見出し画像

会計業界の“やらなくちゃ”がここに6時間に及んだ「freee Advisor Day 2022」メインステージの内容が10分でわかる、マジ価値ダイジェストレポート

 会計業界はこの先どうなっていくのか――。

 スモールビジネスの発展を支えるべく、日々奮闘を重ねている全国のアドバイザーたちが、6月14日(火)に東京・品川インタシティーホールに集った。この日開催された「freee Advisor Day 2022」では、「会計の“やらなくちゃ”がここに」をキャッチワードに、これからのスモールビジネスのバックアップに必要なノウハウや貴重なエクスペリエンスが、惜しげもなく披露され、共有された。

 ここでは、当イベントの目玉であったメインステージの模様をダイジェストで公開する。6時間以上にわたって繰り広げられた貴重な生激論。当日参加できなかった方はもちろん必見だが、当日イベントに参加しその様子を体感できた方も、このレポートによってあの熱気を再び感じてほしい。


盛りだくさんすぎて、ふたつのステージで内容が「ちょっとかぶっちゃった(笑)」

freee株式会社 パートナー事業部長 根木公平

 まず最初に登壇したのはfreeeの根木公平。「スモールビジネスを、世界の主役に。」と、同社の掲げる目標を熱く語りながらも、これからのイベントの進行を簡潔にプレゼンした。

 これからアドバイザーとfreeeが共に何をしていかなければならないのか。そのブループリントとアプローチのヒントが目いっぱいに詰まったこのイベントは、根木をして「ちょっとかぶっちゃった(笑)」と言わしめるほどの盛りだくさんな内容だという。

 期待感が高まっていく来場者に対して、根木は最後に「このイベントは会計事務所の方が主役のイベントです。また、5月の法人決算を終えたみなさんに向けて『お疲れ様でした』の意もあるイベントです。最後までぜひ楽しんでください」と締めると、会場は熱くもあたたかみのある拍手の音で満ちた。


会計業界にも役立つ競争戦略の至言

一橋ビジネススクール教授 楠木 建さん

 続いて登壇したのは、競争戦略のリーディングエキスパートとして知られる経営学者の楠木建さん。「競争戦略の論理」と銘打って、スタートアップ時にとくに必要とされる企業戦略について講演した。

 楠木さんは、企業にとって長期利益の大切さや「改善」ではなく「違い」を突き詰めることなど、いくつかの重要な視点について、具体的な企業の事例を示しながら、端的に語る。

 その上で、戦略的に意志決定するとはどういうことなのかなど「競争戦略」について提言した。

 変化が激しい世の流れの中、やはり変化が求められつつある会計業界において、どのように戦略を活かしていくことができるのか、参加したアドバイザーにとっても、非常に役立つ知見がちりばめられた講演だった。


地域を支える事務所所長が語る「えらくないけど、ちょっとためになるはなし」

吉川義重税理士事務所代表税理士 吉川義重さん

 ここからは実際のアドバイザーたちが登壇していき、示唆に富んだ経験談が語られていく。最初にノウハウを披露したのは、神戸で税理士事務所を営む吉川さんだ。

 吉川さんを含め3人のスタッフで運営されている事務所は、顧問先のクラウド化に紆余曲折した経験を持ち、その過程において蓄積された等身大の解決ケースを語ってくれた。アドバイザーであれば誰しもぶつかるであろう諸問題などの「あるある」を、くだけた地元・神戸の言葉を要所要所に用いて語ってくれた吉川さんに、共感を覚えた来場者の方も多かっただろう。

 吉川さんは、こういった大人数の前での登壇は初めてとのこと。冒頭で「拙い点もあるかと思いますが、リアクション大きめでお願いします」との挨拶に、来場者はあたたかい拍手で答え、セッションは始まった。

 吉川さんは、これまでのクラウド化の経緯とぶつかった問題について順を追って発表していった。もともと「売り上げが少ない」「記帳の手間がえぐい」というプロブレムにぶつかっていた吉川さんは、これらが解決するクラウド会計を「なんとなく」導入開始したという。そこからは顧客も増え、客先は倍増。「領収書のしわ、伸ばさんでようなった!」と、手放しでよろこんでいた吉川さんであったが……。

 まもなく吉川さんはあらたな問題にぶつかる。客先は増えたものの、各取引先から「クラウドで作業が楽になったでしょう」と、顧問料のディスカウントの要望が急増。自計化前提であった約束も、なかなか支援が奏功せずカロリーは増えるばかり。吉川さんは工数分析を導入し、なんとか事態の解決を図るが、逆効果になるケースも多かったという。

 そんな悩み多きときに、吉川さんはデヴィット・グレーバーの『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』という書籍に出会う。この本を読んで、吉川さんの頭の中を占めていた「怒り」や「恐れ」はウソのように消えていったという――。
 
「あなたの仕事は、世の中に意味のある貢献をしていますか?」。『ブルシット・ジョブ』の中で示唆されたこの言葉をキーに、自分の過去を深く振り返ってみたという。自分はお客さんのことを考えて、ちゃんと貢献できていたのだろうかと。

 それから吉川さんは顧客との対話を大事にし、本当に顧客が求めていることを探っていった。「退職後にゆっくりしたい」と言っていたシニア起業家の方には「じゃあ、1年はこっちで入力しましょ。その代わり報酬は大きくいただきます」と交渉。結果、「センセ、ほんとにわたしのこと考えてくれてるんやね」という感謝の言葉と大きな報酬をもらったという。
 
 「付加価値って、ほんとに価値あるねんな」と実感した吉川さんは、それから本質的な顧客のニーズを深掘りしていく。

 「MAS監査、RPA、BIツール、これらはとてもピカピカして見えるが付加価値ではなく手段」と吉川さんは述べ、「お客様の未来に意味ある貢献をすることが目的である」と来場したアドバイザーたちに訴え、セッションを終えた。同じアドバイザーの等身大のケーススタディは、まことに「ちょっとためになるはなし」であった。


「スタッフが退職してまたゼロベースから!?」製販分離によるノウハウ蓄積のすすめ

No.1税理士法人 藤浪伸治さん・藤田友貴さん

藤浪伸治さん(左)、藤田友貴さん(右)

 次にステージに上がったのは東京・新橋の「No.1税理士法人」の藤浪さんと藤田さん。クラウド化の推進が進むと立ちふさがる大きな壁のひとつに「担当退職問題」がある。せっかくSaaSを導入したのに習熟した担当が退職してまたイチからやり直しというケースは会計業界ではよくある話だ。

 このセッションでは、製販分離により属人的ではなく法人自体にノウハウをストックする方法が具体的に提示された。

 キーワードは「平準化・標準化」だ。

 まず、freee導入のきっかけが代表税理士・藤浪さんより語られる。もともと会計ソフト・Crewを導入していた同法人だが、2018年にサービスが終了してしまう。Crew運用時代より悩まされていた「退職問題」を解決するため、藤浪さんはfreee導入を決めたという。

 これまで担当のスキルに依存して、お金と時間を浪費してしまう負のループに陥っていたという同法人。「誰でもできる事務所運営を考えよう!」という思いから、freeeと二人三脚で製販分離を推進していく。

 同法人はfreeeの特長を活かして「設定」「マニュアル」「カルテ」という3種のツールを拡充。作業の平準化と標準化を推し進めた。その結果、未経験者でも製造部門の作業の8割は短期間で習熟できるシステムを構築できた。それによって販売部門の効率も上昇し、「生産性向上」「労働時間の減少」「顧問先の増加」という収穫を得ることが出来たという。藤浪さんは簡潔にfreee導入による製販分離のメリットを語り、「経理代行への挑戦」という、新たな付加価値の獲得に意欲をみせた。

 続いて、藤田さんより、具体的な製販分離のポイントが紹介される。「製販分離実現のポイントはfreeeの自動化機能をフル活用することです」と、力説する。同法人では月次業務の8割はパートスタッフが担当している。「パートスタッフの業務レベルを設定し、業務を分担することにより、担当社員が指示さえ出せば製造工程は自動的に進むようになっています」。藤田さんはこう語りながら、資産管理ツールの活用方法など、実際の製販分離フロー構築に役立つノウハウを、実機映像を用いて惜しげもなく開陳していく。来場者のマインドも、自然と前のめりになっていく様子が目に見えてわかった。

 話者は藤浪さんに戻り、続いて販売部門のポイントが語られる。ポイントはキックオフ当初の契約時に約束を強めにすることだという。資料回収の期日を契約時に細かく明記。タスク管理ツールのアラート機能を活用し、こまめにリマインドすることで資料回収率は40~50%から80~90%へと、劇的に改善したという。藤浪さんは最後に来場者にこう訴えた。「生産性を挙げたいと思ったら、製販分離に向いているのがfreee。他のツールとの組み合わせで、よりよい事務所環境を確立していきましょう」。


社内に存在するfreee導入にあたって「静かな抵抗勢力」。そのハードルの乗り越え方

アカウンティングフォース税理士法人 代表税理士 加瀬 洋さん

 数多の会計ソフト・クラウドシステムが存在する会計業界。そのなかでも斬新な設計思想を以て名を鳴らすfreee会計だが、その特異性が徒となることもある。freee導入にあたって一定層の変化を厭うスタッフなどからの「静かな抵抗」を感じるアドバイザー諸兄も多いことだろう。

 確かに実在するこうした抵抗に対して、どう向き合っていくべきなのか。続いて登壇した加瀬さんは、実体験に基づいたハードルの乗り越え方を語った。

 2013年にクラウド会計を知り、慎重な検討や各社の試用を経て、2021年に「一連托生」の覚悟でfreeeと共に歩むと決めた加瀬さん。覚悟の気持ちが大きかった分、得るものも大きかったがぶつかる壁も大きかった。

 「繁忙期による学びの分断」「継続契約でないアドオン業務の分断」というふたつのハードルに関しては、「時間の不足」という対処方法がわかりやすく存在したと分析。

 加瀬さんは「木を切りながら斧を研ぐ」という着想で、「100点をいきなり目指さず、定期の仕事を回しながらすこしずつ」「設定はめんどうだが、きちんとアセットを行い業務効率を複利計算的に上げていく」などの取り組みで、時間の不足を解決していったという。

 しかし、前段で述べた「静かな抵抗勢力」については一筋縄ではいかなかった。ブレイクスルーには「freeeの連打」が効果的だったと、加瀬さんはいう。「ちょっと時間がなくて……」「まずは会計税務を……」などの、導入反対ではないが消極的な声に対して、大きくふたつの領域で加瀬さんは連打を始める。

 ひとつは「意識の標準化」。経営方針として「仕分けゼロ・入力業務ゼロ」という目標を掲げ、定例モニタリング、勉強会の開催、freee会計エキスパート取得に特別手当を支給するなど、社内整備策を矢継ぎ早に実施し社内の意識改革を進める。

 そしてもうひとつの「業務の標準化」の領域では、社外に向けてfreeeを連打。そもそも創業にあたって会計ソフトにこだわりがある人はほぼいない。そこで「新規顧客は基本freeeスタート」「既存顧客にはますは記帳代行プランから」を方針に、顧客を徐々にfreee化していく。

 これらの連打施策は大いに実りをもたらすことになる。

 社内では、これまで導入に消極的だったICS職人がfreeeを活用し始めたことをきっかけに、どんどん他の職人も加わっていくという好循環が発生。

 結果、生産性は大きく向上し、社員ひとりあたりの時間あたり付加価値[(営業利益+人件費+減価償却費)÷労働時間]は900円アップ。全社員で計算すると、これは約5,000万円の原資創出と同義である。

 これによって、加瀬さんは「三方よし」だけでなく、実体験により「助言の重み」も得ることが出来たという。加瀬さんは「中小企業の発展が日本の発展。中小企業を支えるのが税理士です。皆様と共に業界に変化と発展を!」と最後に述べ、セッションを終えた。


パネルディスカッション「顧問先に価値を届けるための組織づくり」

伊藤会計事務所 代表税理士 伊藤桜子さん × エンジョイント税理士法人 代表税理士 智原翔悟さん


伊藤会計事務所 代表税理士 伊藤桜子さん

 「グローバル創業・雇用創出特区」に指定され、スタートアップ企業が次々と生まれていく街・福岡。スペシャルゲストによる最後のセッションには、福岡市内で会計事務所を営むふたりの税理士によるディスカッションが行われた。もともと縁もあり、伊藤さんと智原さんはここ2年半ほど、クラウド会計の有効活用について情報共有を進めている仲だ。

 同業他社のつながりは、スモールビジネスの発展にどう活用できるのか。freeeの坂田 佑馬を進行役に、3つのテーマに沿ってディスカッションは進んだ。

〈テーマ① これからの会計事務所が目指す提供価値の向上とは〉
  「最近、付加価値付加価値とよくいうが、顧客によって求めるものが違う」と、智原さんはまず前提する。

 伊藤さんはこれに同意しつつ「MASなど難しい業務が付加価値と言われがちだが、私が今一番力を入れているのはリアルタイムのスピード向上」と、リアルタイム化の重要性を説く。

 さらに二人は「報告資料の見やすさは重要。A4用紙1~2枚が理想」「本質的に資金などに興味がない経営者はいない。古い財務諸表の数字に興味が持てていないだけ」と、付加価値の具体的提示例を披露した。

〈テーマ② 価値向上を報酬に結びつける仕組みとは〉
  智原さんも開業当時は低価格帯で推していていた過去があるという。諸問題にぶつかり付加価値創造を模索しているうちに、だんだんと価格も向上していったそうだ。

 伊藤さんも「『クラウド=安い』というイメージは思い込みである。リアルタイムになって経営判断の材料の鮮度が上がることのメリットが本当のクラウドの価値」と語り、具体的に業務アプリ開発サービス・kintoneを活用した記帳管理システムを紹介。このシステムは智原さんも共有しており「ここ最近で顧問料が平均7万円あがった」と、リアルタイム化の確かな手ごたえを感じているようであった。

 また、伊藤さんは「料金改定は決算のタイミングで行うよう契約書に明記。報酬も顧客の年商に応じるように設定する」と、料金改定のポイントを紹介、ネゴシエーションの大切さを説いた。

〈テーマ③ 価値向上を実現するための職員育成の仕組みとは〉
 社内の業務管理でも見える化は大事だと、二人は口をそろえる。

 智原さんは「各業務フローをkintoneですべてアプリ化している」という。顧客向けのマニュアルもアプリで制作しているとのことで、今やその数は100個を超える。制作したスタッフにもインセンティブを設定し、顧客サービスとスタッフのモチベーション向上を両立している様子だ。

 また、育成にはDX的向上だけでなく生身のコミュニケーションも欠かせない。伊藤さんは自社の定例会議の長さを例に挙げた。「スタッフを詰めるようなことはせず、成果が上がったときにめっちゃ褒める! 成果もそれに対する評価も見える化すると、みんな頑張ってくれる」と、基本的なコミュニケーションの大切さを語った。

 3テーマについての熱い討論が終わると、来場のアドバイザーに両氏はメッセージを贈り、ディスカッションは団円を迎えた。

 「税務の仕事がなくなることはない。クラウド化を推進できるのはわれわれ税理士です」伊藤さん

 「業界が変われば中小企業も変わる。相談役であるわれわれがツールを活用し提案していくこが業界活性につながる」智原さん

エンジョイント税理士法人 代表税理士 智原翔悟さん

  「freee Advisor Day 2022」のメインステージのダイジェストリポートは以上です。
 続いて行われた「Advisor Awards 2022」については特設サイトに紹介を譲り、クロージングセッションであるfreeeCEO・佐々木大輔の登壇とfreeeステージについては、あらためて別記事でレポートしています。
ぜひ、チェックください。

▼佐々木大輔 登壇パート記事はこちら
▼freeeステージ レポートはこちら

(了)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?