に金融機関での手続きが必要。

https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/hokenryo.files/55.pdf

【添付書類】

1、登記簿謄本
書類提出日からさかのぼって90日以内に交付された原本を提出

2、法人番号指定通知書のコピー
「新規適用届」の項目9において「1:法人番号」を選択する場合に必要

 手続きが色々あって大変だと感じたり、やるべきことを一括で管理したいという場合は、会社設立サービスなどを利用してみるのも良いかもしれません。

ちなみに、上記の手続きは法人化の場合を例に記載しています。個人事業では「強制適用事業所」として新規加入する場合は、必要書類が異なるので注意してくださいね。

●日本年金機構 新規適用の手続き
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150311.html
●日本年金機構 健康保険・厚生年金保険 新規加入に必要な書類一覧
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/kanyuichiran.html

新規適用だけじゃない!年間スケジュールも把握しよう 

さて、無事に新規適用届の提出も終わって、晴れて適用事業所になり、ホッとするのも束の間!

実は、手続き関係は、これで終わりではないのです。
社保にまつわる、年間スケジュールも見ておきましょう!

【毎月】

・社会保険料の支払い
口座振替の手続きをしておけば支払い漏れを防げます! 

【7月】

・定時決定(算定基礎届)
毎年7月10日までに提出が必要です。4~6月分の役員報酬を基にして計算し、「標準報酬月額」を決定し直します。変更がなくても提出が必要です。

毎年6月頃に年金事務所から書類が送られてくるので、そちらに記入をして提出をしてください。日本年金機構のホームページから様式をダウンロード、入力して提出することも可能です。

●日本年金機構 定時決定(算定基礎届)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.htm

【9-10月頃】

・控除額の反映
決定し直された「標準報酬月額」は、9月から翌年8月までの各月に適用されるので、ご自身の会社が社会保険料をどのタイミングで控除しているかを確認して、控除額の反映を忘れないようにしましょう。

【随時】

・随時改定(月額変更届)
役員報酬に変更があり、変動した月から3ヶ月平均の「標準報酬月額」と変動前の「標準報酬月額」に2等級以上増減があれば随時改定が必要です。

●日本年金機構 随時改定(月額変更届)
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-02.html

スケジュールで出てきた「標準報酬月額」や「定時決定」、「随時改定」という言葉。「一体どういうこと?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。用語解説をしましょう。

「標準報酬月額」というのは?

残業代など手当に変動がある従業員の方がいる場合、毎月社会保険料が変わっていては事務処理も大変ですよね。

そこで、月々の報酬や給与を「等級」に区分し、該当する等級を利用して社会保険料の計算を簡単にするためのものです。

報酬月額にどのぐらいの等級があるのかご参考までにこちらをご覧ください。

●協会けんぽ 令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r5/ippan/r50213tokyo.pdf

「定時決定」というのは?

毎年、7月1日現在の全被保険者について、4月、5月、6月の3カ月間(いずれも支払基礎日数17日以上)に受けた報酬の総額をその期間の総月数で除して得た額を報酬月額として標準報酬月額を決定します。

なぜそういうことをするのかというと、新規適用の手続きの時にも標準報酬月額を記載して決定していますが、実際の報酬が途中で変わることもあると思います。

そこで、標準報酬月額に差がないかを、1年に1回確認するんです。差があると実際の金額が高くても、低くても適正な社会保険料を支払っているとは言えなくなってしまいますよね。

そして、定時決定のための届出用紙が「算定基礎届」です。 

「随時改定」というのは?

定時決定で1年に1回確認するものの、あまりにも差が大きいと定時決定を待たずに、標準報酬月額を変更する必要があります。それが「随時改定」です。

どれぐらいの差で変更が必要かというと、年間スケジュールにも書いた通り、報酬に変更があり、変動した月から3ヶ月平均の「標準報酬月額」と変動前の「標準報酬月額」に2等級以上増減があれば随時改定が必要です。随時改定の対象となったら速やかに書類を提出しましょう。

そして、随時改定のための届出用紙が「月額変更届」です。

●月額変更届
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hoshu/20141224.files/0000024464KdVsRuUUKk.pdf

社保の年間スケジュール、いかがでしたか?
「意外とやることがある」と思った方や、「これなら1人でできそう」と思った方、さまざまでしょう。

業務の忙しさにもよりますが、1人社長の場合、本業で忙しくなると「忘れていた!」という方も少なくありません。
自身で作成&届出する余裕がない場合は、顧問社労士を雇わずとも、スポットで対応してくれる社労士にお願いしてみても良いでしょう。

社労士の探し方としてはネット検索でも良いですし、全国社会保険労務士会連合会のページで各都道府県の社労士を目的から検索することもできますよ。

社労士が探せる全国社会保険労務士連合会


過去記事でも、退職時の年金や社会保険についてまとめていますので、参考にしてくださいね。

Q.会社を辞めると、もう社会保険には入れないんですか?

Q.独立しようか迷っているのですが、失業手当はもらえないですよね?

(寄稿)山口 あす香
プレインスタイル代表/社会保険労務士/国家資格キャリアコンサルタント
/健康経営エキスパートアドバイザー/フリーランス&パラレルキャリア支援アドバイザー
大学卒業後、金融機関に入社。その後、ライフスタイルの変化に応じて正社員や派遣社員、パートタイム社員など様々な形態での働き方を経験する。ユーザー系IT企業では、管理、総務部門に8年間所属。現在は社会保険労務士、キャリアコンサルタントとして活動しながら一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会のジョブ創出プロジェクトに従事。「健やかに自分らしく働く」人を増やしたいとの想いで活動中。


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