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自分の中で 価値を再構築し、 「捉え方の提案」をする

TEXT BY MOMOKA YAMAGUCHI
PHOTO BY TAKAHIRO MIZUKO
※フリーペーパーSTAR*16号掲載記事より

石橋千賀良さんは、中学生の時に「もしホームレスになったらどう生きていけばいいのか」と疑問を持ち、自給自足を夢見て農家を始めました。高梁に引っ越された後は、「七草農園」で百姓の仕事をしつつ「株式会社年貢」で耕作放棄地の整備や畑を使った遊びなど農業に触れあえるイベントをしています。
気候変動や自然災害など予測不可能な事態が増えつつあるなか、人はどのように生きていくのか。自然とともに生きる農の視点から、自然と人との在り方についてお話を伺いました。

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捉え方は、心の豊かさや自分の振る舞い次第

Q.「七草農園」の名前の由来を教えてください

春の七草、夏の七草、秋の七草と言うように、七草は雑草とも言えますが季節の豊かさを感じさせる植物とも言えます。つまり、自然や人が作ったものをどのように捉えるかは心の豊かさや自分の振る舞い次第、という思いがあります。
なので、僕は野菜を売るだけでなく、自然の優しい部分を感じながら生きていくなかでの食自体を楽しめる提案が出来ればと思い、時期や地質に適した野菜を選ぶ段階から一番美味しく感じられる調理法まで、他の農家さんやレストランの方に教えていただきながら考えています。「捉え方の提案」こそがエンタテイメントや創造性の本質だと考えています。

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自然の中で生きているという意識

Q.農業は自然と人間社会の間に立つ人だと思うのですが、自然と人との関わりについてどのように考えていますか。

「関わり」というと分けて考えてしまいますよね。線を引いて考えるけど、人自体が自然の一部だという意識が無いとそこに強く線を引いてしまうかなと思います。例えば、燕がまちに巣を作ったり、人が土を使って家を作ったり、「自然」と「自然じゃないもの」の境界線ははっきりとないですよね。
また、自然の優しい部分は美しい森や澄んだ空気、美味しい食で、厳しい部分は災害と呼ばれますが、この2つは自然という同じものが見せる面の問題だと思うのです。だから厳しさを知った分だけ、自然の優しさを強く感じられるようになるのではないかと、密かに思っています。そもそも自然が「良いもの」だけで出来ているなら人間は土地を平らにして町を作る必要は無く、私たちは自然から時間と空間を間借りして住まわせてもらっている。これが自然の中における人の立ち位置なのではないでしょうか。
人間がどう捉えたとしても自然は摂理に従って生きているだけなのですから結果は変わりません。だから、無理に流れに逆らわず、流れに乗っていれば抜けられることもあるし、力まない方が良い、そういう感覚を農業を通じて思うようになりました。

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身の丈を理解することでの安心感

Q.人間にとって都合の良いものだけをみるのではなくて、その中で生きているという意識が大事なのですね。
近年「不確実な未来」という言葉をよく聞きますが、これからの時代に必要なことは何だと思いますか。

自分が生きていくために必要な物の量を知るということがこれからの時代かなり重要になってくるなと思いました。
現代の社会では、生きていくために必要な金額を計算するかと思いますが、農家は自分が生きていくために必要な物の量はどのくらいかというのを分かっています。そこから逆算して、畑の面積や収穫量、ペース、時間配分を考えます。例えば味噌だったら1年間で2斗あれば足りるかな?じゃあ大豆とお米を作るスペースはどのくらいにしようか、といった具合です。お金は株価などで価値が変わることがありますが、耕作は株価が暴落したとしても変わりませんからね。「どんなことがあってもこれだけは残る」―つまり、身の丈を理解しているかどうかで安心感は変わってくると思います。

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自分の中で価値を再構築する

Q.自分が生きるうえで必要最低限な量を知ることが安心感と次の一歩をもたらすのかもしれませんね。
最後に、これから挑戦したいことなど教えてください。

まずは農業の壁を取っ払うことですね。まだまだ農業に対して「忙しい」「大変」というイメージが強いので、イベントなどを通して、理解してもらえたら良いなと思います。
また、空き家や耕作放棄地も活用していきたいです。「空き家」や「耕作放棄地」と言えば負のイメージがあるかもしれませんが、そこには正のイメージに変わる可能性がたくさんあり、この「発想の転換」は、自分の中で価値を再構築出来るかに掛かっています。本当の物の価値は、実際に作って使わないと分からないことがあるんです。
なので、これからも物の本当の価値を再発見出来るような取り組みを農業などを通してやっていけたらと思います。

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PROFILE / CHIKARA ISHIBASHI
石橋 千賀良
株式会社 年貢 代表取締役
七草農園 代表
東京生まれ、東京育ち。大学を卒業後、千葉で一人暮らしをしながら農業を始める。両親の「田舎暮らしをしたい」という言葉をきっかけに引っ越した。引っ越し後、「七草農園」で百姓の仕事をしつつ、「株式会社年貢」で耕作放棄地の整備をしながら畑を使った遊びや農業に触れ合ってもらうことで農業のイメージを変えていく活動をしている。

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