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<なつみの本紹介> #17 六番目の小夜子/恩田陸

あらすじ

 津村沙世子ーーとある地方の高校にやってきた、美しく謎めいた転校生。その高校には十数年間にわたり、奇妙なゲームが受け継がれていた。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が、見えざる手によって選ばれるのだ。そして今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年だった。学園生活、友情、恋愛。やがては失われる青春の輝きを美しい水晶に封じ込め、漆黒の恐怖で包み込んだ、伝説のデビュー作。

感想

 おもしろいと素直に思いました。初めてと言っていいくらい物語に引き込まれて、文章から目が離せなかったです。サヨコの真相はいったいなんなのか、男女の恋愛模様、すべてに惹かれました。

 三年に一度サヨコが生まれるということは、高校の三年間でサヨコの年に立ち会えるのは一度だけ。それがすでに6人目だというから、15年は続いているということになります。生徒一人一人にとって、高校生である三年間というのは特別なものでありますが、学校という箱にとっては何十年もの間の一つのコマにすぎません。何が言いたいかというと、時間は無限にある。一人一人の時間は限られていても、こっちの意思は関係なしに時間は流れていく。その中で、がむしゃらに何かを掴もうとするかけがえのない時間は、たとえ長い歴史の一部に過ぎなくても、自分の中の大切な時間として死ぬまで持っていけるものなのではないかなと思います。

 「夜のピクニック」と同様、高校が舞台となっている作品です。二つとも、高校生に読ませたくなるような、こちら側に何かをうったえてくるように感じます。他にも恩田陸さんの高校生の作品があったら読んでみたいものです。

グッとワード

 こうして毎日学校来てさ、家帰ってさ、勉強するわけじゃない。でも、勉強っていうのがそもそも非現実的じゃない?物理とかさ、化学とかさ。自転車乗ったり、便所掃除したりするのに、あの物理の法則で走ってるぞ、とか、この洗剤混ぜると化学式でいうところのなんとかが発生して危ないワ、とか考えないじゃん。そういう、空想というかーー空想っていう言葉はまずいか。でもホントは嘘かもしれないもんな。そういう、理論っていうんですか、目に見えないものを毎日机に向かって勉強して、その目に見えないものができるかできないかで大学に入れるかどうか決めるわけだろ。うーん、非現実的だよな。でもこれが現実なんだよね。みんな、今勉強してる内容が全然役に立たないこと分かってる。大学受かったら、いや入試が終わったら一晩で全部忘れちまうこと分かってて、それでも親も先生も頑張れっていうんだよな。そりゃあ、受かったら嬉しいだろうし、親も先生も喜ぶ。でも、それって何が嬉しいんだろ?行くところが決まったから?いいところに就職できるから?四年間遊べるから?じゃあ、落ちたら何がつらいんだ?よく考えると別につらいことでもなんでもないんだよな。ただみんなが寄ってたかってつらいぞみじめだぞとおどかすから、ものすごくおっかないことのように思えるだけでさ。これって不思議だよなあ。

 グッと来たというか、考えさせられた言葉でした。僕は2年前に大学受験というものを経験しました。ただ大学に行きたいという思いで勉強をしましたが、なんのために大学に行ったのでしょうか。大学に入って一年半経ちましたが、今僕が言えるのはこれだけです。大学時代というのは、親に高いお金で買ってもらったモラトリアムである。先のことなんか考えずに、やりたいことをやって、でもやりたいことだけではだめで、あえて気の乗らないことをする必要もあるし、そうやって自分から積極的に動いて、自由な時間を目一杯使った結果、将来の道は開けていくのではないかなと思います。

2021/9/26~30

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