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シルビアのいる街で



陽光、風、音、石畳、雑踏・・・
フランスの古都・ストラスブールの街並みの質感そのままに。

『シルビアのいる街で』――。
いつだったか、仏語友達から教えてもらった映画。
その不思議さたるや、仏映画の中でもダントツ(私比)。
それゆえ、何度も観たくなる作品。

『ミツバチのささやき』『エル・スール』の巨匠ビクトル・エリセが
「現代スペインで最も優れた映画作家」と評する
ホセ・ルイス・ゲリンが監督。
(2010年公開・スペイン=フランス合作)


1日目・・・画家志望の青年は、
ホテルの一室で目を覚まし、地図を片手に街を歩き出した。

2日目・・・演劇学校の前にあるカフェで、
彼はそこにいる女性たち、一人ひとりを観察し
その姿をノートにデッサンする。
「シルビアのいる街で」と余白に走り書きする。
 
やがて、ガラス越しに、一人の女性の姿を
見つけた青年は、カフェを出て行く彼女の後を追う。
後ろから、女性に「シルビア」と声をかけるが、返事はない。
それでも、後を追い続ける青年。
路面電車に乗る彼女を見つけ、自分もそれに乗り込むが・・・

そして、3日目・・・

・・・


詩情豊かな映像美。そして、(通りを流れる) いろいろな音響。
教会の鐘の音、哀愁をおびたバイオリンの生演奏、アコーディオン、
トラムの走る音、人々の足音、声、会話・・・

それらが、まるで、そこにいるかのような臨場感で迫ってくるし、
ビジュアルの奥行きと深みを、さらに増してくれるよう。

6年前、この街で知り合った女性を探しに来た青年の話――
そんな簡単なあらすじだけを、ポンと与えられて
詳細も、主人公の名前すら不明なので
観客が、好き勝手に想像できる余地がたっぷり。

観る人の推測や心境で、どんな風にでも解釈ができそうです。
監督の企てもそんな感じ。「白紙を観客に与えた」とおっしゃってたらしく。

私も、かすかな伏線や、緻密な計算がある気がして
探偵の観察のごとく、じーっと再度観てしまったけれど
それも、監督の術中にハマってたってことかな。


とはいえ、ただ、ぼんやり観ているだけでも
美しすぎる何かに巻き込まれていくような、心地の良い浮遊感。
主演の二人もうるはしく・・・

そういえば、

主人公の持ち歩くノート。
何の変哲もない、A5程の罫線のないノートだったけど、
使いこなしている様もとても印象的。

ペンではなく、「鉛筆」というのも、画学生ならではの
ちょっと浮世離れした風情があって。

この鉛筆の先から、さまざまな想いを
デッサンや散文として、形にしていく主人公。
憧れや戸惑いやときめきや不安。そして、慕情・・・
ノートは、そんな彼の内面の揺らぎ、そのものにも見えて。


川沿いの独特の木組みの家(映画には出てきませんが)


そんなお気に入りのノートを携えて
この映画みたいに、異国の街を彷徨うように歩いてみたい。

歩き疲れたら、テラスカフェで一休み。
木々のそよぎや風を感じながら、道行く人をぼんやり眺めたり。
帳面を取り出し、言葉の断片を綴ってみたり。
映画をまねて、冷えたグラスビールなんかもいい。


そんなあてない夢想が何となく湧き始めたのも
このところの麗らかな陽気のせいなのかも。



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