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『僕は、君を殺さない。』

《前世のお話です》


(このお話の続き…。)


どれぐらい眠っていただろうか…。

痛みと、

気持ち悪さで目が覚めた…。

体を動かそうとするが、起き上がる事で精一杯であった。



頭が痛い…。



全身が痛い…。


浅くしか呼吸ができない…。

苦しい…。




ここはどこだ…?



半地下のような部屋…。





高い高い天井の、小さい小さい窓から、ほんの少し光が入る。





寝かされていたのは、小さいベッド。



そして、



向こうには机…


何もないが、小綺麗な部屋であった。





振り返ると、牢屋のように格子で出来た壁があり、その向こうに人が立っていた。



「ここはどこだ。」



返事は…ない。




武装した兵…。




そうか…




察しはついた…



殺されるはずであったが…



生かされている。









痛みと…苦しさで…


また、眠っていた。




次に目を覚ますと


格子の向こうにトンアがいた。


変わらない…笑顔を向けて。




自分でも驚く程、何の感情もわかなかった。




執務を手伝うように言われる。



…だろうな…と、思った。




自分が生まれてから、当主となる為に費やしてきた時間と、内容の叩き込まれ方が違う。


決して傲っている訳ではない。


それでも、学ぶ過程である程度容易ではない事くらい分かっていた。






しかし…私は負けた。



負けて命を繋がれた…



負けて分かった事がある。

そうだ…私はこの国が好きだった。




だから…

国のためだと…執務を手伝い


助言ををし続けた。



そう、この地下から…。





どれぐらい経ったであろうか。


ある日、外に連れ出された。



もちろん、人目に付かないように。





久々に見る…国。




衝撃であった。





飢えと、疫病の蔓延…。



トンアは、言われた事をしていなかった。









初めて、怒りが沸いてきた。



そして、


どうして、この状態を私に見せた?


怒りと

悲しさと




…トンアが言った。



「僕は向いてなかったな。見てくれ。」



差し出されたの歴代当主に継承する刀。



抜くと…少し錆があった…


「刀すら僕を拒否するんだ」




そう言って…笑っていた。





そして、また


地下に入れられた。





それから、私は食事を一切取らなかった。



もう、取れなかった。



トンアが来て、無理やり食べさせようとするが、


吐いてしまう。




「殺してくれ」


そう、叫ぶと



死ねないように、縛られた。





トンアの問にも反応せずにいると、



「何か言え!!!」


と突き飛ばされた。


頭を打って血が出たのを皮切りに、そのまま殴り続けられ…殺された。





君は…


泣いていたね。







ねぇ、トンア…。


人にはそれぞれ器がある。


私なら出来たという話ではない。



身の程を認めて、知ることが一番大きく羽ばたける条件なんだよ。



…分かってたんだ。


強く言えば良かったんだ。





外に出たとき…、君を…トンアを…殺してやればよかったんだ。



トンアもそれを望んでいたはずなんだ。



君が「見て」と当主の刀を手渡した時…、分かってたんだ。


気付かないふりをした。





私は…弱かった。








治めるということ。


政を行うということ。


生かすということ。



人の流れ…


命の流れ…


時の流れ…


時代…国…町…村…家族…


そして




全ては流れなんだ。





君を殺して、


代わってやればよかった…。



だけど、


僕は、



君を殺したくはなかったんだ。




君だけは幼い頃から


“私がどうしたいか”


を、聞いてくれたから。




君だけは、


君だけは…



僕を


“流れ”ではなく、“個”として見てくれていたから。


そう。次期当主としてではなく、タオアとして。



結局、

僕は君に必要とされていたかったのかもしれない。



国よりも、


君が大切だったんだよ。





ごめんね。


「自分を殺してまで叶えなければならない誰かの願いなんて…ないよ」



最後に僕は自分の願いを叶えた。




「僕は、君を殺さない。」






そして、



私が居なくなる事で、後ろめたい事もなくなる。



情報は残してある。






諦めるな。


泣くな。


生きて。








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