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どうにかしたい、という潜在意識が動かした

TEXT & PHOTO by
MOMOKA YAMAGUCHI

金丸 由記子 さん

NPO法人 総社商店街筋の古民家を活用する会 理事長の金丸由記子さん

 NPO法人総社商店街筋の古民家を活用する会は、2013年に総社市内にある古民家・堀和平邸を拠点に設立されました。
 団体では、総社商店街筋や総社市内に残る古民家を保存・活用しながら、教育・文化・芸術を柱に地域住民や総社に来た人同士の交流ができる場作りをしています。

総社商店街筋にある堀和平邸

堀和平邸と関わるうちに
何かしらのスイッチが入っていった

 この団体ができる元となった取り組みがあるとNPO法人 総社商店街筋の古民家を活用する会 理事長の金丸さんは話します。
「私は当時、総社市が主催していた地域のことを勉強する『ふるさと創生仕掛け人塾』で学んでいて、その時に堀和平邸のことを知りました。堀和平邸は総社市が持っている空き家だったのですが、この建物を活用したいと市に相談したところ、条件つきで承諾頂き、2003年に『堀家住宅の利用を考える会』ができました。ところが10年以上経ったある日、屋根瓦の一部が落ちてしまって、『これは早急に何とかした方が良いのでは』と再び市に相談したところ、NPO法人の活動としてであれば、堀和平邸を貸し出せるとのことで、当団体を設立することになりました。私は、設立前は事務局を担当していたのですが、当団体を設立する頃にはメンバーも変わっており、私が一番内容を知っているということで、仕方なく理事長になりました(笑)」
その後もメンバーは変化し、2016年に総社で学習塾をされている高山和成さん、2017年に総社でデザイン事務所をされている小原俊秀さんが加わりました。現在は、20代の方から70代の方まで多世代のメンバーで構成されています。

堀和平邸の瓦
堀和平邸の敷地内の様子。
終戦後、前住人は家をなくしてしまった人に建物の一部を貸していた。
今では邸宅内の東側が老朽化で崩れてしまっている

 金丸さんは、総社高校のそばの家で生まれ、18歳で九州の学校に行き、39歳で総社に戻りました。今では古民家の保全・利活用の取り組みをされていますが、もともと古民家に関心があるわけではなく、総社に戻ってから徐々に意識が変わったそうです。

 「本当は総社に戻るつもりはなかったんです。不思議なきっかけから、当時は仕方なくという感じで。その時の私は、デザインの仕事をしていて、古いものより先進性に価値を感じ、建物も基本は真っ白な箱のようなものが好きでした。だから、自分の生まれた家も惜しげもなく建て直してしまったんです。私が生まれた家は『いろは旅館』という小説家・永井荷風が戦時中に執筆していた旅館の一角にありました。広い旅館で、敷地を4等分にしたところに祖母が疎開し、私も生まれました。家は最後まで残していたのですが、老朽化が深刻で、建て直す費用が新築を建てるよりもかかるということで、当時の自分は惜しげもなくね。ただ、堀和平邸と関わるうちに『そういうことじゃないんだ』と何かしらのスイッチが入って、そこから20年近くここに居座ってるんですよね。自分でも何故なのか分からないんですけど。今は建て替えたことも後悔していて、今の私なら改修すると思います」

真剣に考えない

 総社商店街筋の古民家を活用する会では、まちの若い人が挑戦でき、まちの内外の人が交流できる場づくりを目指して、日替わりオーナーのカフェや商品作り、アート企画などを行っています。関わる人は学生から大人まで幅広い世代となっています。なぜこのように多様な人々が集まるのでしょうか。金丸さんは「考えすぎないことが大事」とお話していました。自分たちの願いだけでは、うまくいかないこともある。だから「ここで何かやりたい」という人をサポートすることで、ニーズから自然発生的に物事が出来上がり、結果として今の形があるそうです。

堀和平邸でのインタビュー。
メンバーの方にも 総社商店街筋の思い出や活動について伺った
(左から小原さん、金丸さん、高山さん)

***

 コミュニティーを維持するためには多くの力が必要ですが、まちの人たちの実生活と両立ができる範囲でなければ続けられず、関わることも難しくなります。だからこそ、金丸さんたちは「このまちが、建物が、人が好きだ」と思ってもらえるような地域づくりを目指しており、そして「自分もこのまちで何かしたい」と思った人たちが、より自然に自分と地域が関われる場所として、昔から多世代が暮らしていた古民家が機能しているのだと思いました。
 「失うにはもったいない」「消えてしまうとなんだか寂しい」「なんとかしたい」――明確には言語化できない人の内側から生まれる声が、人を動かし、結果として、コミュニティーや刻まれた記憶を維持するための原動力となるのかもしれません。


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