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【Think about D2C.】vol.02 阿部 雅幸さん

D2Cの「良いところ」「悪いところ」を、各分野のトップランナーに忖度なしで語っていただく本企画。今回は、ハンドメイドマーケットminne(ミンネ)の発起人であり、現在はクリエイティブディレクター、アドバイザーとしてさまざまな企業を支援する阿部雅幸さんに、フラクタ代表・河野が迫ります。

対談者

Speaker
阿部 雅幸さん
GMOペパボ株式会社でカスタマーサポートやコンテンツ企画、広告プロモーションの戦略立案などに従事。その後新規事業として、CtoCハンドメイドマーケット「minne」を創設し、TVCMを含む大規模なプロモーションのディレクションをはじめ、ユーザーである作家のため国内3箇所に常設スペースを立ち上げるなど精力的に活動。同社を退社後は、デザインを軸にしたクリエイティブディレクションやアドバイスを通じて企業のサポートを行っている。

Listener
河野 貴伸
株式会社フラクタ CEO。Shopify日本公式エバンジェリスト。「日本のブランド価値の総量を増やす」ことをミッションに、ブランドビジネス全体の支援活動に従事。またEC業界の発展とShopifyの普及をメインとしたセミナー及び執筆活動を、全国で展開中。


挑戦を見せる「試合」は企業やブランドにも必要なこと


河野:
阿部さんは以前「minne」で、作家さんと顧客を結ぶお仕事をされていましたよね。コロナでこういう世の中になって、ものづくりや商品を売る・届けるビジネスは、この先どうなっていくと思われますか

阿部さん:
難しい問題ですよね。ポジティブに言うとしたら、それらはインターネットとより密接なものになると思います。買い物に行けなくなった分、日常品から今まで買わなかったものまで、すべてインターネットで買わざるを得なくなるじゃないですか。だからオンラインでショッピングする機会は確実に増えますよね。そういう意味では、個人の作家さんにとってはポジティブな追い風になるのかな、と。

河野:
インターネットは情報伝達に長けている分、“共感”を生み出しやすい環境だと思うんですよね。そういった情報発信や共感を求める動きは、今後個人の作家さんに対しても出てくるのでしょうか

阿部さん:
出てくると思います。売れっ子の作家さんは、めちゃくちゃこまめに情報発信をしています。そこからファンを獲得したり、作品を好きになってもらえるパターンが非常に多いので、そういうスキルは求められるようになると思いますね。

河野:
悪い言い方をすると、昔は「ものが良ければ売れた」じゃないですか。だけど個人がものを作って販売できる時代になると、もの以上にブランドコミュニケーションが重要視されるようになり、今はコロナの影響で、ものを買いに出かけること自体がほとんどなくなってしまった。この状況を踏まえると、ものを作って売るビジネスも根本的に変わっていくと思われますか

阿部さん:
その可能性はあると思います。買い物に出かける必要性が、一時期と比べると随分なくなりましたよね。僕個人の体験で言うと、これまでは興味があったり、欲しいと思ったものを感情のままに買っていたんですよ。だけど今は「本当に必要かな?」とか「これは自分の生活に何をもたらしてくれるだろう」とか、買うことに対してシビアになった気がします。こんな状況だからそうなっているのか、外出できるようになったらこの考え方はまた変わるのかーー今はまだ分からないですね。僕としては、コロナの期間が長くなればなるほど「きちんとものを選ぶ」思考は強くなる気がします。河野さんはそのへん、いかがですか?

河野:
それは僕もすごく感じます。僕は、「欲しいから買う」のではなくて、「応援したい」と思って買うようになりました。

阿部さん:
それは素敵な考え方ですね。

河野:
今までも、個人の作り手さんやMakuake、CAMPFIREのものを買うときはそういう思いで買うことが多かったんですが、今回の件で、企業やブランドに対しても同じような思いを抱くようになりました。

阿部さん:
余談ですが、大分県の日田市に「鹿鳴庵(ろくめいあん)」という小鹿田焼のセレクトショップがあって、そこの店主・佐藤さんが「これからは“応援していただきたい気持ち”を金額に上乗せするんじゃなくて、“応援していただきたい気持ち”も含めた金額が適正価格となるような時代を作っていかないとね」という話をされていて。今河野さんが仰られた「応援」というキーワード、まさにそれだなと思いました。今までは安くしないと売れなかったり、安くていいものが選ばれる傾向にあったけど、「そのブランドを応援したいから、多少値が張っても買う」という考え方が根付く時代は来るのかもしれない、と思っています。僕もそういうサービスやプラットフォーム作れないかな、と考えているところです。

河野:
投資ではなく、応援なんですよね。

阿部さん:
そうですね。リターンは必要ないんですけど、応援するからには「心のリターン」が重要だと思います。例えるならJリーグのクラブチームに近いかも。チームがあって、ファンがいて。Jリーグのチームって各地域に拠点があるから、地域貢献の役割も果たしていますよね。それを、ファッションや食材、文化などに置き換えれば、企業やブランドにも同じことができるんじゃないかなって。その時に何が必要になるかというと、「試合をすること」だと思うんですよ。

河野:
そうですね。経済活動しなきゃいけない。

阿部さん:
試合を見に行って、チームがチャレンジする姿を見て、ファンになる。だから企業やブランドも、試合をしなくちゃいけない。チャレンジをして、それを表に見せていくことが、めちゃくちゃ大事だと思います。

河野:
クラブ会報誌のように、「こういうことを頑張りました」「こんな商品が完成しました」みたいな媒体があったらいいですね。

阿部さん:
確かに。「こういうことに困っています」「私たちはここで活動しています」「●日にお客様感謝デーやります」とか。そういうコミュニケーションの取り方が、クラブチーム化していくかもしれないですよね。

河野:
本当にそう思います。オールユアーズの木村さんのツイッター投稿見ました?ひと昔前の日本だったら、ブランドが売り上げの話をするのってご法度だったじゃないですか。でも木村さんが言うと、みんなが「マジか」「(オールユアーズの商品を)ちょうど買おうと思ってたんだよ」みたいに反応して、結果的に目標金額を達成することができた。まさにオーディエンスの力で試合に勝ったみたいで、すごくいいなと思いました。

阿部さん:
そうですよね。あれっていわば「声援」ですよね。応援するためにチケットを買いに行ったのと同じ。ペイした人もうれしいし、周りで見ていた人もうれしいから、本当の意味での勝ち試合だったと思います。何より木村さんの素晴らしいところは、お金を出してくれた人だけじゃなく、これまで関わってくれた人や服を買ってくれた人に対しても「ありがとう」というメッセージを贈っていたんですよね。

河野:
そういうアクションも「ブランドの在り方」として支持される時代になりつつあるんだな、と感じます。

阿部さん:
ファンと繋がってブランド化する」みたいな話って、今までもよく言われていたじゃないですか。「北欧、暮らしの道具店」さんなんかもそうですし。でもそれがいよいよ、待ったなしになってきた気がしますね。

河野:
そうですね。言い方悪いけど、それができないブランドは厳しい状況になりつつありますよね。

阿部さん:
そう思います。しかもこれって「今から始めましょう」ですぐにできるわけじゃないのが、難しいところなんですよね。オールユアーズさんは2、3年の間、顧客との信頼をずっと積み重ねてきたじゃないですか。その上での「みんな頼む、オラに元気をくれ」だったから、勝てたんですよね。同じことを新興ブランドがやっても、きっと難しいと思います。


ブランドの純粋な“やさしさ”は感情にダイレクトに刺さる

河野:
阿部さん的に、人々との信頼をいち早く積み重ねるには、何が有効だと思いますか?

阿部さん:
“やさしさ”だと思います。今までの企業は、「利益で社会貢献する」「製品で社会貢献する」ことが主流だったと思います。でも製品を受け取る側からすると、正直ありがたみって感じにくいんですよね。例えば私がスーパーマーケットでチーズを買う際、チーズのメーカーに感謝はしないですよね。なぜならお金の対価としてチーズを受け取っているから。でも、その企業に対して良いイメージや、お金のインセンティブではない“やさしさ”みたいなものを感じられると、企業のファンになっていくと思うんです。今でも覚えているのが、学生時代に牛乳パックをリサイクルしたときの体験。牛乳パックを洗ってひらいたときに、「リサイクルしてくれてありがとう」って書かれていたんです。リサイクルしてくれた人だけが見ることのできる、隠れたメッセージ。これって、リサイクルすることに対して感謝の気持ちを届けたいという、企業なりのコミュニケーションの形ですよね。そういう小さなことや、細部に至るやさしさの積み重ねが、その企業を応援するきっかけになっていくんじゃないかと思いますね。

河野:
やさしさを生み出すには、コミュニケーションありきで考えなきゃいけないってことですよね。

阿部さん:
そうですね。あとはマスメディアの役割ですかね。今までのマスって製品の紹介にお金をかけて、売り上げや認知を伸ばすパターンが多かったと思いますが、そうじゃない部分も結構重要になってくると思います。鹿鳴庵の話に戻りますが、鹿鳴庵ってめちゃくちゃいいところで、ぜひ河野さんもお連れしたい場所なんですけど、何がそう思わせるのかを佐藤さんにぶつけてみたところ、佐藤さんは人間という存在の「原理原則」に着目し、茶道の心や禅の思想、般若心経に触れながら心の安らぎや喜びの根源を追求した結果、そこには“懐かしさとやさしさ”があることを知ったと仰っていて。そしてそれは日本人だけじゃなく、外国人にも共通する感情だと言うんです。古いものを大切に扱い、懐かしさを感じる色や形をお店全体で表現することが、そういう感情に繋がると仰っていました。それを聞いて、僕も“やさしさ”について考えるようになりました。

河野:
D2Cも、中間マージンが取られないとかWEBベースで直販できるとか、ビジネス的な利点ばかりにフォーカスが当たりがちなんですが、今回のコロナで見えてきた僕なりの答えがあって。それは「D2Cは感情にダイレクトである」ということ。やさしさもそうだし、情熱もそう。ブランドの「思い」が距離を超えて伝わる。今までは、伝わること=恥ずかしい、ちょっと格好悪いみたいに思われていたけれど、人間らしさ剥き出しで、プリミティブな感情を双方向からぶつけ合えるのがD2Cなのかもって、今のお話を聞いていて思いました。プラスに捉え過ぎかもしれないけど、僕は「心の開放」なのかなと。

阿部さん:
仰る通りだと思います。 「企業対個人」よりかは、「個と個」に近いというか。

河野:
D2Cはそのきっかけになりつつあるかもしれない。

阿部さん:
世の中の人が、今後どういうことにお金を払うのかを考えたときに、自分自身の能力を伸ばしたり、自分自身を開放してくれる商品やサービスというのは、もはや条件になってくると思います。それが「ちゃんと選ぶ」ことにも繋がるのかなって。

河野:
いいですね、この話。熱い!(笑)コロナの収束時期はまだ不透明ですが、もし落ち着いたら、今後の販売ビジネスはどうなると思いますか?

阿部さん:
必要なものと不必要なものが、より明確になると思います。と言いつつも、パキッと明確になるのではなく、グラデーションになって見えてくるんじゃないかと。やはり商売に関しても、感情部分にどれだけ届けられるか、一人ひとりとコネクトできるかという点が重要になると思います。ただ、今までの商売が決して悪かったわけではなくて。実家の中華料理屋を例に挙げると、お店に来てもらって、中華料理を食べて、「おいしい、この店いいな、また来たいな」って思ってもらうことは、感情にダイレクトに訴えたことになりますよね。今までの積み重ねがあったからこそお店を続けてこれたと思うので、そこに何かを加えられれば、もっとお店に来ていただけるきっかけが作れると思うんです。

河野:
そこに適合できれば、もっといい未来が訪れるだろうと。今はただ粛々と、あらゆる方法を考えてやっていくしかないですよね。

阿部さん:
今はそうですね。知恵を出しながら、借りれる知恵は借りながら、やっていくしかないと思います。役に立てるかは分かりませんが、困ってる人がいたらお話を聞いて、私に出せる知恵があれば出したいです。

河野:
きっといろんな人がその知恵に救われると思います。今こそ頑張りどきですね。今日は本当にありがとうございました!

阿部さん:
ありがとうございました!

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※本インタビューはリモートにて実施しました。
阿部さんありがとうございました!

お二人の対談オンラインイベント開催決定!

ここまでブランドに対する思いを語っていただきましたが、インタビューだけでは足らない!ということで、FRACTAが開催している音声イベントにゲスト出演いただくこととなりました!

⬇︎イベント詳細はこちらよりご覧ください。

当日はチャットも使い、インタラクティブにみなさまとD2C、そしてブランドについて語っていく予定です。

みなさまのご参加楽しみにお待ちしております!

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▼Think about D2C.の第1回はこちら


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