<なつみの本紹介> #5 生きるぼくら/原田マハ
あらすじ
いじめから、ひきこもりとなった24歳の麻生人生。頼りだった母が突然いなくなった。残されていたのは、年賀状の束。その中に1枚だけ記憶にある名前があった。「もう一度会えますように。私の命があるうちに」マーサばあちゃんから?人生は4年ぶりに外へ!祖母のいる蓼科へ向かうと、予想を覆す状況が待っていた。人の温もりにふれ、米づくりから、大きく人生が変わっていく。生きる力に溢れた、力強く、心温まる物語。
感想
本屋に並んでいる、本の背表紙のタイトルだけで本を手に取り、裏に書いてあるあらすじを読む。良さそうだったら目を付けておいて、いろいろ見て回って満足したら、一冊だけ手に取り、レジに持っていく。本屋にいる人は大体この動作をとっていますが、僕はこの作業がとてつもなく好きです。この本、「生きるぼくら」ともその作業の中で出会いました。
僕は田んぼが好きです。他の記事を読んでくださっている方ならわかると思いますが、本紹介以外の記事のサムネイルは田んぼの写真が多いと思います。家の近くに田んぼがあります。幼少期、そこはぼくらの遊び場でした。田んぼの水の中を泳ぐおたまじゃくしを観察したり、成長して田んぼから飛び跳ねてくるカエルを捕まえたり、用水路でザリガニ釣りをしたり。ちょっと大きくなったら、生き生きとした緑の中を走ったり、散歩したり、僕は田んぼで育ったようなものです。笑
何もなかった地面に水が張られ、心地良い風を浴びながらの代かき。夕陽を反射させる水の中にスカスカに植えられた早苗が、いつの間にか水面が見えなくなるほどに青々と大きくなる。緑だと思ってたらクリーム色の稲穂をつけ始め、台風にも負けないくらい力強く根を張っている。カラッとした秋晴れが続いたと思うと、もうそこには何もない。
こうやって時間と共に違った顔を見せてくれる田んぼが、僕は好きです。と、ここまで自分の話をしてしまいましたが、この本はそんな田んぼで、元引きこもりが米を作るという話です。
いじめ、引きこもり、離婚、認知症、、。どれも現代社会において問題となっているテーマです。この作品にはこの全ての要素が詰まっています。この三つのテーマは、たいてい読んでいると重く感じてしまいます。それを極めて柔らかく、優しいタッチで描いたのがこの作品です。引きこもりだった主人公の人生の成長を楽しむと同時に、自分の将来についても考えさせられました。認知症についてです。
物語の中で、主人公の祖母は認知症を患っています。その様子や介護についても詳しく、リアルに描かれています。前にも書いたと思いますが、父方の祖母も、母方の祖母も亡くなっています。祖父は2人とも元気です。だから、認知症と言う病気にふれたことがありません。いつか祖父は自分のことを忘れてしまうのかもしれない。そう思うと怖くなりました。それは父、母にも言えることです。いつかは両親の介護をしなければならない時が来ますが、献身的に支えてあげることができるのか、少し不安です。まあ今からその心配をするのは早いかもしれないですが、考える機会を与えてくれたこの作品に感謝です。
引きこもりが外の世界に出て、仲間に支えられながら生きる力をつけていく。読むだけで生きるパワーがみなぎってくる。そんな作品です。
グッとワード
ねえ人生。母ちゃんはあんたのことを、くだらないともなさけないとも思わない。あんたをいじめる生徒のほうが、あんたよりよっぽどくだらないのよ。あんたを見放した学校のほうが、あんたよりよっぽど意気地がないのよ。あんたを雇ってくれない会社のほうが、あんたよりよっぽど感性がないのよ。あんたはちっとも、なさけなくなんかない。堂々と、自分の人生を、自分の好きなように生きなさい。それで、いいじゃない。
この言葉を読んで、人生そんなに甘くない。なめるな。と思う人がいるかもしれない。僕もそう思います。やりたいことだけをやって生きていくのは不可能です。引きこもりだって、親のすねをかじってやりたいことだけをやっているように見えても、本当は普通に楽しく学校に行ったり、外の世界に出たいと思っているはずです。だから、人間全てが満足のいくようになるわけがないんです。その制約の中で目一杯楽しむ努力をする過程が、生きるってことだと、僕は思います。
あんなに小さな一粒の種籾から、青々と育ちつつある稲、その力。「お米の力を信じて、とことんつき合ってあげなさい」と、米作りを始めるまえにばあちゃんが言っていた。
自然に備わっている生き物としての本能、その力を信じること。すなわち、生きる力、生きることをやめない力を信じること。
「お米の力」という言葉を、「人間の力」という言葉に置き換えてみる。すると、それは「自分の力」という言葉になる。
「自分の力」を信じて、とことんつき合ってあげなさい。自分自身に。
自分自身に向き合うということは大事なことですよね。自分に自信がない人もいるし、自分の力を信じられない人もたくさんいると思います。「自分に自信を持て!」とか、周りの大人に言われますが、だからなんだと思います。まあ僕は自分が好きなので、自信はある方だと思います。自己肯定感高いってやつですね。笑
自信を持つという表現はちょいと抽象的すぎます。自信を持つということは、自分を好きになるってことじゃないでしょうか。つまり、自分が好きでいられる自分に変わろうとするってことです。だから、まわりの目なんか気にしないで、理想の自分を追いかけて、変わろうとする努力をしてれば、自然と自信はつくはずです。
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2021/6/28 読了
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