ラッセル初優勝の陰で、仁義なきチームメイト関係に揺れたサンパウロGP
ラッセルが前日のスプリントに続く速さを見せ、グリッド先頭からのトップチェッカーでF1初優勝を決めた。ハミルトンも2位に入り、メルセデスは今季初勝利を1-2で飾った。一方、レッドブル、フェラーリはドライバーズランキング2位を巡ってチーム内でひと悶着あり、今後のドライバー関係に不安をのぞかせるレースとなった。
スプリントで判明した3つの「ネタバレ」
以前書いた通り、口の悪いF1ファンは昨年導入されたスプリントを「ネタバレレース」と呼んでいる。タイヤもコンディションも同じであれば、決勝の展開もおおよそ読めてしまうからだ。
今回のスプリントで判明した「ネタバレ」は以下の3つ。
メルセデスは速い。特にラッセルは乗れている
レッドブルはミディアムタイヤを使いこなせない
仁義なきチームメイト関係
今回のブラジルGPは土曜が曇り、日曜は雨が予想されたが、結局、決勝はドライコンディションのままだった。そのため、「ネタバレ」の3項目はそのまま決勝に持ち越すことになった。
ラッセルを脅かす者がいないレースに
ラッセルは強かった。スタートでは抜群の加速でハミルトンを従え、先頭で1コーナーを駆け抜けた。セーフティカー(SC)明けの7周目にハミルトンとフェルスタッペンが2コーナーで絡んで双方とも順位を落とし、同じ周にルクレールもノリスと接触して最後尾に落ちた。サインツは捨てバイザーがブレーキダクトに入り込む不運で18周目にピットに入り、2位を走るペレスもミディアムのペースに苦しむとなると、ラッセルを脅かす者はいなかった。
ハミルトンとフェルスタッペンの接触は後者に5秒ペナルティが下ったが、レーシングアクシデントとみなすのが妥当なように感じた。1コーナーアウト側からフェルスタッペンがハミルトンに並びかけるが、2コーナーでハミルトンが構わずイン側にステアリングを切ったように見える。タイヤ1つ半ほど前にいるとはいえ相手の位置は分かっていたはずで、イン側に余地を残さないのはハミルトンにも過失があると感じた。
レース終盤のノリスのトラブルでSCとなり、首位ラッセルと、2位まで順位を上げたハミルトンとの間隔が詰まる。残り12周の59周目にレース再開。ラッセルはホームストレート中ほどで加速し始めるうまいリスタートを切り、トップのまま1コーナーを通過した。
ハミルトンは首位を狙うものの、ラッセルはチームメイトがDRS圏内に入るのを許さなかった。レース最終盤のハミルトンはややペースを緩め、サインツらに対する壁の役割を自ら買って出たように見えた。マクラーレンでバトンと組んだ10~12年、メルセデスへの加入初年度の13年のように、私は「タイトルが絡まないときのハミルトン」は案外チームプレーヤーだ、との印象を持っている。
ゴール後、若きチームメイトを称えるハミルトンは、実にいい表情をしていた。
ランキング2位をめぐる、仁義なきチームメイト関係
上記3つのネタバレのうち、決勝で最も意外な形で表面化し、最も物議をかもしたのは『3. 仁義なきチームメイト関係』だった。それもレッドブルのフェルスタッペンとペレスの軋轢という、にわかに想像できない事態が白日の下にさらされた。
レース終盤、5位アロンソ攻略のためにペレスの前に出た6位フェルスタッペンに、チームから「ペレスのドライバーズランキング2位の援護のため、順位を元に戻せ」との指示が出た。
しかし、フェルスタッペンは拒否。そのままゴールを迎えた。レース後、ペレスがフェルスタッペンに厳しい表情で詰め寄るシーンも見られた。フェルスタッペンの非協力の理由は諸説語られ、「モナコGP予選Q3でペレスが故意クラッシュを起こしたことへの反発」ともウワサされる。本人はその真偽を問う質問に否定も肯定もしていない。
私見だが、ペレスが故意クラッシュを起こしたとは信じがたい。最終アタックをフイにされたフェルスタッペンの逆恨みというなら整合性が取れるが、1回目のアタック終了時点で暫定3位のペレスに意図的なクラッシュを起こす動機は乏しく、ギアボックスなどを損傷すれば3番グリッドの座も怪しくなる。ネット上にはテレメトリーデータの画像も上がっているが、そのログが即、故意を断定しうるかは分からない。
昨年のアブダビや今年のオランダ、日本など、ペレスの働きがフェルスタッペンを助けた事例は数知れない。今シーズン序盤は記者会見でニコニコと語り合う相思相愛の場面が目立った2人だが、その裏で亀裂が生まれていたとなると驚きだ。フェルスタッペンは「最終戦ではペレスに協力する」と語っているが、そのような場面が訪れるだろうか。
なにより、『ペレスに対する内に秘めた疑念や亀裂を、コース上の自分の行動で公にさらした』ことが問題だ。どんな言動にもいらぬ憶測を招くし、今後ペレスが進んでフェルスタッペンへ協力するか不確実になった。
フェルスタッペンは意地を貫く引き換えに、内には不信と摩擦を生み、敵には自陣の弱点をさらし、マスコミからは対立をあおられるという、何も得るもののない結果を招いたように思える。この手の敵陣内の不和と連携不足を最も的確に突いてくるのがメルセデスというチームではなかったか。来年のレッドブルは大丈夫だろうか?
一方、フェラーリは、レース終盤に4位ルクレールから「チャンピオンシップのことを考えてくれ」と、3位サインツとの順位入れ替えを迫る無線が飛んだ。ルクレールはランキング2位をめぐるペレスとのシーソーゲームの渦中にある。チーム側はルクレールと5位アロンソの間隔が狭すぎてサインツがバックオフできないこと、およびサインツが審議で5秒加算の可能性がある、との理由で却下し、3位サインツ、4位ルクレールのままゴールした。
個人的には、フェラーリのエースたる者が「ランキング2位」ごときでガタガタ抜かすのはカッコ悪い、と思う。たとえ事前にチームオーダーの取り決めがあったとしても、だ。順位の入れ替えはチームが覚えておくことで、ドライバーが率先して口に出すことではないと感じる。(もっとも、フェラーリの場合は「チームが忘れている」可能性を否定できないのが痛いところだ)
チームのエースドライバーなら、「チャンピオン以外は全部一緒」、むしろ「シーズン後のセレモニーに出なくてすむなら3位も興味はない」くらいの気構えであってほしい。実際に昨年引退したあるドライバーは、所属チームの給与未払いと古傷の手術のために、ある年の終盤2戦を欠場してランキング3位を捨ててしまった。
「ランキング2位」のこだわりが許されるのはチーム側だ。選手権を獲ったチームはシーズンを1-2で飾りたいし、セカンドドライバーにもランキング2位の栄誉を与えたい。一方でライバルチームはなんとしても他チームの1-2独占は阻止したい。
図らずもルクレールとペレスは同点で最終戦を迎えることとなった。チームのサポート体制も含め、アブダビでどのような結末となるか見ものだ。
後方へ目をやるとアルピーヌのアロンソが、チームオーダー服従を渋るオコンを力づくでねじ伏せ、レッドブル勢2台を従える12台抜きの5位入賞を果たした。マクラーレン勢は2台リタイアでチームランキング4位はほぼ絶望だが、リカルドが1周目に不用意なクラッシュで消えたのはこの2年の不振を象徴するようだった。
スプリントと決勝で、多くのチーム内で軋轢が見え隠れしたサンパウロGP。チーム全員が笑顔でサーキットをあとにしたのはメルセデスだけではなかろうか?
決して軽くない「最終戦」の重み
これで22年F1シーズンも最終戦アブダビGPを残すのみとなった。
すでにタイトルは決まっているが、最終戦は決して「消化試合」ではない。ここでしっかり勝利で締めたことが、翌年の反転攻勢につながった例は少なくない。
記憶に新しい20年。終始メルセデスが独走したシーズンの最終戦でフェルスタッペンが年間2勝目を挙げた。通常より一段柔らかいタイヤアロケーションが有利に働いた70周年記念GPとは異なり、純然たる実力で最終戦を制したことはチームやホンダにとっても21年の戴冠に向けた大きな弾みになった。
15年。ラスト3戦を残してハミルトンのタイトルが決まっていたが、敗者のロズベルグは屈辱のなか3連勝でシーズンを締めた。一説には、シーズン最終盤で導入された新しいブレーキシステムにすばやく順応したことが翌年の好成績につながったとされる。ロズベルグは16年を開幕4連勝で発進すると、ハミルトンに一時はポイントで逆転を許すものの、最終戦で際どくタイトルを決めた。
このほか、09年のベッテル、97年のハッキネン、95年のヒルも、最終戦の勝利が翌年の快進撃につながった事例といえるだろう。
今回のブラジルでメルセデスがついに復活を果たした。F1ファンにはもう1つ、復活を期待している赤いチームがあるはずだ。彼らの奮起を期待したいところだ。
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