フランスワインを巡る旅 太陽とぶどうとオリーブと。リュベロンのワインは自然の賜物 後編
南仏リュベロン地方を巡る旅。
リュベロンは(も)短い滞在だったけれど、フランスの田舎を感じることができて楽しかった。気合を入れて書いたら長文になってしまったので、記事を前編と後編に分けた。今回はその後編。
※ワインネタは、薄め。
Rousillon
リュベロン地方3か所目の目的地は、ルシヨン(Roussillon)。
ここはリュベロンを代表する集落のひとつで、「フランスでもっとも美しい村」にも選ばれている山あいに佇む小さな村だ。
この地域は「フランスのコロラド」という異名をもたせる赤い山肌が特徴的。車窓からも、土の赤みがよくわかった。
リュベロン周辺は、地域によって土の色が異なる。
ここの山肌は赤いけれど、リュベロンの方にあって、ヴォークリューズ県で最も標高の高いヴァントゥーの山頂は、まるで雪をかぶっているかのように白かったりする。
それだけこの地域には多様性があり、いろんな生物が生息していて、ワインも多様なのだ(これ、前編にも書いたな)。
この地域の建物は地元の土が使われているから、全体的にオークル色。
昔、ここは天然顔料のオークル生産で非常に栄えていた。コンクリートが主流になった現在、オークル産業は衰えてしまったが、代わりにこの村は今、オークルが生んだ街並みを生かした観光業で支えられている。
ちなみによくファンデーションなどの化粧品のサンプルで、色味のある肌タイプは「オークル系」といわれているけれど、この街の色合いとはだいぶ異なる。
村自体は小さいけれど、斜面がとても急で歩きにくかった。おそらくリュベロンのほかの村も同じような感じだろう。急な坂道を上るのに必死なのだけど、ふと顔を上げると素敵な風景が広がっていて、いちいち感動したりする。
アーティストが集まるのだろう。
村のあちこちのスペースで、画家や彫刻家が個展を開いていた。あるギャラリーでは、作家と思しきムッシュがレジの横にスケッチブックを広げ、お客さんがいる間もずっと筆を動かしていた。
今回はワイナリーに行くため諦めたが、市街地からほど近いところに「オークルの小道」という遊歩道が整備されている。30分コースと50分コースがあり、土の色調の変化を楽しむことができるのでおすすめだとワイナリーのマダムからアドバイスをもらった。もしこちらへの訪問を検討されているのであれば、ぜひ。
● AOC Ventoux et Luberon : Domaine Girod
2件目のワイナリーは、ルシヨンの中心部から1キロほど離れたところにある「ドメーヌ・ジロ」。
ここはVentouxとLuberonに合わせて70ヘクタールの広大な畑を持ち、土地や環境に合った様々な品種を育てている。
ここも事前予約はせず、ふらっと立ち寄った。
ブディックにはマダムがいて、試飲ができるか聞いてみたところ、快く受け入れてくれた。
ここでもまずは、白。
グルナッシュ・ブランとルーサンヌという、多分初めての組み合わせ。 熟した果物のいい香り。
さて、赤。
ヴァントゥとリュベロンのワインを飲み比べてみて、違いなどをいろいろ聞いてみようと思ったが、白をいただいたところで嫌な予感が的中した。まだ1杯目の白ワインをいただいたところで、感覚が鈍くなっているのをはっきり感じた。
その後も少しずつテイスティングさせてもらったものの、いただいたワインの記憶、感覚が残っておらず、たいした感想を書けず。まずはヴァントゥーのワイン、その次にリュベロン(少し値段の張る)のワインをいただくはずだったが、ヴァントゥーでストップ。
今思えば、旅中でもあとから飲めるができるよう、ここでワインを買っておけばよかったと後悔している。このワイナリーのワインは、日本では買えない。先に訪問したワインも、買えない。フランスに住んでいる友人は、私がカウンターを不在にしている間もマダムとずっとおしゃべりしていた。そして今回もカートンでワインを買っていた。気軽に買えて、いいなぁ。
短い人生、私たちが飲めるワインの量は限られている。その上、私はお酒に弱いのでなおさらだ。
でも、こうしてワインの造り手のもとに足を運び、作り手と直接話を聞きながらいただくワインは、かけがえのないものだと改めて感じた。
Cucuron
最後の訪問地は、キュキュロン(Cucuron)。ここは(も)当初の計画にはなかったところ。
AirBnbで予約した宿でチェックインを済ませたら、地元のレストランでゆっくり、食事とワインを楽しもうと思っていた。
普段、私の胃腸はあまり調子に乗ると、いったん強烈な拒絶反応を示すのだけど、一時間もしないうちにほぼ回復してしまう。今回も夕方にはすっかり回復し、夜はしっかりリュベロンの旬を味わおうじゃないかと意気込んでいた。
可愛らしい宿の下階にはホストのご夫婦が住んでいた。この夫婦は南仏訛りが強いのだけど、とても気前がよかった。日本から持ってきたお土産の日本茶と和菓子の封を開けたら盛り上がり、だいぶ時間が過ぎてしまった。
夕食に出かけるときには、20時近くなってしまった。宿はリュベロンの観光名所から離れたところにあるため、この界隈には外食できる場所がないという。近くにキュキュロンという村があり、そこにはレストランがいくつもあるから行ってみるとよいとのこと。
ホストが親切にも案内していたら、友達がひとり、いきなり吹き出した。どうやら「キュキュ」という言葉はフランスの赤ちゃん言葉で「おしり」という意味らしい。でも、そんなに面白いの? この友達は陽気なコートダジュールで育ち、また、ラテンの血が流れていることに誇りを持ってると常々口にしているのだけど、人の陽気さや笑いの沸点の低さ(南仏の人に共通している気がする)もやはり、その人の住む土地がそうさせるのだろうか。
さて、フランスの夏の日暮れは遅いとはいえ、あたりはすっかり暗くなってしまった。
宿からキュキュロンに行くまで真っ暗だったし、キュキュロンの街中に入っても、オレンジ色の街灯と家からもれる明かりがぽつぽつと灯っているだけだった。ルシヨンのように石畳の歩道が続いていて、古い建物が並んでいる。明るいうちに町の中を歩いてみたかったな。でも、これがフランスの田舎なのだろう。
市街といわれる地区は丘になっていて、ふもとに車を停めて歩いて丘を登ると、何件かレストランがある。
GoogleMapを見ながらいくつか回ってみたり
電話で聞いてみて分かったのだが、近辺の食事の場所が少ないからだろうか、ウェブに載っているレストランはどこも満席か、予約なしのお客さんは受け付られないとのこと。
結局、とおりがかりでたまたま見つけたレストランのテラス席に落ち着いた。地元の居酒屋、という感じでかしこまった感じはなく、メニューはイタリアン系のものが多かった。お店で人気というブルスケッタと、赤ワインをチョイス。
このワインは個人が経営するワイナリーのものではなく、いろんな農家が作ったぶどうを集め、協同組合の工場で作られたものらしい。リュベロンにはこのような協同組合が10ほどあるとお店のスタッフが教えてくれた。
私には中途半端な知識しかないから、ワイナリーの名前を聞き、品種や醸造方法など、ワインの特徴を調べて知った気になりがちだ。でも、その範囲では出合えないおいしいワインはたくさんある。このワインも、とにかくぶどうの凝縮感を味わえておいしかった。
振り返ってみると、リュベロンの旅はなんだかのんびりしすぎて行き当たりばったりになってしまい、ここぞという魅力を十分に味わうことができなかったと思う。ワインの強さに圧倒されて、途中で気持ちが悪くなってしまったし。
それでも旅の途中でたまたま出合った風景の美しさに感動したり、作り手さんの自慢のワインがおいしくてほおが落ちそうになったり(ワインをこういう風に表現してよいのだろうか)とか、書くほどのことではないかもしれない小さな出合いが転がっている。のんびりするほど面白いところ、それがリュベロン地方なのかもしれない。
この地方のワインのおさらい
過去に書いたワインエキスパート試験の記事に、ヴァントゥーのワインもリュベロンのワインも、「ずばり特徴のない」と書いてしまったが、そんなことは全然ない。体験記ではそれを全然伝えきれていないと思うので、今後のためもこの地域のAOCについて整理したい。
● AOC Luberon
AOCヴァントゥーとの境となるカヴァロン(Calavon)川と南のデュランス川の間にある地域。山がちで標高は200mから450mと高く、地域全体が国立自然公園に指定されている。北のヴァントゥーと比べると、美しい村やそこにある建築物に住人の営み、など、人の手によって培われた文化的な要素が濃い地域。これまでもピカソやカミュなど、アーティストや作家たちを魅了してきた。
歴史
紀元前に入植したギリシア人がこの地にぶどうが植栽し、その後、ローマ人によってぶどう栽培の文化が発展した。今回訪れたキュキュロンの東にあるキャブリエール・デーグ(Cabrières d’Aigues)では、ローマの衣装を身につけた人々がアンフォラや樽を船に積んでいる様子が描かれた彫刻が発見されている。中世になってローマ教皇がアヴィニョンに滞在していた時代、シャトーヌフ=デュ=パプと同様にワイナリ造りが発展した。1970年代に地元の生産者によってぶどう栽培の近代化が一気に進み、1988年にAOCを取得。
気候:
温暖な地中海性気候。標高が高いため気温差が大きく、またアルプス山脈に由来する冷風の影響を受ける。1年の日照時間は2,600時間で、フランスでもっとも長い地域に該当するが、夜は気温が下がりって乾燥した状態の中、ぶどうは穏やかに熟する。
土壌:
キャブリエール・デーグ周辺では中新世の砂、山麓には石灰岩、そしてApt地域では赤い粘土。
生産割合:
赤:26% ロゼ:54% 白:26%
ローヌ渓谷地方といえども地中海に近く、プロヴァンス地方に隣接していることもあり、ロゼの生産量が多い。
品種:
赤とロゼは、シラーとグルナッシュ主体。加えてムーヴェードルとサンソー。丸みのある喉越しにカシス、クロイチゴ、フランボワーズといった赤系果実のフレッシュさにときどき黒コショウのスパイスを感じられる。
リュベロンのロゼは色の淡いものから濃いものまでバリエーションが豊富。イチゴやクロイチゴなどの赤系果実とエキゾチックな風味が感じられる。
白はヴェルメンティーノ、グルナッシュ・ブラン、クラレット、ブールブラン、ルーサンヌ、マルサンヌ、ヴィオニエ、ユニ・ブラン。品種をアッサンブラージュすることにより、ワインははつらつとしながらエレガントで、パイナップルに桃といった果実味にハチミツやトーストといった複雑さが加わる。
平均年間収穫量:
34hl/ha
栽培面積:
3,130ha
生産量
136,904hl
輸出率34%
● AOC Ventoux
AOCヴァントゥーは、AOCリュベロンの北にある広大な地域。ローヌ渓谷地方南部といわれる地域の東に位置し、ヴォークリュ―ズ県内の51ものコミューンにまたがる。
このAOCの特徴は、ヴァントゥー山をはじめとしたヴォークリューズ山塊が生み出す生物多様性の豊かなテロワール。この地方は1990年にユネスコのエコパークに指定されている。
歴史 :
ぶどう畑が開墾されたのは紀元前に遡る。考古学調査の結果、ここでワイン造り用のアンフォラが行われたという記録が残っている。ワインづくりが盛んになったのは、アヴィニョンにローマ法王がやってきた中世になってから。その後、フランス王の食卓にヴァントゥーのワインが供されることもあったそう。フランス革命期の18世紀中ごろ、ルイ・フィリップ王が好んでいたようだ。その後ふぃろきせらの影響を受けるも、1939年に生産者による協同組合が発足し、ヴァントゥーワインのプロモーション活動が開始。1953年にVDQS(現在は廃止されたAOCよりひとつ格下の規格)に、1973年にAOCに昇格した。
気候:
温暖な地中海性気候。南仏といえどもヴァントゥー山をはじめとしたヴォークリューズ山塊にあるため標高は高く、内陸性気候の影響が少々加わる。ミストラルという強く冷たい季節風の影響大。
土壌:
太鼓の昔、この地は海に覆われていたこともあり、地質の形態も多様。また、ローヌ川付近、特にAOCシャトーヌフ=デュ=パプで見られる大きくゴロゴロした石がここでも散見される。
生産割合:
赤:54% ロゼ:41% 白:6%
赤とロゼが多く、白は少数。
品種:
赤ワインとロゼの品種:グルナッシュ、シラー、サンソー、ムーヴェードル、カリニャンが主要品種。主要品種以外の品種は最大20%まで、マルセランとヴェルメンティーノのみ最大10%加えることが可能。赤ワインはカシスやクロイチゴなどの赤果実のフレッシュ感に加え、リコリスやバニラの複雑感を感じることができるものも。
白ワインは南ローヌ原産のブールブラン、クラレット、グルナッシュ・ブラン、ヌーサンヌが主品種で、マルサンヌ、ヴェルメンティーノがブレンドに使われる。
平均年間収穫量:
44hl/ha
栽培面積:
5,786ha
※地区名AOCとしては圧倒的な面積
生産量:
252,563hl
輸出率:
30%
●AOCリュベロンとヴァントゥのまとめ
リュベロンとヴァントゥーの違いってなんだろうと思っていた。
共通するのは、ローヌ渓谷南部にありながら地中海に近いこと、アルプス山脈の南端続きで山がちなこと、生物多様性に恵まれているなど、様々な要素が絡んでいる。だから、ひとくくりにはできない。
私の印象だが、ヴァントゥーは自然がそのまま残っていて、作り方も、出来上がったワインも、ラベルや梱包による見せ方も素朴。それに対してリュベロンは、知名度の高さ人が作った風光明媚な景色も相まって、ワインも、ワイナリーも、華やか。
参考:
indesign magazine template (vins-luberon.fr)
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