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告白水平線

最後の旅先だった。
彼女にもわかっていた。

窓外の海は荒れていた。ヨットに帆を張る人々も数えるくらい。水平線に入道雲がわだかまって、秋の到来を告げている。

ほんとうに……

その先が続かなかった。俯いた彼女の眼の縁にいつか涙が溜まって小刻みに震えている。彼方の水平線、そして此方には比べようもなく小さな水平線。でもそこには、宇宙の重さにも匹敵するせめぎ合いがあった。

彼が先を促さないから続かないのか、彼女一人の決断モードに至っての逡巡なのかは誰にもわからない。「終わりなの?」と続けばしばらく終わらないことは、彼にもわかっていた。

彼との子どもが欲しいとまで彼女は思うようになっていた。それはすでにいる二人の子どもを捨てることを意味した。世間的には。でも違う。みんなわたしが産んだ子であるのは道理なのに。愛の風向きが変わっただけ。

告白水平線の均衡が破れる。極小の海は崩れ、涙は頬を伝い、ようやく彼女は言った。

今までありがとう。



(407字)

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