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森井の鑑賞記録 2018〜2019年

【2018年12月15日 金子三勇士  ソロ・クリスマスコンサート(東京国立博物館平成館ラウンジ)】

ローランドの電子ピアノLX-708のプロモーション動画で月光第三楽章の余裕ある轟かせぶりに衝撃を受けた私は、意を決して「サロンコンサート」なるもののチケットを申し込んだ。

会場にはクラシックを知り尽くしていらっしゃると思しき年長者の方々が目立った。その間を縫いながら何とかピアノから遠すぎない席を確保した。

プログラムはリストを軸に据え、バルトークとコダーイと連なるハンガリーゆかりの曲で構成される。2019年で国交樹立150周年記念にふさわしい。

生演奏、しかもホールより距離の近いサロンということで、その迫力と躍動をとくと味わうことができた。特にリストのメフィスト・ワルツ第1番は圧巻であった。体幹が安定していて如何なる激しさも受け止める強さを湛えた演奏に惚れないわけにはいかない。

しかも律儀な彼はアンコールにも体力を消耗するであろうリストの2曲で応えた。これからも引き続き追っていきたいピアニストである。


【2019年10月19日 ピエール・アンタイ チェンバロリサイタル(ハクジュホール)】

順にラモー、バッハ、ヘンデル、スカルラッティという幅広いプログラム。中央ブロック左寄りの前から2列目の席に座り、CD音源から得ていた屹立としながら円やかな印象そのままに、実物を砂被りで味わえて嬉しかった。アンコールは「バッハ」とつぶやいた後に2曲披露された。また、チェンバロの透明感を引き立てるホールの音響も素敵だった。

【2019年10月31日 ジャン・ロンドー チェンバロリサイタル(王子ホール)】

「イタリア風に」という趣向で、バッハとスカルラッティを丁寧かつ率直に聴かせた。余韻と次の音が衝突することなく、速いパッセージでも明晰を保っていた。佳境にはイタリア協奏曲が演奏され、テーマに花を添えた。

個人的には念願の王子ホール。反響と吸音のバランスが素晴らしい。小さく減衰しやすいチェンバロの音が最後まで、肌理こまやかに客席まで伝わってくる。耳を傾ける喜びがある。想像以上だった。

【2019年11月3日 ジャン・ロンドー チェンバロリサイタル(東京文化会館)】

ラモー、F.クープラン、ロワイエという、オール・フレンチ・プログラムで大盛況である。バッハがゼロでも観客が来るのが、28歳にして最早「若手」ではないジャン・ロンドーの天稟である。深遠なヴェルサイユの輝きに、いつのまにか心地よく酔っていた。静けさと調和する華やかさが素晴らしかった。フレンチ・バロックの世界を共有できて、観客の自分も嬉しい。

【2019年11月29日 アレクサンドル・タロー ピアノリサイタル(トッパンホール)】

ドラマチックな爆音ヴェルサイユ。アルバムの静謐な印象を覆した。深いところはより深く、華やかなところは折れんばかりの打鍵で眩しく響かせた。ライブだからこその整然とした暴れっぷりにやられた。

【2019年11月30日 アレクサンドル・タロー ピアノリサイタル(静岡音楽館AOI)】

それぞれドビュッシーを幻夢の入り口に、前半は優美なフレンチ・バロック(ラモー、ロワイエ )、後半は壮麗なベートーヴェン(ピアノソナタ第32番)を披露した。多彩な質感を矛盾なく纏め上げた豊穣なひとときであった。

ヤマハCFX(29日)とスタインウェイ(30日)の響き方の違いもなんとなく解ったような気がして、興味深い2日間だった。