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THE HUMAN SWARM: How our societies arise, thrive and fall by Mark W. Moffett (Introduction)

The Human Swarm、直訳すると「人間の群れ」。「社会」でなく「群れ」という表現を使うところにこの本のエッセンスがある。

冒頭、著者は、人類の歴史を振り返ると、社会に属することで一つの集団としてのイメージを強める一方、集団外の人を違うものとみなし、外国人のことを足で踏みつぶしても構わない虫けらのように蔑んできた("That foreigners might be considered contemptible enough to crush underfoot, like insects, is the stuff of history.)という強烈な一声を先ず上げる。なぜ人は小さな違いに拘り、仲間と敵を区別するのか。生物学的にはこのような区別の発生は普通ではないという。人類は狩猟・採集民の時代より、集団のために戦い、時に命を失うこともあった。

一方、人にはこのような集団意識があるにも拘わらず、今の人間社会の特徴は、カジュアルな匿名性(casual anonymity)にあるという。人が個人として認識できるのは200人程度が限界であり、この人数を越えた社会で仲間か敵かを見分けるのは、特定の羽飾りのように見た目ですぐに分かるものや、言葉の訛など、その所属する集団を象徴する何らかのマーク(印)に拠らなければならない。このようなマークを発達させることで、人間は大きな匿名集団を形成することに成功した。尚、人間以外で匿名性の巨大な社会を形成しているのは、チンパンジーを含めた他の哺乳類ではなく、なんとアリである。アリは出会った相手を殺すまで攻撃する獰猛な性格を持つが、匂いで仲間か敵かを見分け、同じ匂いの仲間は攻撃しない。数キロに及ぶサイズの同一コロニー内のアリを、その右端から左端に持っていても、そのアリの持つ匂いより攻撃されることなく集団に加わることが出来る。

しかし、アリと人間が異なるのは、人間社会はカジュアルな匿名性の社会であるという点である。たとえば全くの異国のカフェに突然入っていっても、攻撃されることなく普通に利用できるということを指す。我々にとっては当たり前の話だが、このような社会を築いている生物は人間以外には無い。

著者はこのような人間社会の成り立ちを、生物学的見地のみならず、人類学・心理学、そして哲学的見地から考察することをもくろむ。著者は正統派の学者ではなく、様々な学問分野を興味の赴くままに渉猟してきた異色の経歴を持っており、空間的・時間的にも大きなスケールで人類史を語るところにはハラリ教授のサピエンス全史を彷彿とさせる面がある一方、フィールドワークに基づく昆虫の驚くべき生態や、アフリカの部族の生活様式などの記述にも目を惹くところがある。テーマが壮大なため、議論が少し雑に感じられる面もあるが、多少の難点には目を瞑りながら、そのエッセンスを汲み取り読み進めていければと思う。

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