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大ブームとなった『おっさんずラブ』 SNSで熱狂的に支持されていたものは何だったのか

はじめに

このnoteは2018年4月に『おっさんずラブ』に出会い、人生初のオタク生活に突入した私が『多くのファンが熱狂したおっさんずラブとは一体何だったのか』という思いでまとめました。
『おっさんずラブ』は今から2年半以上前に放送を終了したドラマですが、今なおファンの間で続編が熱望されています。ドラマと同じ土曜日23時15分にはいまだに多くのファンが『#おっさんずラブ〇〇〇話』(2021年2月27日に150話目となります。)のタグを用いてツイートを続けている、そんな人気コンテンツなのです。

どのテレビ局も”コンテンツ重視”を打ち出している中でこれだけの人気を維持している『おっさんずラブ』は、貴重なコンテンツだと思います。この『おっさんずラブ』人気の理由をほんの少しでも捉えることが出来たら、コンテンツの望ましい未来の方向も少しは明示出来るのではないかと思い、これをまとめてみました。
このnoteは私の個人的な興味が元になっており、且つ素人が素人目線でまとめたものですが、これにより『おっさんずラブ』という稀有なコンテンツに対するファンの熱い思いの源を少しでも知っていただくことができたらいいなと思います。


2018年もっとも話題になったドラマ『おっさんずラブ』が終了して2年半がたちました。『おっさんずラブ』はその年最も人気を博したドラマの一つであり、SNS上でのファンの熱狂ぶりも話題となっておりました。今回はSNSのうちTwitterに注目し、2019年夏に公開された『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』も含め、何がファンの心を掴んでいたのか、誰が(どの役が)愛されていたのかを探ります。

1.『おっさんずラブ』とは...

『おっさんずラブ』は、2016年からテレビ朝日系列で放送されたテレビドラマで、同年12月31日に『年の瀬 変愛ドラマ第3夜』として短編が放送された後、「土曜ナイトドラマ」枠で2018年に第1シリーズ、2019年に第2シリーズ『おっさんずラブ -in the sky- 』が放送されました。

なかでも、2018年の『おっさんずラブ』への評価は高く、その年のテレビドラマ界において数々の賞を受けました。
・東京ドラマアウォード2018 連続ドラマ部門 グランプリ
・第45回放送文化基金賞 テレビドラマ番組部門 優秀賞
・第11回「日本ブルーレイ大賞」 カテゴリー部門・TVドラマ賞
・ビデオ屋さん大賞2018 部門賞「国内TVドラマ賞」金賞
・第97回ザテレビジョンドラマアカデミー賞 最優秀作品賞
・第12回コンフィデンスアワード・ドラマ賞 作品賞
(一部紹介)

2018年の『おっさんずラブ』は視聴率こそ低かったものの、Twitterトレンドで世界トレンド1位を2度も取るほど爆発的な人気となりました。NTTデータが2018年にTwitter上での話題量を分析した「イマツイ ツイート大賞2018」ではテレビドラマ部門の1位となっています。

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このTwitterでの人気は『おっさんずラブ』公式アカウントがリードした部分がありました。ドラマ放映中、公式アカウントより『今週もみんなで、#おっさんずラブ とつぶやいてリアルタイムで楽しみましょう』(2018年5月26日)などハッシュタグ#を付けて盛り上がろう、という呼びかけが行われ、その都度SNS上でファンが応えていました。
また、映画公開前のイベント時には公式アカウントから『#おっさんずラブが止まらない というタグを付けて盛り上がろう』という呼びかけがあり、ファンが応じたことでこのタグがTwitter世界トレンドNo.1となった(2019年8月13日)こともありました。
このように公式アカウントと視聴者アカウントの相互のSNS利用が作品の盛り上がりを支えていったということは確かでしょう。『おっさんずラブ』人気にはSNSが切っても切り離せない関係だったということは言えます。

ファンの作品への思いはSNSだけに留まらず、公式本やBR/DVD・公式グッズの高売上高、公式展覧会の盛況、という結果に結びつき、高視聴率ではない作品にも関わらずファンの高い購買意欲という今までのドラマ界では無かった反応を見せる結果となりました。このことからも『おっさんずラブ』が極めて優秀なコンテンツであるということが言えると思います。
(参考:公式本初版10万部)


ここで2018年ドラマ『おっさんずラブ』について簡単に紹介します。

<登場人物>
春田創一(はるた・そういち)33 ………田中圭
牧凌太(まき・りょうた)25 ………林遣都
荒井ちず(あらい・ちず)27 ………内田理央
栗林歌麻呂(くりばやし・うたまろ)23 ………金子大地
瀬川舞香(せがわ・まいか)45 ………伊藤修子
荒井鉄平(あらい・てっぺい)38 ………児嶋一哉
武川政宗(たけかわ・まさむね)44 ………眞島秀和
黒澤蝶子(くろさわ・ちょうこ)50 ………大塚寧々
黒澤武蔵(くろさわ・むさし)55 ………吉田鋼太郎

<ざっくりとしたあらすじとテーマ>
モテないお人よしの春田創一が乙女心を持つ上司の黒澤武蔵、同居している“イケメンでドSな後輩”である牧凌太から告白され、迷い、流されながらも、自分の本当の気持ち(牧への思い)に気づき、恋を成就させるという物語で、全編にコメディを散りばめながらも『人を好きになるとは何か』という普遍的なテーマを見事に描いた作品でした。


このnoteでは、話題となった2018年『おっさんずラブ』、そしてその続編である『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』の公式アカウントのツイートを勝手に分析したものを発表します。
素人がエクセルを使い、手作業で分析した内容です。細かい点は御容赦ください。


2.『おっさんずラブ』人気ツイート ベスト5

まず、『おっさんずラブ』において、イイネの多かったツイートベスト5を紹介する。これは『おっさんずラブ』という作品自体へ送られたファンからの賛辞ベスト5とも言えるものだろう。

第1位 2018年12月7日 キャスト全員続投での映画化決定!

第2位 2018年6月3日 林遣都さんクランクアップ!田中圭さんとハグ

第3位 2018年6月3日 田中圭さんクランクアップ!林遣都さんとハグ

第4位 2018年5月20日 春田と牧のデートオフショット

第5位 2019年8月26日 春田創一と牧凌太。
            二人の幸せがこの先も続きますように。

ここでは注目したいことが三つある。
まず一つは、Twitterでの人気第1位は ”映画化決定” のツイートだということだ。あれだけ話題になったドラマ本編に対するイイネよりも、続編映画決定へのイイネが多かったということは、それだけ続編を望む人が多かったということであろう。また、このツイートに寄せられたコメントを見ると、キャスト全員続投について歓迎しているものが多く、キャストごと愛されていたドラマだということが分かる。
次に意外であったのは、第2位に主演である田中圭のクランクアップではなく、林遣都のクランクアップが来たことである。しかも田中圭のクランクアップと比較してイイネの差が3万もあった。もちろん他のツイートで春田創一(田中圭)へのイイネは段違いに多いのだが、クランクアップや単独での紹介となると、牧凌太(林遣都)へのイイネの数が春田創一(田中圭)を上回ることがある。これは、林遣都演じる牧凌太がいかに視聴者に愛されていたかということを表しているのではないだろうか。
そして、三つ目はこの人気ツイートベスト5全てが ”春田と牧” に関することであるということだ。第1位の続編映画についても、キャスト全員続投という点が評価されていることから、春田と牧のその後の姿を見たいと思う視聴者が多いことがうかがえる。そして第2位~5位までは、全てそのまま春田と牧に関するツイートであった。従って、Twitter上で視聴者が最も反応したのは、春田と牧に関することだったということが言えると思う。

続いて、ドラマや映画における公式ツイートを見ていきたいと思う。


3. 公式ツイートにおける主要人物 登場回数及び登場割合

1)2018年ドラマ公式ツイート
ツイート期間:2018年2月27日~2020年8月2日
ツイート数:427ツイート
※データの集計ルールについては、下記の登場数計上ルールに基づく

主要登場人物(春田、黒澤、牧、武川)登場回数および登場割合

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(2)2019年映画公式ツイート
ツイート期間:2018年12月7日~2020年8月2日
ツイート数:416ツイート
※データの集計ルールについては、下記の登場数計上ルールに基づく。

主要登場人物(春田、黒澤、牧、狸穴、ジャス)登場回数および登場割合

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ここで気づくことは、主役である春田の登場回数がドラマ版で非常に多いことだ。映画では春田の登場回数を減らして狸穴とジャスをその分登場させているようなので、春田の登場割合は減っている。また、映画向けの公式ツイートにおいては、牧とジャス・狸穴の登場数にあまり差がなかったことにも驚いた。
(主要人物5人の登場割合においては、牧の17%に対し、ジャスは15%)
私がここから判断したのは、それぞれの登場人物の位置づけが下記のようになっているということだ。

ドラマ:春田(主役)、黒澤(ヒロイン・二番手)、牧(三番手)
映画:春田(主役)、黒澤(二番手)、牧・狸穴・ジャス(三番手)

ドラマ時にあれほど人気があった牧を映画時になぜ三番手設定のままとしたのか、また牧と狸穴とジャスをほぼ同等の扱いにしたのかについては大いに疑問を感じるが、ここではさらに各ツイートへの反応を見ていきたいと思う。

公式ツイートには1度のツイートで複数の登場人物が登場するものが多くある。そのため、Twitter上でどの登場人物への反応が多かったのかを調べるため、独自の方法での集計を試みることとした。

< ツイート集計方法について>

ここからは、筆者独自の集計方法に基づいておっさんずラブのツイートについて検証していくため、まずツイートデータの集計方法について説明したい。

<対象ツイート>
2018ドラマ『おっさんずラブ』
映画『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』

<データ抽出に関するルール>
2018年2月27日の公式ツイート ”2018年4月連ドラ化決定” から2020年8月2日映画地上波初公開後の公式ツイート ”10月1日よりテラサで先行配信決定” までの約840ツイートを対象とする。
他記事や関係者のリツイートは除いた公式発信のツイートのみを対象
全ツイートにおいて、そのツイートで誰が何枚の写真に登場しているのかをカウントし、独自にイイネポイントを集計した。
イイネポイントとは、そのツイートで獲得したイイネの数を登場人物と登場数に応じて分配したものである。

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<イイネポイント集計例>
例1:春田と牧二人が登場している写真が1つのツイートで1枚掲載され、15,000のイイネが付いている場合➝
春田、牧ともに7,500ポイントずつ獲得とする。

例2:写真が2枚掲載され、1枚に春田、もう1枚に春田と牧が掲載され、15,000のイイネが付いている場合➝
春田と牧の登場割合を2:1とし、イイネポイントはそれぞれ10,000ポイント、5,000ポイントの獲得とする。

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<データ集計のためのその他ルール>
⑴ 各ツイートのイイネ数は2020/9/1-2020-10/02にてカウントしたため、現在の数値とは異なる。また1か月間の幅がある間での数値となる。
⑵ 動画やビジュアルについては初回のみそこに登場した人物をカウント1とする。次回以降は動画(またはビジュアル)×1回としてカウントし、登場人物のカウントには含めない。
⑶ 写真に写っている登場人物が小さかったり、分かりにくかったときは登場数としてはカウントしない。
⑷ ドラマ再放送時や劇場版テレビ放映日に発せられている公式のRTは、2度目ということで人物の登場数にはカウントしない。
⑸ 2018年ドラマおっさんずラブに関わるツイートはドラマ(劇場版公開前の再放送も含む)、劇場版に関しては映画とする。両方について触れている場合はドラマ/映画とする。ツイートがドラマの内容であっても使用されている写真が映画の場合は映画とする。

また、この集計結果を発表する前にお伝えしたいのは、これはあくまでも『おっさんずラブ』という作品における『役』の人気を調査したものであり、出演者そのものの人気を比較したものではない、ということである。そのあたりをご理解いただければ幸いである。


4. ドラマ『おっさんずラブ』での公式ツイートへの反応

それでは、ドラマ『おっさんずラブ』でのツイートについて見ていこう。まず、登場人物ごとにツイートに写真が登場した数をまとめた。
前述したように、圧倒的に春田が多い
牧が写真に登場した数71を起点にすると、黒澤の登場数は牧の1.7倍となり、春田の登場数は牧の3.9倍となる。

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次に各登場人物が獲得したイイネポイントを比較していこう。
ここでも春田がダントツに多いが、牧は黒澤を上回るイイネポイントを獲得している。この集計方法では、登場数に比例してイイネポイントが多くなるのが普通だが、牧が少ない登場回数でも多くのイイネを得ていることがここで分かる。

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また、ツイートされる写真1枚につき、どのくらいのイイネポイントを得ていたか比較したものが下記となる。
(登場人物のうち、マイマイと鉄平の登場回数が非常に少ないため、グラフからは省いている。)
春田の登場回数は前述したように他の人物と比べて段違いに多いため、1写真あたりに得られるイイネの数は抑えられてしまう。それでも、牧が春田を上回るイイネポイントを得ていることは注目すべき点である。

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ここでは牧が "場合によっては" 春田よりも人気を得ていたということを示したが、牧が一人でツイートされていた時のイイネ数は春田と比べてかなり少ない。ドラマで2万以上のイイネが付いている ”牧単独写真ツイート” は3回だけである。
⑴2018年6月2日 最終話放送9時間前、夜の公園で待つ牧  
⑵2018年6月2日 最終話放送1時間前、海を眺めて待つ牧
⑶2018年5月26日 6話放送前、洗濯物をたたむ牧

<参考:ツイート⑴>

それに比べて、春田が単独で写っているツイートはイイネが2万以上ついているものが30回以上ある。またイイネの数も牧に比べて段違いに多い。
この得られたイイネの多さを考えると、やはり春田の人気はダントツであったと言えるだろう。

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<参考:2018年7月10日 #田中圭誕生祭 春田蔵出オフショット>

ここまで2018年ドラマ『おっさんずラブ』の公式ツイートでは、春田と牧が人気を得ていたことを記してきた。
今度は2019年8月に公開された映画『劇場版おっさんずラブ』について公式ツイートで誰が人気であったのかを見ていこうと思う。

<『劇場版おっさんずラブ』登場人物>
2018年ドラマと主要登場人物は同じ。追加の主要キャストは下記2名。
狸穴迅(まみあな じん) ……… 沢村一樹
山田正義(やまだ ジャスティス)………志尊淳

<ざっくりとしたあらすじ>
2018年ドラマで思いが通じ合った春田と牧、二人を見守る黒澤武蔵やその周囲の人物のその後を描いた物語。牧の上司として沢村一樹演じる狸穴が、春田の後輩として志尊淳演じる山田正義(ジャス)が登場する。
途中二人のすれ違いが描かれるが、最終的に春田と牧は永遠の愛を誓い、揃いの結婚指輪をはめた二人が描かれている。


5. 『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』での公式ツイートへの反応

まず、ドラマ『おっさんずラブ』でのツイート検証時と同様、登場人物ごとにツイートに写真が登場した数をまとめた。

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『劇場版おっさんずラブ』においては、春田、牧、黒澤に加えて、牧の上司である狸穴、春田の同僚であるジャスの5人がメインキャラクターとなっている。そのため、春田、黒澤、牧の登場数が減り、その分狸穴とジャスの登場回数が増えている。
映画出演時、各出演者は製作者とメディア登場回数も含めて契約すると聞いたことがあるので、登場人物の登場回数はそれぞれ契約通りなのだろう。それにしても牧の登場数の少なさには驚く
前述したようにドラマ時のTwitterへの反響を見ても、牧の人気は春田に次ぐものであり、なぜ製作側が人気のある牧をより登場できるようにしなかったのか、三番手のままとしたのか、大いに疑問である。
次に各登場人物が獲得したイイネポイントを見ていこう。

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ここでは二つ気づくことがある。
まず一つ目は、春田の獲得しているイイネポイントが圧倒的だということだ。春田は登場回数も多いのだが、他の登場人物と比較して得ているイイネポイントが多い。やはり主役である春田が圧倒的に人気を得ていることがここでわかる。
そして二つ目は牧が得ているイイネポイントが春田を除く他の役よりも多いということである。黒澤よりもTwitterへの登場回数が少ないにも関わらず得ているイイネポイントは1.36倍となっている。また、ジャスとはTwitter上の登場回数はほぼ同じだが、イイネポイントでは1.92倍もの差をつけている。
(前述しているが、ここでは演者ではなく役に対するイイネを比較していることをご理解いただきたい。)
それでは、ここでドラマ時と同様に1枚の写真ごとに獲得したイイネポイントを見ていこう。

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ここでもドラマ同様牧が春田を上回っており、牧への人気が見て取れる
何度も言うが、春田の場合は登場数が他の役と比較して段違いに多いため、どうしてもイイネポイントが分散してしまうという側面はある。しかし、それを差し置いても牧の人気が高いことがわかる。
そして、もう一点ここで興味深いのは、武川とマロと蝶子のイイネポイントが狸穴とジャスを上回っていることである。ここから推測できるのは、Twitter上ではドラマ時から登場している人物がとても愛されていたということだ。狸穴とジャスという魅力的な人物を以てしても追いつけないほど、おっさんずラブファンは2018年ドラマ時からのオリジナルメンバーを愛する思いが強かった、ということが見て取れる。

ここで明らかになったように、SNS上の『おっさんずラブ』ファンは牧に対する思い入れが非常に強い。牧個人というより、春田と牧の二人、そして二人を見守るドラマオリジナルメンバーを愛する気持ちが非常に強い
したがって、2019年の映画公開時にも『公式ツイートへの牧の登場が少ないこと』についてはファンの間で話題となっていた。ドラマ時のTwitter上での反響を見ても春田と牧が人気を得ていることは明白で、その人気に比して登場が少ないことについてファンが疑問を感じることは当然であり、 ”牧隠し” という言葉まで出ていたほどだった。
そこで次に ”牧隠し” は実際にあったのかどうか、公式ツイートにおける牧の登場について見ていきたいと思う。


6.”牧隠し”(公式ツイートにおける牧凌太の登場回数が少ないこと)はあったのか。

ここでドラマと映画双方について公式ツイートにおける牧の扱いの違いを考えてみたい。
まず、2018年ドラマ時の公式ツイートを見てみよう。
牧が一人で登場するツイートは全部で11回あったが、その全てがドラマ放送中(放送前を含む)であった。ドラマ放送後に牧凌太が単独で登場することはなかった。

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また、これらのツイートでの牧は比較的大きな写真が使用されている。この中で一番多いイイネ数が付いているツイートである6月2日の”夜の公園で佇む牧”は既にこの記事の前の部分で紹介しているので、5月26日のツイート”洗濯物をたたむ牧”を紹介しておこう。


では、次に映画向け公式ツイートにおける牧凌太について見てみよう。
牧が一人で登場するツイートは全部で10回あった。ドラマ時が11回なので、回数はドラマ・映画時ともほぼ同じである。またこのうち青塗りしたツイートはオフショを載せたツイートである。

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ここで注目したいことがいくつかある。
(1)初投稿が6月1日と他の出演者と比べて非常に遅かった
『劇場版おっさんずラブ』のクランクインは2019年3月30日であり、4月6日には主演の田中圭のクランクイン写真とも言えるツイートが発せられていた。また、ヒロインとされている黒澤武蔵役の吉田鋼太郎のクランクインについても、4月13日にツイートされている。

しかしながら、牧の姿が公開されたのは、ようやく4月22日の新キャスト・映画タイトル解禁時であった。つまり扱いとしては、新キャストと同じタイミングでの公開ということである。
また、クランクイン報告も無かったということである。

この後も武川やジャス、蝶子、鉄平、マイマイなどドラマ時からのキャストのオフショが次々と公開されていくなかでこの映画に関する牧の情報はツイートされることなく、クランクインから2か月後の6月1日にようやくオフショがツイートされた。

(2)オフショを投稿したツイートが少ないこと。
先ほど牧の単独オフショツイートが11回であったと記したが、単独複数問わず、牧が登場するオフショの数は少なかった。
『劇場版おっさんずラブ』のツイートの中で主要登場人物5人のオフショ投稿は119ツイートであった。下記はその119ツイートを登場人物別にグラフ化したものである。
※119ツイートであるが、人物が複数含まれているツイートもあるため、登場回数の合計は143回となる。

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春田のオフショ登場数が多いのは当然だが、他の主要人物を比較すると牧よりもジャスの方が多いという結果であった。
おそらく映画では牧、狸穴、ジャスの三人を三番手キャストとして同列に扱ったため、その3人の登場回数がほぼ同じになったのであろう。

(3)クランクアップ写真が公開されていないこと。
もう一つ”牧隠し”と言われた理由の一つは牧のクランクアップ写真が公開されていないことがあげられる。
クランクアップ写真が公開されているキャストは春田、黒澤、狸穴、ジャス、蝶子、鉄平、ちず、薫子(天空不動産社長令嬢役)である。

牧以外にも人気のある武川とマロ、マイマイのクランクアップ写真が公開されていないことは事実だが、主要且つ人気登場人物である牧のクランクアップ写真が公開されなかったことは驚きである。
また、同じ三番手の出演者である狸穴とジャスのクランクアップ写真は公開されたのに、牧は公開されなかったことも大いに疑問である。
さらに言えば、このnoteで最初に紹介した『おっさんずラブ』人気ツイートの第2位はドラマ時の牧(林遣都)のクランクアップ写真であった。これは現在でも13万近いイイネが付いている人気ツイートである。ドラマ時を思えば、ファンが牧のクランクアップ写真を待ち望んでいるということは公式アカウントも把握していたはずだが、実際には公開されなかった。そのせいもあるためか、映画のクランクアップツイートで得ているイイネの数は驚くほど少ない。春田創一を含む主要キャストのクランクアップをもってしても得ているのはわずか1.6万イイネである。ファンが求めている牧のクランクアップ写真を投稿しなかったことがこのイイネ数の少なさに現れている、と思わざるを得ない。

(4)9月末以降に投稿された写真の選択がファン目線から離れている。
後述するが、おっさんずラブは9月末にSeason2(S2)として『おっさんずラブ -in the sky- 』を放送することを発表する。そのS2発表後~S2放送終了までに出された牧のオフショはたったの2枚。そのうち1枚は公式本の撮影風景で、もう1枚は他のキャストと比べると驚くほど小さな後ろ姿の写真であり、ファンの希望から大きく離れた投稿内容であった。

ちなみにS2放送終了後は公式アカウントからの発信自体が少なくなったが、『劇場版おっさんずラブ』Blu-ray&DVD発売前と、地上波初公開前にようやく牧のオフショ、しかもファンが待ち望んだ春田と牧二人のオフショが公開された。これはおそらくBlu-Ray&DVDの販売促進のためであり、地上波初放送前に再びファンの注目を集めるためだと思われる。
このことについては制作側の宣伝活動としては極めて当然であると考える。


(5)結論:『牧隠し』(公式ツイートにおける牧凌太の登場回数が少ないこと)はあったのかどうか。
公式ツイートの状況をまとめると『牧隠しはあった』と思わざるを得ない結論となった。
<公式ツイートにおける牧の扱い>
①クランクイン写真の投稿がなかった。
②最初のオフショ投稿が他の出演者と比べてかなり遅かった。
③オフショ投稿数が多くない。
④クランクアップ写真の投稿がなかった。
⑤S2発表以降に投稿された牧のオフショットの選択が悪い(写真が小さい、本編ではないものを使用している)。

この中で③については ”牧のオフショは映画公開前に比較的多く使用され、S2発表後~S2放送終了までは極端に少なかった” というデータがあるので、その点も含めて下記にて説明したい。

7.『おっさんずラブ』シーズン2を巡る流れ

この一連の『牧隠し』の理由を解くカギは2019年秋に起きた『おっさんずラブ』を巡る大きな流れが関係していると思われる。
前述したように2018年に公開されたドラマ『おっさんずラブ』は爆発的な人気を得て、2019年8月23日にその続編である『劇場版おっさんずラブ』が公開されることとなった。
映画は最終的に26億円を超える興行収入をあげ、2019年の邦画興収12位の作品となった。そのため、公開日から1ヶ月過ぎても異例のロングラン上映が行われていた。
そのロングラン上映中である2019年9月26日23時15分、公式アカウントは  ”春田創一と牧凌太。二人の幸せがこの先も続きますように。" とツイートした。(当記事内『おっさんずラブ』人気ツイート第5位参照)
これは『おっさんずラブ』の完結・終了を示唆する内容であったため、ファンの間に動揺が走った。
それから約6時間後である9月27日5時00分、公式アカウントは『おっさんずラブ』の次作として『おっさんずラブ -in the sky- 』を約1か月後の11月2日から放送することを発表した。

ここで発表されたのは春田創一と黒澤武蔵以外は全て新キャストとなり、春田創一が牧凌太以外の他の誰か、と恋をする物語であった。
この発表により『おっさんずラブ』ファンの間でも賛否両論が起こった。
またSNSファンが落胆したのは、公式アカウントがSeason2(以下S2とする)の開始にあたり、今までと同じアカウントを使用し続けたということであった。公式が同じアカウントを使い回すという選択をしたため、S2発表後は『おっさんずラブ』という作品において、主役の春田創一が ”公開中の映画では牧凌太と永遠の愛を誓い、約ひと月後の続編ドラマでは他の人物と恋をする”、という二股状態が続くこととなったのである。
そして、永遠の愛を誓う二人を描いた映画に関するツイートが全く別の恋物語であるS2の宣伝を前面に出した公式アカウントから発せられるという皮肉な事態となったのである。
2019年年初、映画公開と続編制作は同時に決まっていた。

従って制作側では映画後に春田創一が他の誰かと恋をする物語がスムーズに視聴者に受け入れられるよう、牧の影響力を薄める必要があったのであろう。そうすると、公式ツイートの中でも大きく反響があるオフショ投稿についてのタイミングを計る必要があったと思われる。ここで主要登場人物5人のオフショットの投稿数の推移を見ていこう。

1.映画公開前(~2019年8月22日まで)
この期間、Twitterでも人気の高い牧のオフショが春田に次いで多く投稿されている。私の推測だが、人気者である牧のオフショを投稿することで映画の動員にプラスになるという意向が働いた可能性がある。

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2. 映画公開日~S2(おっさんずラブ -in the sky-)発表日
(2019年8月23日~9月27日まで)
この期間は、黒澤に関するオフショ投稿が多くなっている。穿った見方をすれば、春田と黒澤について多く投稿することで、S2にも登場する二人の宣伝を兼ねていたのかもしれない。

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3. S2(おっさんずラブ -in the sky-)発表日~S2最終放送日
(2019年9月28日~12月21日)
この期間は公式アカウントからの発信数も全体的に減ってきているのだが、中でも牧に関するオフショ投稿数は非常に少なかった。

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3. S2最終放送日以降(2019年12月21日~)
引き続き投稿数自体が少ないのだが、牧と黒澤、ジャス、狸穴の登場回数がほぼ同じに戻っていることがわかる。

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時期別に主要登場人物のオフショが登場する割合が変化していることがここで分かったので、それをまとめてみたのが次のグラフである。
主役である春田(緑色)が多いことは当然なのだが、牧(水色)の推移を見てみると面白い。明らかにS2発表時~S2放送中にかけての投稿数が少ないことがわかる。

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ここから推測できるのは、映画公開前には公式アカウントが『劇場版おっさんずラブ』の興収を上げるために牧の人気を利用したということである。映画製作者にとって興収をできるだけ上げることは当然で、その姿勢は十分理解できる。しかしながら、この牧人気は制作側にとって諸刃の剣であった。ファンの熱を春田と牧のカップルから『おっさんずラブ -in the sky- 』へスムーズに移行させるためには牧の存在感を薄める必要があった。そのため、牧に関する投稿を徐々に減らし、内容も薄いものを投稿していくようになったのだろう。ファンの関心が牧から離れていくことを狙って…。
しかし実際にファンの思いは制作側の思惑とは異なるものとなった。ファンの間では制作側の動きに対し『牧隠し』の声が上がるほど牧への人気が高まっていったのであった。ここにきて、公式アカウントとファンの間に隙間風が吹くようになってしまったのである。

思えば、『おっさんずラブ』とは冒頭で説明したように公式アカウントと視聴者アカウントの相互のSNS利用が作品への盛り上がりを支えていた作品である。そのため、この関係の変化は既存のファンの作品離れを加速させる非常に残念な動きであった。
あれほどSNSの運営に長けていた公式アカウントがファンの動向を見誤ったことについてはおそらくSNS担当者の変更という理由もあったと思われる。

2018年ドラマ『おっさんずラブ』でのSNS担当者と『劇場版おっさんずラブ』と『おっさんずラブ -in the sky- 』でのSNS担当は異なっている。劇場版とS2のSNS担当を行ったのは3名のチームで、その中の1名が経営する会社がこの二作品のプロモーション活動も行っているようである。

SNS担当者が変更したことにより、同じ公式アカウントからのツイートでも色合いが変わることは十分あり得ることであるし、『劇場版おっさんずラブ』と『おっさんずラブ -in the sky- 』を同じSNS担当者が担当していたことが、牧の公式アカウントへの出現状況に大きく影響を与えたことは想像に難くない。


8.まとめ~今後の『おっさんずラブ』を考える。

最後に『おっさんずラブ』と『劇場版おっさんずラブ』の公式ツイートがそれぞれ獲得した平均イイネ数を比較してみた。僅差ではあるがドラマ版の方が多くのイイネを獲得していたことがわかる。

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『劇場版おっさんずラブ』についていえば、人気ドラマの続編であるため、ファンを持った状態からのスタートであったが、Twitter上での評価はドラマには少し及ばなかったようだ。

この理由については、筆者はやはりSNSの戦略ミスであったと思う。人気キャラである牧凌太の扱いがファンの望む方向と離れていたことが原因の一つではないだろうか。
牧は三番手の出演者であるから、春田や黒澤よりも扱いが小さくなることは仕方がないが、いくら出演者のSNS投稿数が事前に契約で決められていたとしても、どの写真を載せるのか、どのタイミングで載せるのかはSNS担当者の腕の見せ所だったに違いない。
S2との兼ね合いで苦労したであろうことは理解できるが、『劇場版おっさんずラブ』では結果として牧を生かす投稿ができていなかったと思わざるを得ない。


SNS上でのイイネ数ではドラマに及ばなかった劇場版だが、観客動員数191万人以上、興行収入26億円超を上げたこの作品は映画としては大成功だったのだと思う。
私は別のnoteでこの映画の興行的な成功は、SNSでの熱狂的なファンだけでなく、一般のファンを巻き込んだことによるものだと書いた。その思いは今でも変わらない。なぜなら、仮にこの映画を50回見るファンが2万人いたとしても、観客動員数は100万人、興行収入は14億にしかならないし、Twitterを見ていても、この映画を50回見たファンが2万人もいるとは思えないからである。この視点から考えると一般ファンが喜ぶようなコメディ部分の充実ということがこのコンテンツには重要であることがわかる。

しかし一方で今回公式アカウントからの投稿をまとめてみて感じたのは、SNS上の『おっさんずラブ』ファンが愛していたのは、『春田と牧』『春田と牧のまわりの人々』であるということだった。ドラマで恋を成就させた春田と牧の恋の行方を気にかけ、その二人を見守る黒澤や周囲の人物を愛しているのだ。

私は『おっさんずラブ』のファンであり、この作品を愛している。
『おっさんずラブ』は稀有なラブストーリーであり、人気コンテンツである『逃げ恥』に負けないほど描ける世界の多い物語である。
2021年お正月に放送されたTBS『「逃げるは恥だが役に立つ」新春スペシャル!』を視聴した時、私は羨ましい気持ちでいっぱいになった。なぜならこの『逃げ恥スペシャル』は現在私たちの間で問題になっている様々な事象をコメディとラブを交えて見事に描いていたからである。これこそ私が望む『おっさんずラブ』続編の姿であった。そして、『おっさんずラブ』もまた、『逃げ恥』のように社会を切り取りユーモアと愛で包み込む新しい作品を作ることができるコンテンツであると改めて実感した。
私は上記のnoteでも書いたが、『おっさんずラブ』という作品は多くの一般ファンとSNS利用者である熱狂的なファンの両者に支えられていると考えている。
コメディの側面で多くの視聴者を魅了し、その中に含まれている普遍的なメッセージで熱狂的な視聴者の心をがっちりと掴んで離さない素晴らしいコンテンツだと思う。
2018年に『おっさんずラブ』が人を愛することの素晴らしさを描いてから2年半が経ち、私たちの認識も大きく変わった。コロナ禍も含め、この新たな状況の中で春田と牧がどう二人で生きていくか、そして春田を愛した黒澤がどう変わっていくのか(変わらないのか)そして普遍的な愛とは何か、今を生きるふうふ(夫夫)の姿とは何かをコメディを交えて描けば、間違いなくまた多くの人の心を掴むような傑作ができると思っているし、『おっさんずラブ』の制作陣や出演者にはその力があると信じている。

私はこれからも続編が始まるその時を待ち、毎週土曜日の23時15分に ”わんだほう”(その時間のツイートでの合言葉。ドラマにて使用された乾杯の挨拶)し続けたいと思う。
素人の未熟な分析を長々と読んでいただき、ありがとうございました。
これからもおっさんずラブを応援していこうと心に誓いながらこのnoteを書きました。よろしくお願いいたします。


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