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<なつみの本紹介> #31 カカシの夏休み/重松清

あらすじ

 ダムの底に沈んだ故郷を出て二十年、旧友の死が三十代も半ばを過ぎた同級生たちを再会させた。帰りたい、あの場所に。家庭に仕事に難題を抱え、人生の重みに喘ぐ者たちを、励ましに満ちた視線で描く表題作始め三編を収録。現代の家族、教育をテーマに次々と話題作を発信し続ける著者の記念碑的作品集。

感想

 ノスタルジー。未だにこの言葉を感じたことはない。まだ二十歳だから当然だが。「カカシの夏休み」のテーマは『帰りたい場所』だ。どこに帰りたいのか。それは故郷だ。幼少期を過ごして実家を出るまで住み続けた場所。大人たちはそんな故郷に帰りたいと思うらしい。僕はまだ、故郷になるであろう場所に住んでいる。だからノスタルジーが何なのかはわからない。ただ、大人になって帰りたいと思える場所はもっていたいと思う。そこが存在していても、しなくても、僕の中に生き続ける「故郷」を。そして、帰りたいと思ったら再び読もうではないか、この作品を。

グッとワード

 でも、どんな遺書だろうと、赤堀くんは死んだ。ナレーションやBGMは、一人の子がいじめを苦に飛び降り自殺をしたという事実の重みを百パーセント受け入れて、それを百二十パーセントに高めることだけ考えているようだった。
(未来)
 この番組が何パーセントの視聴率をとっているかは知らないけれど、数え切れない人たちが、いま、自分の子供を赤堀くんに重ねているだろう。ほっとして胸を撫で下ろす人もいるだろうし、不安に身震いしている人もいるだろう。でも、「A君」に重ねる人はいない。「A君」はいつも想像の範囲の外にいる。
(未来)

 先日、お笑い芸人の上島竜兵さんが亡くなった。自殺だったそうだ。ぼくがこの話題に触れていいのか迷ったが、思ったことがあったので綴らせていただく。
 上島さんが亡くなったという報道のすぐ後、あるテレビ局が上島さんの自宅の前から中継をしたという情報を耳にして、絶句した。テレビの人たちはこの死を追悼するよりも、他のテレビ局を出し抜いて早く報道したいという気持ちしかないのだろうなと思った。本当にテレビは、亡くなったという100%の事実を、120%にして報道するために自宅から中継をしたのだ。これを許していいのだろうか。それがテレビだと言われたら、たぶんぼくはテレビが嫌いだ。
 上島さんがこの世に残したものは計り知れない。熱湯風呂、熱々おでん、どうぞどうぞ、などなど。上島さんが亡くなってすぐ、熱湯風呂の企画をしたYouTuberがいた。これ大丈夫か?と思ったが、そこにはただただお笑いとしての熱湯風呂があった。そのYouTuberから直接追悼の言葉はなかったが、リスペクトしているんだということは伝わった。
 上島さん、あなたが生んだお笑いは、これからも永遠になくなることはないでしょう。テレビでできなくなっても、他の媒体に受け継がれていきます。バカ殿大好きでした。安らかにお眠りください。


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