フラクタ的__ブランドUX設計_のススメ

フラクタ的「ブランドUX設計」のススメ

こんにちは、フラクタ代表 河野です。現代のブランディングに欠かせないのが、ブランドにおけるユーザー体験、すなわち「ブランドUX」の設計です。UXは今やデジタルの世界では常識的な考え方となり、最近ではデジタルとリアルが紐づいた“一貫性のあるUX設計”の重要性が問われています。

ブランドらしいインターフェースを介して体感できる、ブランドUX。今回はブランドUXの実例を紹介した上で、なぜブランドUXが重要なのか、UXはどのように設計すれば良いか、なぜ私たちはブランドUXを提唱しているのか等をお話したいと思います。

ブランドUXに必要なのは「一貫性」

ECサイトやブランドサイトのUXは、分かりやすさはもちろん、ブランドらしさが感じられるフィードバックも大切です。
“老舗ベンチャー”と名高い中川政七商店さんのECサイトは、非常に優れたブランドUXを実現しています。下記の記事に書かれている通り、オムニチャネル化による顧客コミュニケーションの強化や、在庫表示機能を活用した接客力の底上げなど、同社は2019年3月のサイトリニューアルを機にさまざまな施策を実施。ユーザーテストを何度も行い、改善を重ねた結果、ECサイトと実店舗が良い影響を与え合える画期的なUXを実現しました。

中川政七商店さんのお店の特長として挙げられるのが「迷子になるのが楽しい」こと。私もお店に伺った際は、さまざまな商品を見ながら店内を歩くだけでワクワクしました。中川政七商店さんは、この“ワクワクする”というブランドUXを、EC上で見事に体現しました。このブランドUXはリアル(実店舗)とECサイトをシームレスに繋ぎ、ユーザーにとって心地よい一貫性をもたらしています。
ECサイトのUXをこのレベルで実装している例は、未だ稀有と言えるでしょう。しかし、今後のECサイトやブランドサイトには、このようなチャレンジが求められます。

前提として、ECでの商品販売は、実店舗の商品販売とは異なるUXが必要です。ECの場合、実物のパッケージから醸し出されるブランドイメージとwebサイトから感じ取れるブランドイメージがリンクし、「一貫性のあるブランド体験」として実装されることが理想です。

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Appleを思い浮かべてください。webサイト・製品・パッケージに至るまで独自の世界観を貫き、揺るぎないブランドイメージを確立しています。そして全ての人に共通のブランドイメージを抱かせる「一貫したブランドUX」で、他社との差別化を叶えています。さらにAppleの凄いところは、それらを表面的な格好良さにとどめず細部まで追求し、ユーザーに心地よい体験を提供しているところ。熱狂的なAppleファンが後を絶たないのは、このように徹底したブランドUX設計を行なっているからなのです。

▼参考記事:
最高のユーザー体験を!Appleパッケージデザインの秘密【iPhone、iPad】

フラクタのブランドUX設計の場合

フラクタでも、つねづね一貫性を考慮したブランドUX設計を行っています。ブランディングを担当したスカルプケアブランド「Depth」では、ブランド構築から戦略、ロゴ・パッケージなども含めたクリエイティブデザインまで総合的にプロデュースしました。
同ブランドは一部の百貨店とECサイト、美容室のみでしか展開しておらず、立ち上げ当初は大きな広告展開もしていませんでした。お客様との接点が少ない中、商品の魅力をどう伝えるか。そこで欠かせないツールだったのが「無料サンプル」でした。

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無料サンプルはDepthの公式サイトから会員登録すれば、1人1回請求できるというもの。サンプルを請求してくださったお客様は少なからずDepthに興味を持っているはずなので、そんな方たちの期待に応え、購入意欲を掻き立てるデザインにする必要がありました。そして、無料ながら上質な作りで、お客様に対する真摯な姿勢が伝わるサンプルにしようというコンセプトのもと、デザインを行いました。

一般的な無料サンプルといえば、台紙とサンプル(袋などに入った試供品)が透明な袋に入って届くものが多いと思いますが、Depthでは「手元に届いたときのちょっとした嬉しさ」を重視しました。そのため、パッケージは特別感を出しつつ機能性にも優れた「簡易的な箱にもなる台紙」を採用。組み立てればそのまま配送もできるようにし、コスト削減にも繋げました。
箱の開封部分は、お菓子箱のようなミシン目を入れることで“べりべりと開ける楽しさ”を意識。少し取り外しづらかったり、キレイに開けづらいといった点もありますが、こういった「手触り」を通して、単なるサンプルの開封にとどまらない“アクセントとなるような体験”にこだわりました。

このような体験一つひとつがブランドへの期待値を高め、お客様との結びつきを強化する。そう信じ、私たちは、ささやかなことにもこだわりながらブランディングに取り組んでいます。

「象徴的体験」の抽出こそブランドUX設計の要

デジタルとリアル両方のブランドUX設計に取り組むなら、まずはさまざまなアイデアを出し、ブランドの世界観や文脈に沿う形にまとめることが大切です。
いきなり考えるのは難しい…という場合は、ブランドの象徴的な体験「Symbolic eXperience」を抽出する手法から始めてみましょう。
どんなブランドにも、そのブランドを象徴する体験や商品(signature)が存在します。この手法では、それらに紐づく過去のブランド活動や販売商品を振り返りながら、Symbolic eXperienceを導き出していきます。これから立ち上げるブランドであれば、「抽出したブランド・コア」からイメージを膨らませるのもOK。一見難しそうに思うかもしれませんが、Symbolic eXperienceの抽出はいわば「既にある情報から“象徴的だったエピソード”を取り出す行為」なので、案外取りかかりやすいのが特徴です。

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△弊社では来客用オリジナルスリーブでSXを演出しています。

またAppleを例に出しますが、Appleの製品は「箱」のデザインはもちろん、「箱」を開けるというアクションすら心地よさを体験してもらえるように設計されています。これらも「Symbolic eXperience」です。なぜなら、中身の商品だけなく、商品を使い始めるその瞬間までもが、重要なブランド体験と考えられているからです。
Appleほど厳密には設計できずとも、ECにおけるパッケージデザインは、印象的な体験を提供するファクターになりえます。そのため、配送箱を開けた時の印象付けはブランドUXに含まれていると考えても過言ではないでしょう。まずはそういった点からチャレンジしてみてください。

▼参考記事:
通販・ECの梱包を意識している消費者は49.1%、「素敵なデザイン」の場合はリピートしたいに約25%

Symbolic eXperienceが定まると、ブランドコミュニケーションがわかりやすく、伝わりやすいものになります。Symbolic eXperienceの抽出はまさに、ブランドUX設計の第一歩なのです。

ブランドビジョンは、体験に落とし込むべし

Symbolic eXperienceが発展していけば、ブランドがもたらす感動的な体験「Impressive eXperience」が見えてきます。Impressive eXperienceは、ゴールデンサークル理論の「Why」から導き出す体験と結びつきやすい傾向にあります。

▼参考記事:ゴールデンサークル理論に学ぶ、人を熱狂的にさせるコピーづくり

Appleやポルシェ、ウォルト・ディズニー・カンパニーはImpressive eXperienceを提供する典型的な企業です。彼らの共通点は、“現実世界の解像度”を引き上げるのが得意であること。いままで知らなかったことを知る楽しさ、忘れかけていたことを思い出させてくれる体験。彼らはこういった「感動的な体験」の存在意義と、あらゆることを削ぎ落としてこそ残るブランドコア(価値)が何たるかを明確に理解した上で、自分たちの武器にしています。

あらゆる企業が彼らを真似して「Why」を決めるもののなかなか追いつくことができない理由は、ビジョンヘビーになって顧客に印象的・感動的な体験をインプリメント(実装)できていないからです。本当に必要なのはブランドのビジョンを、現実と地続きな体験に落とし込むこと。そして可能ならば、その体験を圧倒的な感動と印象で包みあげること。この先も生き残るブランドになりたいならば、これらのアクションを意識してみると良いでしょう。
実例としては、この記事内で語られている「小売店のエンタメ化」もブランドがもたらす感動的な体験「Impressive eXperience」の体現だと感じます。

▼参考記事:アメリカで体験! いま「買い物」はここまで劇的に「進化」していた

ブランドUX設計のポイント

彼らに追いつくことは難しくても、ブランドUXを見直し、改善を重ねれば近づくことはできます。弊社でも心がけているブランドUX設計のポイントをご紹介します。

1. Verbal(言葉による世界観)
ブランドのメッセージ、ストーリー、タグラインを洗練し、世界観を構築する。

2. Design & Creative Direction(クリエイティブ)
キービジュアルやパッケージなどのビジュアルデザインは、ブランドの感性を具現化したものを採用する。

3. Implementation(実装)
顧客への語りかけや顧客同士のコミュニケーション、顧客中心のコンテンツを意識する。

4. Asset Delivery & Refinement(価値の再定義)
ブランドの情緒的価値、機能的価値を再発見する。

5. Marketing Communication Strategy(リアルタイム戦略)
適切な対象に、適切なタイミングで広告をデリバリーする。

自分たちのブランドUX設計をどうやったら良いかわからなければ、まずはこれらを見直してみることをお勧めします。

ブランディングの道は壮大です。しかし、千里の道も一歩から。
お客様にもっと喜んでもらえるように、そしてもっと記憶に残せるように、できることから始めてみましょう。

【お知らせ】


川添 隆 さんと一緒にやる今年最後のZOE会大イベント!皆さんと2019年、そして2020年を語り合いたいです!めちゃくちゃ面白い会にしたいと思いますので、皆さんぜひご参加くださいー!

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