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鳥の視点からヨーロッパのまちを旅する絵本「旅の絵本」

TEXT BY MOMOKA YAMAGUCHI

 「旅の絵本」は、作者・安野 光雅(あんの みつまさ)がヨーロッパでの旅で見てきた市(まち)の人々の営みを描いた絵本だ。
 絵は全て鳥の視点から市を見下ろすように描かれており、飛行機が着陸する前の徐々に高度が下がるにつれて鮮明に写っていく景色の変化からインスピレーションを受けているそうだ。

 水彩で彩られた世界は、一人の旅人が小舟を漕ぎ北欧の陸の外れにある岸に辿り着くところから始まり、次のページでは馬を借りて、ページが進むごとに森や田園、市を旅していく構成になっている。

 ぱっと絵全体を見てみると、森や建物の割合からこのページが市の外れにあるのか大きな市なのかが伝わってくる。そこからもう少し焦点を絞って人物たちを見てみると、木を伐採する人、家畜を育てる人、葡萄農園を営む人、中には童話の登場人物や絵画のワンシーンが描かれているなど見れば見るほど新たな発見がある。

自分で物語を見つける・つくる

 この絵本には文字がない。しかし、数ページにわたって共通する人物や風景が出てくることで、この本の中に「時間の流れ」がうまれ、この絵本に描かれる人物たちが絵本の中でそれぞれ生活をしていることがわかる。最初は旅人が主人公だと思うが、主人公はあくまで読み手である私たちに地元の人々の生活を見せる媒介にすぎない。この絵本に描かれる人物たち全てに「物語」があり、彼ら全てが主人公になりうるのだ。
 この時間の流れを見つけ、彼らの物語を作り出すことができるのがこの絵本の面白さである。

「旅人は、その人々の暮らしとは全く別の世界から来て通り過ぎていくのです。何がしたいと思っても、旅人はあまり関わることもできないのですが、そこには、人の数だけ、物語があるはずです。わたしは、それを描きたいと思いました。」(『旅の絵本 中部ヨーロッパ編 解説』より)

 言葉は違っていても、風景を写真や絵本におこして見ていると心の中は似ているとことが分かると作者は話す。
 緩やかな時間の中で自然に囲まれながら慎ましく生きる姿はどこか懐かしいような気持ちにさせてくれる。

 子供のころに読んだ絵本の中で一番印象に残っていたのが学校の図書館で偶然見つけたこの本だった。文字が書かれていないこの本を初めてみて、「この絵本はなんの絵本なのだろう」と困惑しながら、ページを捲っていたことを思い出す。しかし、数日にわたって本を見ていくにつれ「郵便屋の物語」や「赤い風船の物語」と自分で物語を作りながら読むようになった。中でも最後のページの真っ赤な夕焼けと、馬から降りて一人で山の向こうへ消えていく旅人の姿はどこか寂しく、しかし背筋を伸ばして歩く姿は希望も感じ、この複雑さが子供ながらに覚えていた要因なのではないかと今は思っている。

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