見出し画像

シルバーアロー復活の芽を摘んだレッドブルのタイヤ戦略——メキシコシティGP

フェルスタッペンが完勝し、シーズン最多記録を更新する14勝を達成した。メルセデスは序盤にハミルトンとラッセルがレッドブル勢に食い下がったが、レース中盤のハードタイヤ装着が足を引っ張り優勝の目を逃した。フェラーリは主役どころか脇役にもなれず、戦力低下が深刻に。ペレスは地元で3位表彰台に入り満員の観衆を沸かせたが、さらに上の順位もあり得ただけにやや残念な結果だった。

レッドブルに迫るも、ハードタイヤに苦しんだメルセデス

レッドブル2台はソフトでスタートし、ペレスが71周レースの23周目、フェルスタッペンが25周目に早々にミディアムに替えて最後まで走り切る作戦を採用。一方のメルセデス勢はミディアムでスタートし、耐久性に余裕があると思われたハードにスイッチしてゴールを迎える作戦だった。

結果的には、ミディアムで残り45周以上を走りきれると踏んだレッドブルの判断が素晴らしく、2台ともレース終了まで1分22秒台のペースで走り続けた。ハミルトンは第1スティントでフェルスタッペンの1.7秒差に詰め寄ったが、29周目にハードに交換してコースに戻ると、新品ミディアムで4周飛ばしたフェルスタッペンが7秒先を走っていた。

この日のメルセデス勢はハードの感触の悪さに苦しみ、第2スティントでハミルトンと首位の差はじりじりと開いていった。ミディアムで34周まで引っ張ったラッセルは無線でソフト装着を進言したが、チームは聞き入れなかった。その逆境でハミルトン2位、ラッセルは4位に入ったのはさすがだ。

このレースはポールポジションを獲得したフェルスタッペンと、スタートで2位に上がったハミルトンの直接対決の期待もあったが、思わぬ差がついた。メルセデスの失敗というよりは、ミディアムのライフを読み、タイヤ交換後のフェルスタッペンに一気にスパートさせたレッドブルの作戦勝ちという表現が正しいように思う。

サーキットのスタジアムセクションに設けられた表彰台

同じくタイヤが明暗を分けたアロンソとリカルド

中段勢では40周目にピットに入ったアロンソにアルピーヌチームはハードを与え、手の内にあった7位をみすみす捨てる結果になった(のちにエンジントラブルでリタイア)。ハードの感触の悪さは中段チームへの影響がより深刻で、アロンソはタイヤ交換から13周後にはそれまでより1秒以上遅い1分25〜26秒台へとタイムを落とした。オコンやノリスらも同様の症状に苦しんだ。

(※お詫び:アロンソのタイム下落はパワーユニットトラブルの兆候が53周目から現れていたことが原因でした。そのため、ハード装着が順位の下落に直結したとは言えないようです。訂正のうえお詫びします)

逆に作戦がはまったのがリカルドで、ミディアムで44周目まで引っ張り、ソフト交換後は水を得た魚のように順位を上げていった。角田裕毅との接触はいただけないが、10秒ペナルティをカバーするタイム差をつけて7位に入賞し、今シーズン初のドライバ・オブ・ザ・デイにも輝いた。来シーズンF1を離れるリカルドにとっては、自信を取り戻すレースとなったことだろう。

各車のピット戦略。第2スティントでソフトに替えたリカルドの戦略が当たり、ハードを履いた各車は厳しい戦いとなった

ハードに替えた各チームは、ソフトの耐久性によほど不安があったのだろうか? 確かにレース後半に新品ソフトを履いたのはQ2落ちドライバーしかおらず、手持ちに新品ソフトがない上位勢はユーズドソフトの耐久性を疑問視していた可能性はある。

レース後半をユーズドソフトで走った唯一の事例がマグヌッセンだ。彼は38周目にユーズドソフトに交換し、49周目に1分23秒3の自身ベストタイムを出したあと、チェッカーまで安定して1分24秒前後のタイムを刻んでいた。ユーズドでも32周は走れていたことになる。

順位が大きく違うので単純比較はできないが、アロンソの40周目のハード交換は論外で、ラッセルもユーズドソフトで最後まで走れたのでは、という気がする。このあたりの解析は、「F1ラップタイム研究室」さんにお願いしたい(笑)。

タイヤ交換作戦で失敗、エンジントラブルも発生してレース終盤にリタイヤしたアロンソ

「空気」と化したフェラーリ、求む専制型リーダーシップ

フェラーリは5、6位に埋もれた。テレビに映ったのはスタート直後と、先にピットストップを終えて追い上げるレッドブル勢に交わされたときぐらい。タイヤ戦略で目立つ失敗がないのに、これだけの不振は深刻で、「高地の特殊要因」に理由を求めるのは無理がある気がする。

このチームは技術部門出身のビノットがチーム代表を務め、チーム全体の司令塔と開発トップの役割が分担されていないことが最大の問題だ。ビノットは日本GPを欠場したが、おそらく来シーズン用マシンの開発に向けた陣頭指揮のためだろう。

この人は開発者としては優秀で、組織のトップとしては「コーディネーター型」とでも呼べる存在だと思われる。部下の意見のボトムアップや、ロリー・バーンのような人材との協調に長け、内部の人間には働きやすい組織に違いない。

しかし、常時戦場のF1の現場で必要なのは、ときには強権を発揮してでも全体を引っ張るリーダー、「聞く力」だけではなく「決断する力」に優れたリーダーだ。フェラーリには人材の一刻も早い招聘を望みたい。

優勝を譲られるチャンスを逃した? 3位のペレス

地元のペレスは3位。彼が周回を重ねるたびに、歓声がウェーブのようにサーキットを駆け抜けていくのが画面を通して伝わってきた。

地元で3位に入ったペレス

23周目のピットインの際に左リヤの交換に手間取って5秒を要し、ハミルトンへのアンダーカットのチャンスを逃したのが痛かった。フェルスタッペンやチームから具体的な発言はないものの、ペレスが2位に上がった場合は、この2シーズン世話になり続けたお礼に彼らは地元優勝を譲る心づもりもあったのでは、と私は推察している。それだけにペレスは惜しい3位だった。

F1も残り2戦。フェルスタッペンの王座は決まったが、ドライバーズ、コンストラクターズの2位争いは激しく、アルピーヌとマクラーレンの4位争いも熾烈だ。フェルスタッペン独走にもかかわらず退屈さを感じないのは、新規定によるバトルの激しさに加え、各チームの戦力差が明らかに詰まったためと思われる。

メキシコシティーGPもその例外ではない1戦だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?