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揺れるヒト

 友人の提案で天竜浜名湖鉄道に乗ったり降りたり、揺られて寝たりしてきた。気の置けない会話は日常の愚痴から世界情勢まで、心地好い揺れに合わせ、広がったかと思えば縮むを繰り返した。
 
 安定した生活という言葉があるが、正真正銘「安定した」生活というものは、この世には無いのだろう。なにせ、ヒトというものは「安定していない」から生きていられる。心身ともに安定しているということは、亡くなっている?状態のことではなかろうか。

 単線を走る花模様の車両は、意外な速さと不規則な揺れで乗客を運ぶ。友人は気持ちよさそうに眠り込んでしまった。深い蒼色の浜名湖が新緑と交互に光る姿を見せている。水を湛えた田はまだ少ないが、茶畑は眩しいほどの新芽に覆われている。揺りかご効果は私にも効いてきた。

 幾つになっても誰であっても、ヒトは揺れながら生きている。電車を降りて友人を駅近くのカフェに誘い、またひとしきり他愛のない会話を愉しんでから、別な改札へ見送った。たまにはこういう日も善い。揺れ動く自分を、他人を、揺れながら考える休日。電車でお弁当を食べられる日が来たら、次は駅弁なんかもいいなあと、ゆらゆら想う。

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休日のすごし方

いまの想いをいま書ける言葉で残す場と考えております。拙い乱文で恐縮です。時々お読みいただけますと幸いです。